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未遂女と屁理屈男。  作者: 田中正義
1章 未遂女と屁理屈男。
20/44

未遂女、早まる。

20話です。

 朝起きた時に感じたのは、疑問だった。



 なぜ俺は今日月見山と出掛けることになっているんだ。



 眠さと衝撃に彩られていた昨日の記憶を一つずつ思い出す。


 昼飯を食べて、カラオケに行く。

 それだけであれば昨日道井たちと過ごした時間とさして変わらない。


 しかし月見山とはいえ、女子と二人きりだ。俺の人生の中でもそのようなイベントの経験はない。女友達などそういないので、デートなどと言う気はないが男友達と遊びに行くのとは訳が違うのだろうか。



 ……面倒臭い、ドタキャンするか。



 そう思ってスマホを開くと、


『月見山友紀:お日様〜』

『月見山友紀:(太平洋から昇り始める太陽の写真)』

『月見山友紀:お出掛けまで修行です』

『月見山友紀:(引き攣った笑顔の少女のスタンプ)』


 流石に哀れだった。

 仕方ないので、遊んでやるか……。


 待ち合わせの時間までは結構ある。

 我ながら昼まで寝ているかと思ったが、身体は意外と規則正しい。


 軽くパンでも食べておこう


 昼飯も食べる予定になっていたが、まぁ、大丈夫だろう。




 集合は正午だったが、暇だったので古本屋でも潰すことにした。時間まではまだ一時間以上もある。

 昼前の電車はあまり多くないので、どちらにせよ極端に待ち時間が長いかややギリギリの到着になるかの二択だ。それならば待って本でも読む時間を作る方が望ましい。


 ガタゴトと線路に揺れる音がする。


 電車に揺られながら、昨日も往復した市の中心の駅に向かっていた。

 流石に休日までポケットに本を入れているわけでもないので、移動時間は手持ち無沙汰である。外界の音を遮断し過ぎるのも好きではないので、ぼーっと窓の外を眺めて煩い環境音を聞き流すのであった。外は生憎の曇り模様である。

 あまり見てて面白い景色でもないので、ドアの脇に寄り掛かりながら車内にふと目線を回した時だった。



 ここ数日で見慣れた面が、車両の前の方に座っているのがチラリと見えた。



 慌てて視線、というより顔ごと向きを戻す。


 月見山だった。


 同じ路線を使っているので、こうなる可能性がないわけでもない。なぜ慌てたのだろうと考えれば気付かれれば面倒臭いからな他ならない。

 俺だって時間を潰すために早い電車に乗っているんだから、月見山も同じようなことを考えていても不思議ではないものな。


 何となく気まずい空気を感じながら、残りの電車時間を過ごすのであった。



 駅に着けば、月見山が降りるのを確認してやや後ろに続く。待ち合わせをしている相手だが、時間はまだだ。お互いあってないような用事もあるだろう。

 十メートルほどを空けながら改札を通れば、月見山は迷わずに待ち合わせのエキナカギャラリーへと向かって行った。

 まさかと思いそのまま後を尾けると、奴はあろうことかそのまま立ってスマホを弄り始めたではないか。


 マジかよ。


 流石に俺のスマホに『着いた!』なんて送ってくることはないだろうが、マジか。

 待ち合わせまではまだ一時間もある。

 お前、待つのか。


 声をかけるべきか迷う。


 予定通り古本でも読んで時間を潰しててもいいが、その間あいつはここで一時間も立っているんだろうか。


 遠目に眺めて悩んでいると、そこで今日なぜ月見山と出掛けることになったのか思い出した。

 今日は哀れな月見山と遊んでやるための外出だ。

 俺の中の徳川綱吉が生類憐れみの令を出している。頭の中に犬猫と戯れる月見山の姿が浮かんだ。そのままボロボロにされてしまえ。



 溜息一つを足がけに、未だ俯きスマホを眺める少女に声を掛けた。



「おい」


「ふぁい!!?」


 月見山がビクリと大きく震え、慌ててスマホを取り落としそうになりバタバタと暴れる。


「やぁさかくん!?」


「早過ぎだろ、いくらなんでも」


「え、谷坂君!?」


「動揺しすぎだろ、文句あんなら帰るぞ」


「ちょい!待ち!」


 月見山はぱたぱたとスマホをしまい、分かりやすく深呼吸すると息を整えた。


「こんにちわ」


「おう」


「え、まだ時間あったよね」


「こっちの台詞だ。何一時間も前からスタンバってんだよ」


 月見山は落ち着きながらも、まだ頭の中は混乱しているようだ。


「谷坂君もご機嫌よう?」


「何キャラだ」


「だって、早くない!?谷坂君だって人のこと言えないじゃん!」


「俺は古本でも行こうと思ってたんだよ。お前電車降りて直でここ来たろ」


「え、見てたの!?ていうか同じ電車?声掛けてよ!」


 俺も墓穴を掘ったか。いやこの際どうでもいいか。


「面倒」


「そういうとこ」


 すんと態度を一変させた月見山だが、やはりどこかそわそわとしている。

 俺と足元をちらちらと、視線を見事に泳がせている。どうでもいいか。


「で、どうするんだ?」


「どうするとは?」


「図らずも集まってしまったが、俺は別に予定通りの時間でもいいんだが」


「ほんとそういうとこ。いいじゃん、行こうよー」


「いいけど、どこにだ?飯には早くないか?」


「私全然食べれるよ!なんてったって五時には食べてるからね!食べてるからね……」


 月見山の目が昏い光を宿した。そういえばこいつ、朝から修行とか何とか言ってたな。

 正直俺は普通にサンドイッチを摘んできたのでそこまで腹が減ってない。


「じゃあ、適当なとこにするか。ファミレスでいいか?」


「もち!お腹空いてるからどこでもいいよ!」


 そのコンディションで一時間待とうとしてたのか、こいつは。


「というかお前なんでこんな早いんだよ」


「そ、れは、あれよ」


「どれよ」


「……修行サボれるし」


 そういえばコイツ、ちょっと待てよ。

 おばあちゃんにバレそうになって修行させられてるってのは当然、ここ最近の騒動に絡んだ話なわけで。

 その修行をサボってここに来ているっていうのは。


「お前その修行とやら、真面目にやった方がいいんじゃないのか?いや、本気で」


 月見山はそこで、腕を組んで唇を尖らせた。


「私もその方いいのかなーって、思わなくもなかったんだけど」


「けど、なんだ?」


「こないだの早送りの魔法とか、修行より谷坂君と会う方が良いのかなって」


 月見山はいつも通りに、へへっと愛想笑いをして見せた。


「じゃあ早いが飯行くか」


「今の流れ全スルーするじゃん」

月見山は最寄り駅から市街まで30分かからないくらい。谷坂は20分かからないくらい。

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