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未遂女と屁理屈男。  作者: 田中正義
1章 未遂女と屁理屈男。
4/44

未遂女、教える。

4話です。

「私?ユキ」


「名前だけかよ。ゆきちゃんって呼べってか」


「きも」


「お前ほんといつかぶん殴るからな」


「えー、そんなに知りたいぃ?仕方ないなぁ」


「いきなりウザすぎだろ」


 少女がニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべて屋上の隅から戻って来る。その後ろを揺蕩う如雨露も心なしかゆらゆらと踊っていた。

 陽の光を反射した目も爛々と輝いて、何がそんなに楽しいのやら。今一捉え所のない奴だな。


 いや、そもそも俺の理解の及ぶ奴じゃない。

 何だよ魔女って。これ以上聞くと頭痛くなりそうだから聞かないが。


月見山(やまなし)だよ、月見山ゆき。特別に"ゆきちゅん"でもいいけど」


 如雨露ごと水ぶっかけられたのを思い出した。


「じゃあゆきちゅん」


「ごめんやっぱユキにして」


「おいヤマナシ。言いたいことありすぎんの我慢してんだから終いには代わりに手出すからな」


「お、犯さないで」


「そのネタやめろ」


 ネタだよな。




 ネタだよな。

 レイプされて自殺とかいう流れだったら重すぎるぞ。


 自殺に重いも軽いもあるのか知らないが。



 考えたら思わず深い溜め息が出た。


「人の名前聞いて溜め息ってなにさ。失礼じゃないかね君」


「すまんが悪いと思えないから失礼とは思わなかった、すまんな」


「どっちなんだよ。君の名前も教えてよ」


「ウィリアム・スミス」


「どーーーーして一瞬でバレる嘘つくかな」


「冗談だ、冗談。お前だって嘘みたいな存在してんだからあいこだ」


「だからどんな理屈なの。私はただのゆきちゃんです」


 ぶーぶーと不平を垂らすヤマナシ。

 掴み所のない奴だ。初対面の割に距離感が近いというか、変に明るい癖に飛び降り自殺しようとしてたし、曰く魔女だし。


 完全に埒外の存在だった。特に最後の部分。

 こんなのがまさか同じ学校にいるなんて、想像だにする訳がない。


 人の形をして通じる言葉を喋ってるのが不思議なくらいだ。


「……待てよ?お前そもそもアレってほんとに自殺未遂だったのか?」


 あまり踏み込みたくないがこいつの訳分からん魔法とやらの話もあるし。


「そうだよ。バッチリ見てたじゃん、今更?」


「おお……。いや、さっきのもただ魔法で飛んでただけなのか、とか思ったんだが」


「飛ぶだけなら出来るか分かんないけど。その後の流れ的に分かるでしょ」


 何を当たり前のことを、と言いたげなヤマナシである。こいつにだけは当たり前とか常識とか言葉にされたくないな。態度だけだから今は勘弁してやろう。


「なんかお前、俺に対して吹っ切れすぎじゃないか?どうにも自殺するような奴に見えなくなってきてるんだが」


 ヤマナシはきょとんとした顔を見せ、まじまじと俺を見つめてきた。

 なぜ分からないと問いかける様な不安気な、正解だと思ってた答えが違かった時の空白のような、そんな顔。


「そりゃ私だって自殺も考えるくらい色々あるんだけどさ」


「おう」


 いたってニュートラルな調子で語る様は、やはり普通の女子高生である。


「もっとショッキングなの見られてるし」


「魔法か?」


 うん、とヤマナシが頷く。


「私的に、変に気にする方がバカみたいじゃん」


「いや知らないが」


 つまりこいつの中では自殺なんかより魔法を見られたことの方が重要度が高い訳だ。

 響きだけなら、女子高生の魔女。物語にでも出てくる面白おかしい主役を張れそうなものに思える。


「ていうか、そもそも飛び降りだって魔法のせいっていうか」


「せい」


「死のうとしたー、なんて家族にも言えないし、魔法なんか人にも言えないし。もうここにいる君でいっかーって。話聞いてくれるって言ったじゃん」


「確かに知ってる他人より知らない他人の方が楽な時はあるな」


 ネット上とか、特に。


「ていうか名前、教えてよ。君の名前」


「     」


「え、なんて言った?」


「聞こえなかったのか?二度は言わんぞ」


「いや言ってねーだろ今の、完全に口パクだったろ」


「お前なぁ、ちょっと考えれば分かるだろう」


 そこで俺は少し間を置いた。

 ヤマナシが何だよ、という顔を向けてくるが全く気付いていなそうだ。


「ここで話を聞く分にはいいだろう。俺も今日の昼は丁度暇だった。だがな?」


「だがな?」


「お前みたいなのに名前覚えられんの嫌に決まってるだろう」


「はああああああああ????」


 黒い目を大きく見開き、器用に髪を逆立たせるヤマナシ。これも魔法だろうか。


「魔法ってなんなんだ?」


「今の流れでそこに話題飛ぶ?飛んじゃう?名前の件終わってなくない?」


「いやー、怒髪衝天なんて言葉があるが器用に再現してるなぁと」


「普通に!怒ってんだわ!今は魔法使ってないわ!」


 あまり深く知りたくはないが、興味深いな。


「魔法使うとこう!こうなってなきゃ普通!」


 ヤマナシが手を触れずに如雨露を持ち上げてみせる。

 何が違うのかと伺ってみればヤマナシの瞳が違う。


 さっきまで黒い目を見開いていたのが、今は日の光を受けてきらきらと輝いているように見える。


「目力凄まじいな」


「他に言うことないのかよぉ!!あ、でも結構マシかも」


「綺麗だが、正直気味が悪い」


「正直のあといる?」


 地団駄を踏むヤマナシ、情緒不安定な女である。

 俺はこいつの扱いを適当に流すことに決めた。


「まぁ、人は未知に惹かれるものだろう。そういう意味では気持ち悪いというのもある種褒め言葉だ」


「気味から気持ちに変わってない?綺麗だけでいいじゃん」


 ゆっくりと如雨露を下ろすと、ヤマナシの目の色も黒に落ち着いていく。


「綺麗なものは綺麗だが、お前、俺が素直に女子を褒められるように見えるか?」


「キャラは分かるけどそもそも君の名前もまだ知らないんだけど」

ゆき命名、じょうろの名前は「ぱおん号」

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