猫神様と呼ばれた猫又。
これは猫神様と呼ばれる猫の物語。古より歴史の闇の中、飄々と生きてきた猫の物語である・・・
『1章・誕生「1話・始まり」』
時は奈良時代が終わろうとしていた荒れた世であった。
地は和泉国の信太村(しのだむら。現在の大阪府和泉市の北部である)そこに信太の森と言われた人が寄り付かぬ森があった。その森は神が宿る森とされ、人が踏み行ってはならぬ神の森とされていた。よって森には多くの動物達が共存する豊かな森であった。
そんな森の中、1匹の身ごもった雌猫が茂みの中で身を隠しながら出産をしようとしていた。雌猫は順調に1匹づつ産み落とし、4匹の仔猫が産まれた。
しかし・・・
丁度その時、他の地から迷いこんだ野良犬の群れが、その茂みのの近くを通り過ぎようとしていた。運悪く、野良犬達は出産による血の臭いを嗅ぎ付け、あっけなく母猫と産まれたての仔猫を見つけてしまった。
親猫は仔猫を守るため、野良犬の前に立ち威嚇をしたが、餓えていた野良犬たちは猫の親子を襲った。
まずは親猫を、そして順に仔猫を1匹ずつ・・・
残酷だが自然界においては、ごく自然な事だった。
しかし、最後に残った仔猫に襲いかかろうとした瞬間、仔猫と野良犬の間に突如、真っ白な着物姿の人の女が現れ立ちはだかった。
「どこから迷い込んだか犬どもよ!ここが、わらわ葛の葉の森と知ってのことか!」
と、女が声を上げると野良犬達が一斉に口から泡を吹き、1匹残らず絶命し倒れた。
「森の肥やしとなるがよい!」
そう言うと、女は一命をとりとめた1匹の仔猫を抱き上げた。
「わらわが、もう少し早く犬どもの侵入に気が付いておれば・・お前の母親とは良き仲であった・・本当にすまぬ・・だが、これも運命、わらわが、お前の母となろうぞ」
そう言うと、女は仔猫を抱え、歩き出した。
そして、女は森の真ん中にある小さな小屋に連れて行った。
「これからは、ここが、わらわとお前の寝床じゃ」
と、仔猫が「ぴゃぁーぴゃぁー」と鳴いた。
「そうか、そうか、乳が欲しいのだな」
女はそう言うと、か細い小指を仔猫の口にくわえさせた・・・
「ごくごく・・・」
仔猫は必死に飲む仕草をした。
「沢山お飲み、そして、お眠り・・・」
すると、仔猫は満足気に眠りについた。
野良犬達を一葬した事といい、女はただの人の女ではなかった。
その女こそ、遠く他国にも知れわたる、最強の妖、
白狐にして九尾の妖狐「葛の葉」だったのだ。
そうして、仔猫は葛の葉に育てらることとなった・・・