と僕
この小説は「せんぱい」と「僕」との情けない、その場しのぎの経歴を記した、真人間とは決して言えない二人の交遊歴である。
「せんぱい」の失踪癖と僕の怠惰癖が絶妙に絡み合い、負のスパイラルが醸し出す、芳醇で濃厚な腐敗臭漂うブルーチーズを1ヶ月履き続けた靴下に突っ込んでギュッと絞り出した濃縮汁の様な臭酸っぱい内容となるだろう。
僕は34歳のフリーになって3年目のカメラマン
父譲りの遺伝子で酒を飲むのが好きで、母譲りの遺伝子で人と話すことが好きなため
個人店の飲み屋に一度行けば顔を覚えられ、二度行けば重宝される人の良さだけが売りのお人好し。
「せんぱい」は36歳で、千葉の外房にリタイアした両親が建てた一軒家に住み介護師をしている、酒に弱く人見知りで社交性にかけた、僕とは表面上正反対な先輩。
皆さんの興味もまだないだろうタイミングで現状の人物像をお伝えしたところで
先輩の失踪癖の片鱗からお伝えしたいと思う。
今は介護師をしている「せんぱい」だが、
今までいくつもの仕事を転々としてきている。
その癖の片鱗が初めに見えたときに彼は駅ビルの警備員をしていた。
ある日、彼はその当時流れていた有名なCMのキャッチフレーズを真に受け、翌日のシフトを無視して「そうだ、京都に行こう」と思い立ってしまったのだ。
所持金片手で数えられる万円と愛車のレーシングバイク(50cc)で思い立ってから12時間ほどで京都にいた。
到着したものの、主要な観光地を回ったあとはやることもなく
食にも興味の薄い彼が最終的に到着したのはパチンコ屋。
そこから四日間滞在することになるのだが、もちろん急に穴を空けたシフトの後ろめたさから勤務先の連絡は無視。
ホテルとパチンコ屋の往復を繰り返し、最終的にその時に付き合っていた彼女が京都まで迎えに行ったことで説きふせられて帰ってくることとなるのだった。
その時の僕はそこまで「せんぱい」と仲が良くもなく彼のことも深く知らなかったので
その話を聞いたとき「あまり関わらない方がいいかな。」と思い距離を置いていた。
だが、その置いていた距離が縮まるまでにそう時間はかからないのであった。