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未遂女と屁理屈男。  作者: 田中正義
1章 未遂女と屁理屈男。
21/44

未遂女、知られる。

21話です。

 入ったのは、安さが取り柄の外食チェーン。

 お互い食にはあまり拘りがないので、財布に優しい学生の味方には存分に味方してもらおう。


 なんだか休日にまで月見山と二人でいるのが落ち着かない。

 なまじ昨日クラスの友人達と出掛けただけあり、特別……というわけではないが、正面に座るのが月見山であることの違和感がすごい。


 屋上の隣り合わせ以外で昼飯を食べるのが初めてだからかも知れない。間にテーブルがあることに違和感を感じるなんて、青空に慣れすぎているにもほどがあるな。


「谷坂君何食べるの?」


「パスタ。お前は?」


「ドリアと……ハンバーグかなぁ……いやでもピザも食べたあい!」


 メニューと睨めっこすることかれこれ数分、未だ注文の決まらない月見山であった。よほど腹が減ってるようで、炭水化物に合わせる炭水化物を悩み続けている。

 消去法でパン類を外して軽めのパスタにした俺とえらい違いだ。朝のサンドイッチ食べなければ良かった。


 まだ昼には早く店内も混雑はしてないが、水だけもらって注文しないまま席に居続けるのは何となく気まずい。なので、唸る月見山に水を差すことにした。


「じゃあ俺がピザにするから、一切れくらい分けてやるよ」


「マジ!?谷坂君天使!」


「やっぱパスタのままにするか」


「ウソウソじょーだん!ウソじゃないけど!いいの??」


「朝パンだったからな、重くなけりゃ何でもいい。腹減ってんだろ?」


「人を食いしん坊みたいに……空いてますけども」


「ピース分割り勘な」


「もちろん。ありがとー!」


 じゃあ何にしようかな、とハンバーグの種類を悩み始める月見山。即決しないのかよ。



 まぁいい。

 今日という日はそもそも気まぐれで始まったんだ。

 まだ前哨戦の昼飯である。とことん付き合ってやろう。




 のんびりと食べ進めていると、時間は正午をいくらか回っていた。


「お前、食べるの遅いよな」


「あ、ごめん。お待たせしております」


「別にいいが。いつもパンと茶か野菜ジュースくらいだろ。よく食うな」


 今も切り分けたチーズインハンバーグを口の中に入れてもごもごと動かしている。

 思えば普段の昼だって、たくさん食べるように見えて俺の半分の速度になっていた。口が小さいのかも知れない。いっぱいに頬張ってもその量が少ないのだ。


「流石に朝早かったから。学校は、あんまり体力使わないからお腹減らないけど。修行はそうもいかないし」


「修行って何してるんだ?滝行とか?」


「滝は……昔やったことあるけど、今は普通の修行だよ」


「世間一般的に修行って言葉に普通のって修飾は付かないからな」


 ていうか滝行、あるのか。この辺に滝なんてあっただろうか。少し離れれば山だってあるだろうが、聞いたことがない。


「おばあちゃんは昔やってたみたいだけど、戦ったりはしないよ?魔法の使い方みっちりやるくらい」


「前提がぶっ飛んでるせいで聞くもん流れてくわ」


 戦うって、何とだよ。魔法の使い方すら一般的な人間には分からんし。


「ずぅーーーっと集中!って感じ」


「お前ほんと説明下手な。そんなに興味もないからいいが」


 俺に使える訳でもないし。月見山を見ていると、あまり使おうとも思えないし。


 しかしその後も月見山はいかに修行が大変か語り聞かせるのだった。余程鬱憤が溜まっているらしい。

 話を聞いてやってると修行の内容への愚痴がほとんどで、怖い怖いと言いながらもおばあちゃんへの悪口はない。なんやかんやで同じ魔法が使える家族は大事なんだろう。家族の共同体意識とも違う、師弟関係の慕情も見受けられる。


 そんな普通と違う非日常を生きる月見山だからだろうか。余計にこうして二人で普通の遊びに繰り出すことに生まれる違和感が、気持ちと共にと不思議と浮き足立つのだった。




 店を出て、いざ本命のカラオケに向かってみようと通りを歩こうとした段になり。


「混んでるかなぁ」


「日曜だしな。何時間がいいんだ?」


「ウチ、あんまり遅くなれないから夕方くらいかな」


「ああ、なら三時間とかにすれば入れないことはないだろう」



「あれ、谷坂くん?」


 月見山ではない声に振り向くと、そこにいたのは。


「先生。どうもです」


 いつもの甘い香りを漂わせた、ハルちゃんだった。教師としてのカッチリめの服装ではなく、ゆるっとした私服で大変可愛らしい。いつもと髪型も違い、上品な大人らしく見える。


「あらー、あらー?月見山ちゃんも一緒?」


「……っ!こんにちわ」


 月見山は突然の教師の登場に驚いているようだ。まごつきながらもやっと返事をしている。前にも思ったが、外面はいい子ぶってるんだろうか。


「もしかして、声かけちゃいけない日だった?」


「だからそういう関係じゃないですよ。たまたまです、たまたま」


「たまたま二人でデートぉ?」


 やるじゃん谷坂くん、と目が語っている。


「違いますって。飯食って遊び行くだけです」


 たまたま月見山と二人になってるだけだ。デートとは、一般的には懇ろな男女が出掛けることだろう。……あれ、これって。


「……煽った先生が言うのもなんだけど、それ、デートじゃない?」


「……ノーコメントで」


 先生が苦笑いを浮かべる。お互いに藪を突きあってしまった。確かに関係性はともかく事実だけを見るならば、デートと呼ばなくもない、んだろうか。

 しかし、月見山(こいつ)とか。相手にはやや不満が残る。


「でもまぁ、デートではないです。そういうんじゃないですから」


「きゃー、いいわねぇ。皆には秘密?」


「秘密も何も、です。無いですから、まず」


「あらー、釣れないのねぇ」


 んふふ、とハルちゃんが笑う。よく女子生徒と恋バナをしてる時の顔だ。まさか自分がその手の話をする時が来るとは思わなかった。


「先生はお一人ですか?」


「その聞き方はちょおっとよくないかな。『お出掛けですか』だけの方が角は立たないよ。先生はこれからお友達とご飯です」


 二言三言交わすと、羽目を外し過ぎないようにと教師らしい釘だけ刺してハルちゃんは行ってしまった。ハルちゃんは部活の顧問も持っていないし、この辺りで他に栄えてる場所も少ない。こんな邂逅もあり得る話ではある。


 しかし。


「お前、ほんと借りた猫な」


「だって、先生って緊張するじゃん」


 確かに担任だから、月見山より俺の方が距離が近いのはあるのかも知れない。

 しかし大概の生徒と仲良く話せるハルちゃんである。いまいち俺の前以外の月見山を知らないからかも知れないが、大人しい月見山の姿は新鮮に映った。


 今日は図らずも、月見山の知らない面を知ってしまう日なのかも知れない。

彼氏と会うとは言えない女教師の図。体面のためか、事実だからか。ハルちゃんのみぞ知る。

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