観覧車は年下の男の子と
恋のはじまりの振幅は素晴らしいですね
揺れ動く心情を 丁寧に描きました。
デートに行きたい でも観覧車はこーわーい。
ハリネズミのジレンマを彼女はどう乗り越える?
町の小高い丘に観覧車が出来ました。
南側を見れば海が見え、
遥か彼方水平線の際まで見ることができます。
水平線の端を見たことがありますか?
水平線の端はゆるいカーブを描いて 地球が丸いんだ、
ってわかる瞬間です。
その観覧車はとっても大きくて、
町の観光名所の1つになりました。
夜には支柱や鉄骨のLEDが鮮やかに輝き
ちょっとしたライティングショーの様でした。
発光する青白い光は幻想的で 町中からその美しい景色が見えました。
町のランドマークになった観覧車には今日も沢山の人が並んでいます。
職場の男の子に誘われて
来週 観覧車に行くことになりました。
なんと2人きり!
何人かで出掛けた事はあったけどさ。
え?観覧車?い、良いけど⋯⋯
急に言われて、どもっちゃった ワタシ。
あれ 私、OKしちゃってるじゃん。
ヤバい、デートだ どーしよデートだ。
彼は新入社員で 私は2年目、私の部署とは全然違う部署だし 会う事も無かったんだけど、大きな会社だから新入社員も多くて ビルの中で迷子になる子達も多くて。
で、彼はビル内で迷い子になって私の居るフロアでウロウロしてる所を 同僚が道案内してあげて それから何となく話をするようになった。
あ 「彼」じゃないけど。
ってよく考えたら観覧車行きませんか?って
高校生じゃないんだからさ。
デートの中の行き先の1つが観覧車じゃないの?普通。観覧車が目的地って子供かよ もう。
どーしよ 何、着て行こう。
パンツ?パンツでいいよね 私脚太いし。
友達に言ったら「スカート一択」だって。
マジか 学生の頃のすごいミニしか無いわよ。
ああもう 帰りにどこか寄って探してこよう、
大きい花柄の入ったガーリーなヤツ!
お姉さんぽいやつ。
上はニットだと暑いかな
お気に入りの大きめオフショル着て行こう。
靴、靴どーすんの靴、
可愛いスニーカーでいいかな?
やっぱ靴も帰りに見てこよう。
髪!髪は?やっぱ男の子受けは
くるくるフワフワの巻き髪だよね。
当日巻くんで良いかな⋯⋯
っていうか美容院行ってる時間無いもん、
巻くしか!だね。
いや、いやいやいやいや、
よく考えたら そんな事より、そんな事より大事な事がありましたよ!
乗れない。
乗れないじゃんワタシ。
観覧車怖くて乗れないよ。
高所恐怖症だもん。
なんで?
なんでよりによって観覧車なの??
同じ高い場所でもジェットコースターの方が
100倍マシだよー。
ジェットコースターは
ガタンガタンって登って行く時は上向きだから空と手すりのバーしか見えないし 頂点に行ったらあとはキャーキャー悲鳴あげてれば、殆ど一瞬で終わる。後はスピードに振り回されるけど 高さを感じる事は無いもんね。
でもさ 観覧車は違うのよ。
ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくり
ずーーーっと亀みたいなスピードで稼動してさ、
自分のゴンドラに繋がってる鉄骨が円心にまで繋がってるのを見るのも怖い。
どんどん小さくなる地上の建物。高さが半分を超えてくると風もめちゃくちゃ強くなって、今にも骨組みが折れるような気がする。
私は青ざめて無口になって 身体中に嫌な汗をびっしょりかいて硬直してる。
中にはゴンドラの中を動いて席を入れ替わったりする頭のオカシイ人もいるけど、意味が分からない。
私は本気で殺意を抱く。
蒼い顔で手すりを握って
ガッチガチに硬直してるけど。
汗びっしょりだけど。
どうしよう。
せっかくのデート(?)なのに
頑張ってオシャレしました感満載の年上女が
真っ青な顔して全身脂汗かいてお尻の穴まで汗びっしょりなんて あまりにもカッコ悪い。
というか挙動不審。むしろ不審者。
そう思って 別の場所を提案したのにヤツめ
あっさり却下。なんだよー可愛い年下キャラじゃなかったのかよー。
どーするどーする
友達に言ったら爆笑してた。
私、本気で困ってるのに。
くそう、この屈辱はメモして忘れない。
「1人で乗ってきて」
いや、無理だ。
無理だよね、そんな女いるかっつーの。
どうしよう。
どうせ目を開けてらんない。
ぎゅう と目をつぶって ひたすらその地獄が通り過ぎるのを待つ時間になるわ。
ああもう全然ロマンチックじゃない。
もうこんな時間、お店閉まっちゃう、急がなきゃ。
スカートも靴もすごく可愛いのと出会えた。
うん、大人かわいい。
カード一括で買っちゃった。
あー高所も怖いけど支払いも怖いわ。
とりあえず戦闘服は揃ったわよ。
あとはネットで恐怖症を克服する方法でも探そう。
ヨガでも気功でも催眠術でも何でもいいわ、
誰か私をなんとかして。
で、
結局、何の解決策も無いまま
当日になった。
髪も綺麗に巻けたし
メイクもうまくいった。
自分的にはかなり良い感じになりましたよ。
ふんわりしたスカートが可愛いしさ、
うん、可愛いよワタシ。
待ち合わせには 10分前に着いたし
彼(?)もいつもにも増して爽やかだ。
多分爽やかさ15%増しだと思う。
乗る前にさ
「高所恐怖症なの」って伝えたらさ
「手を繋いだら 怖くないですよ」だって。
ああもう 地上だとさ、キュンて来るセリフだけどさ
実際ゴンドラの中、遥か上空のワタシは全然ロマンチックじゃないのよ!冷や汗、アブラ汗ダラダラの青ざめた挙動不審女なんだから!
なんだよ ニコニコ爽やかな笑顔でスルーかよー。
内心そう思っても
乗るしか、だよね。
私たちのゴンドラが来て 乗りましたよ
外側に彼(?)内側に私。
予定通り私無言。
ああどんどん下界が遠くなるー。
怖い怖い怖い怖い怖い
もう頭の中はそれしか無くなってた。
目をぎゅうと閉じて 体ガチガチ 全身アブラ汗。
なんだよ
手を繋いだら 怖くないですよ、じゃないの?
手、繋いでくれないじゃん!怖いよーーー!
薄眼を開けて彼を見たらさ、
蒼い顔して ガチガチに固まって
手すりを握りしめてた。
「アンタも高所恐怖症かよーーーー!」
なんで観覧車さそったしーーー!!!
デートは絶対観覧車って
私の友達に吹き込まれたの?
私、なんだか可笑しくなっちゃた。
しかたないなぁ
精一杯可愛い声だそう。
「手を繋いだら 怖くないのよ」
彼もすっごく背伸びして頑張ってたんだなぁって。
きっと2人は 彼女がちょっぴりリードしてアシンメトリーくらいのバランスが良いのかも。
上に下に揺れ動く感情とドキドキ感を楽しんで頂けたら幸いです。
読んで頂きありがとうございました。
また遊びに来てくださいネ