あやかし
葛の葉は助けた仔猫を我が子のように大事に育てた。
仔猫はその恩恵によってすくすく育っていった。
しかし、育てた親が葛の葉ほどの妖なれば普通の猫に育つはずはなかった。
異常に成長は早く、大きく、体は猫なのだが尻尾は狐の尻尾そのものであった。
この頃の世はまだ自然が多く、その自然による精なる不思議な力が存在していた。
その自然の力がまれに動物達に影響を与える事があった。
その中のひとつが長寿である。そして、その長寿による影響として不可思議な力を持つことがあった。それら人の常識を越える力を持つ動物を人は神獣と言ったり、または妖と呼んだ。
葛の葉はその中でも圧倒的な力を持つ妖であった。同じ妖であっても、また人からも神と崇められるほどの存在であった。
「わらわの血で育ち、育てたとはいえ、立派になったのぉ、拾い上げてから50年ほどになろうか・・」
「にゃぁ」
「もう、わらわの言葉も理解出来ておる、このぶんだと話せるようになるのもすぐであろうな、風よ」
葛の葉は育てた猫に風と名を付け呼んでいた。
そして、葛の葉のいうとおり、風は数年後には言葉を話すようになった。
風は葛の葉に育てられ、妖になったのである。
「母様、狩りから戻りました」
「ずいぶん遅かったではないか風よ」
「よい鹿を見つけ、少し手こずってしまい・・・」
風はすでに虎ほどの大きさになっていた。
「また、そう言って人里を眺めてきたのだろう?」
「・・・はい」
「人に変化できるまで近づくなと言っておるだろう、わらわの言う事は守るのじゃ」
「はい・・しかし、母様は何故あの人という生き物の姿でいるのですか?何故、風もその様な姿になる必要があるのですか?」
「それは人がこの世を支配するものだからじゃ、この世は人のものだからじゃ」
「あの、か細く弱そうな人がこの世を支配してる?」
「そうじゃ、数百年わらわは人を見続けておるから分かるのじゃ、頭が良く団結し、物や道工を作り、田畑を作り、村を作り、国を作り、進化し続けておる、風よ見よ」
と、葛の葉は着物を脱ぎ体を見せた。
「この姿、どの動物よりも美しいであろう、この手を見よ、繊細で器用じゃろう、前に神の話しをしたであろう」
「はい、万物の創造者と」
「そうじゃ、その神は人の姿をしておるのじゃ」
風は葛の葉の美しい姿に見とれていた。
「風もわらわと同じく、長く生きよう、そのためにも人の姿に変化するのは必要なのじゃ」
と、葛の葉は着物を着て風の頭を撫でた。
「心配するではない、風ならば容易く変化も習得できよう」
それからの風は人の事を母様から学び、その母様が言う事を理解した。
風には母様の言う事が全てであり、絶対であった。
そして、変化の練習が始まった。習得するのに10年、妖にとって遥かに早い習得であった。
「男、女、子供、老人まで上手く変化できるようになっのぉ、風」
「はい、しかしまだ数時間も保てませんが・・」
「焦る事はない、時はまだたんとある、わらわの血を受け継いでいるとはいえ、大したものじゃ」
葛の葉は風が我よりをも越える妖になると感じていた。