おばあ
「頭が女を攫って来て結婚するらしいぜ!」
そう言って野次馬のごとく集まってきた男達と、嫉妬だろうか?じっとりを遠目に私を睨みつける女性達。
うぅ視線が痛い。
起き上がって、問題なく動くことができた私は、食事と身の回りの事を整えた後、当然とでも言うようにライルに肩を抱かれて島の中を案内・・・もとい連れまわされるのだ。
どうやら彼が客船から女を一人攫ってきて家に置いているという事は、私が眠っている間に島中に伝わっていたらしい。
そこらで囃し立てられながら縮こまって顔を覆いたい私と、上機嫌にそれに応じる彼。
気の毒そうに私を見ながらも一切助け舟を出してくれないディーン。
なんの拷問なのだろうか。
そうして島をあちらこちら歩き回ること数分。「最後に」と彼が言って、小高い丘の家に連れていかれる。
ライルの家のように土づくりの平屋の前で、ロッキングチェアに揺られながら、豆を莢から出している老女の姿をみとめて、彼は手を高く上げると、彼女に近づいていく。
「おばあ!嫁を連れてきたぞ!」
おばあと呼ばれた老人は、私と彼をゆっくりと交互に見比べて。皺が刻まれた目じりを釣り上げた。
「なんだい!ようやく嫁を取りなさったかね!うちの孫娘たちじゃ不満だとは思ってはいたが、そんな細くて白っこい娘が好みだったんかい!」
「おばぁの孫達は威勢が良すぎて、うつけ者の俺には勿体ねぇな!」
「はん!どこのお姫さんを浚ってきたんだか?見るからにいい所の娘のようだが、大丈夫なのかい?こんなガサツな連中ばかりの島でやっていけるのかい?」
ポンポンと会話がなされる中で、彼女が品定めるように上から下まで私を眺める。
確かにここに来るまでに見てきた島の女性達は、よく日に焼けて、肉付きもよく身体もしっかりしていた。そんな彼らからしてみれば、私は痩せすぎているだろうし、白い肌もひ弱に見えるのだろう。
「人聞き悪いなぁ!保護したんだよ!」
そう言って、ライルが不意に私の顎を持ち上げる。
「悪質な婚約者から逃げている所だったんだ。一目で恋に落ちた」
まるで本当に惚れているかのように、私を見下ろすアイスブルーの瞳が、甘く私を見下ろしている。
「っ!」
思わず先ほどの口づけを思い出してしまった私の頬が熱くなるのを感じて、慌てて視線を逸らせる。
「まぁいい、これであんたの身の回りに気を使わなくてよくなったからね!」
そんな私達をどう思ったのかは分からないが、おばぁと呼ばれた老女は、やれやれと言った様子で、立ち上がると、前掛けについた、莢のカスをパンパンと叩いた。
「あぁ悪いね!だだこいつ、育ちが良くて分からないことも多いから、色々と教えてやってくれ」
ライルの言葉に、おばあがまたしてもじっと私を見つめる。
「あんた、できることは何だい?」
「っ・・・パンを焼くことと、護身術と畑を耕すくらいですけど・・・」
「はぁ、使えるんだか使えないんだか、、、とにかくこの島のことはいろいろ教えてやるから明日からここにおいで」
何の抑揚もなくそう言われ、背を向けた彼女は、「用はそれだけかい?今、豆を分けてやるからそこで待ってな!」と言って家の中に入って行ってしまった。
本当に大丈夫なのか?と不安を込めてライルを見上げれば、彼は眉を下げながら肩を竦める。
「あぁ見えて面倒見はいいから大丈夫だ、島の連中は何かあれば、おばあを頼っている。お前も困ったことがあったら相談しろ」