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序章 『街や僕について』

 とある田舎町。

 山々に囲まれ、昔ながらの住宅が並び、川の水は底が見えるぐらいに澄んでいる。

 そこは都会の喧騒、せわしない日々を横目に、ゆったりとした時間が流れている。


 夏には花火大会が開かれ、冬には屋根に上り雪かきする人々で白い屋根に転々と防寒着のマーブル模様が見え。

 春は桜が咲き誇り、秋には山々が紅葉やイチョウで競ってお洒落しゃれする。


 静かながらも、そこには確かに四季折々の心の情緒なるものがあり、それは住民の心を楽しませていた。


 舞台はそこより少し、街に出たところ。

 上述したところよりは僅かに利便性がある。でも都会住まいには、まだまだ田舎感拭えぬ場所だ。


 スーパーがあり、コンビニもある。

 一応、川には魚もいる。水もきれい。

 木々は四季に応じた衣替えをする。

 人々の歩みはのんびりしており、未だに奥様の井戸端会議の様子をごろうずることができる。


 時代から二歩も三歩も遅れた街、である。


 しかし確かに人々がムートゥーブなどの動画を娯楽とし、人工知能の技術開発を各国が競い合い、ドローン飛び交う現代に存在するのだ。


 だからなに? 田舎じゃない。

 存在してもしなくても、変わらないような。

 しかも日本の食糧事情は実質海外に依存しつつある状況下で、別に第一次産業が途絶えたところで困りはしない。

 あってもなくても困らない、そんな街。


 そう主張されても、僕は困ってしまう。

 何せ難しいことは何一つわからないし、世界情勢という言葉からはもっとも縁遠い存在なのだから。


 第一、僕は人間じゃない。

 じゃあ誰だ?

 と訊かれたら、僕はこう答える。

 黒茸くろたけだと。

 人は僕を黒茸さんと呼ぶ。


 実は僕、町内では結構有名なのだ。

 何せ、見た目が人間とはちょっとばかし違う。

 いや、それは正確じゃない。

 かなり違う。メッチャ違う、と言っても過言ではないだろう。


 キノコを思い浮かべてほしい。

 傘を持った、食用のあれだ。

 品種は……ううん、そういう名称を出すのはよくないか。キノコに対して失礼だ。


 とりあえずくきは黒っぽいのがいい。それはシワのついた皮のようなものを被っている。で、なんか青やら赤の線みたいなものが出っ張っている。

 傘は先端に行くにつれて紅くなっていく。

 普段はへたっているけど、興奮するとピンと背筋が伸びて、体が太くなる。そして体温が上昇する。傘が開く。目つきも若干鋭くなるかもしれない。まあ、目がどこにあるのかわからないってよく言われるけど。


 腰の辺りに丸いものがついている。これは僕の急所だ。なぜか目立つ場所にあるクセに、ここに刺激を受けるとものすごく痛い。

 バカみたいな体の構造だが、僕だって望んでこうなったわけじゃない。まったく、イヤになっちゃうね。


 それから、その近くにもじゃもじゃって毛が生えている。

 縮れ毛だ。これはコンプレックス。だってカッコ悪いからね。剃っちゃいたいけど、そうするとこれまた見てくれが悪い。あっても不格好、なくても違和感。だから気に食わないけど放っぽっておくことにしている。本当、イヤになっちゃうな。


 手と足も生えてる。

 当然だ。それがなければ、歩くことも、ものを持つこともできやしない。いや、そうでなくても生きている動物はいるけど、地上で人間と同じように生活するには、やっぱりそういうのは必要でしょ? 超能力が使えるなら、話は別だけど。

 口? ああ、あるよ。近所のみんなは、知ってる。

 だってコンビニでよく、次●系ラーメンとか買ってるもん。口がなくちゃ、食べれないだろう?


 で、これが一番の特徴と言えば、特徴かもしれないけど。

 僕には、たくさんのぼやけた四角みたいなのが被さっている。

 三百六十度、どこからも。

 そのせいで誰も、僕の本当の姿を見ることができない。


 だから別に見た目なんて気にしなくていいんだけど、いつかその四角形が消えた時のために毎晩乳液を体につけることにしている。それから天然由来のオイルも。ちゃんと毎朝洗顔もしている。

 困りものなのが、そういうことをしているとなぜか興奮して体が熱くなってしまうこと。まったく、本当にこの体は不便極まりないな。


 ともかく、これから僕と君は長い付き合いになるのだから、僕の姿はよく覚えておいてほしい。

 頭の中にしっかりと、黒茸さんのことを思い描いてほしいんだ。


 それじゃあ、また今度。

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