回転寿司
スミオが言い出した。
「今日は回転寿司へ行こう」
「ガラガラ〜すいません、二人〜」
「はい、いらっしゃい〜」
「何食べる? 俺はとりあえずタコとネギトロ」
スミオは間髪入れずに話し出した。
「はい、あがり〜」
「はい、ガリや〜、あ、カニみそ汁もお願いします」
「私はゲソとイワシお願いします」
寝転んだ体勢で、くるくる回転しながらボコリが言った。
「もぐもぐ、もぐもぐ、ん、、、、、、なかなか噛みごたえがあっていいタコやなぁ」
「はい〜ゲソ、イワシお待ち〜、カニみそ汁お待ち〜」、「もぐもぐ、もぐもぐ、次は何にしようかな〜」スミオも回転し出した。
「お前、ゲソ好きやな〜なんか、お腹いっぱいなってきた〜ストレッチして寝〜よお」
おやすみや。
ボコリもくるくるしながら静かになった。黄色とピンクのボーダーパジャマはまるで南国の熱帯魚みたいだ。スミオは毎週末、眠る前に枕元でボコリを色んな所へ連れて行ってる。先週は中華料理屋、昨日は蕎麦屋だった。アルバイトが首になってから、ぼんび〜状態に陥ってしまい、ボコリの世話になって5ヶ月が過ぎていた。今日も今度は受かると、たかをくくって余裕で待っていたクリーニング屋のアルバイトの電話はなかった。
スミオはいつも人やお店の隅にいるのでスミオ。
ボコリはいつも被っているニット帽子の、其のわたぼこりが髪に付いているのでボコリと呼ばれていた。
ボコリの家に来てからスミオは、毎日ボコリが作るカレーを食べて、ロックな詩を書いては、フリーマーケットや街角で売っていた。スミオはインド料理が好きなので毎日満たされていた。詩を書くスミオはいつもターパンを頭上につけて、十二弦もあるギターを膝もとにおいて書き始めるのだった。
彼は友人とロックバンドを組んでいて、毎日おんぼろギターを両手に抱え、指で撫でつけるように弦に触れていた。二人でいる時は図書館で借りてきた本を広げて、お互いの空想を語り合っていたのだった。そして毎日ボコリが入れる珈琲はスミオをユーラシア大陸へバーチャルさせるのだった。
「スミオ、動物で何が一番好きなん」
「そーやなー、ゴリラかな〜」
「なんでゴリラなん」
「そーやなー、わかりやすいからかな〜」
「わたしはキリン。アカシアの木の実を食べるとこ、見たいわー」スミオはちゃぶ台に置かれている百円ショップで買ったスナック菓子を、ごそごそと一つ取り出し、おでこの高さにあるカセットデッキの上に置いて首を伸ばして食べ出した。
「こうやって食べていると首が長くなるかもなー」
「ゴリラになるんちゃう?」
「ん、ゴリラになってジャングルを守る動物の詩でも書こうかな、キリンやとベランダで昼寝ができへんしなー」
「昼寝と詩と、どう関係あるん?」
「俺の詩はベランダの昼寝と喫煙から、珈琲の香りと共に生まれるんや」
「スミオ、なんか妄想してへん?」
「いたって健康や」