ハレ
お道化た表情が私を擽る。自己の胸墻の遥か上とは言わないが大きく羽根を広げて飛ぶそれは雄と言えるだろう。
丁度、午後。煌めく太陽は柔らかに溶け出す。青い光へと消えゆく。ブロークンオレンヂペコーのダアジリンの紅茶でミルクティーを作った。爽やかな薫りとミルクの仄かに香る甘露さが嫋やかに玲瓏する。その幻想的な空間で私が生きていることはとても言葉ではいい表せない。全ては私の為、余りにも身勝手な利己的な考えだ。それでもこの不可思議はわたしの心を揺れ動かす物に成ってしまっていた様だ。これが人間の一切ではないだろうか。素晴らしいことじゃないか。今、この世界が破滅したとしても愛しい誰かに刺されてとしてもきずかないぐらいだろう。こんな感じで生きていければいいだろう。
空に浮かぶ雲に手を合わせてこの世の全てに祈りを捧げる少女が見えた。黒く陰った私の窓際に景色の一部として彼女はまるで絵画の中の看板のようだった。深いシトラスの海の人掬い、美麗に流れるその金髪はどこか懐かしい面影をふくんでいたのだ。写真の中でしか生きられない一滴が、彼女を呼び止めているようにも思えた。俄かに彼女はゆっくりと立ち上がりその場で地団駄踏み始めた。そうするとどうだろう。強健なコンクリイトが様々なパステルカラアに染まっていく。彼女がプリズムとなりながらこの詰まらない黒いキャンパスに思い思いに色を侍ていく。静かな森が目の前に現れた。対照的に彼女は高く高く昂っていた。
舞を結う。彼女は絵に溶け込んで踊り始めた。少し危なげなそれは純粋な彼女の気質と周りの木々が一緒に踊っているせいであるだろう。皆々、一様に踊る、踊る。そして其れにつられて周りの石っころも手拍子し始めた。良く言えば、混沌、カオス。悪く言うとごった煮。だが其れがいい。つまらない現実など滅びゆくだけだ。気付けば、だんだんその舞も祭りと化していた。どんちゃん騒ぎでくらくらする。注いだミルクティーにもその影響は出始めていた。淡い花のような色彩が濃い赤になったり、真っ白、元のミルクの様に成ってしまっている。森から飛び出す音符が私のミルクティーにじんわりじんわり浸み込む。甘い甘い音符たちの拍子は初めて煙草を吸った時に似ていた。ごほとむせる。咳き込む。げほげほ。吐き出し終わって気が楽になったころには大分小石たちもいつもの位置につき始めていた。それに続いて舞姫も少し覚束ない様子で座り込んだ。そのまま影のほうへ体を引き摺りながら倒れこむようにして目を瞑った。