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ZOO!!  作者: 山口翔矢
園内
2/8

元気なコウモリの話

午前9時、7月の晴天の中開園した。人々は楽園の中に流れ込むように次々と入っていく。私はそんな荒波に呑まれながらある場所に向かった。

"夜行館"という、名前だけ聞けば夜の大人の店のような名前のこの施設は、主に夜行性の小動物が展示されている所で、モモンガやクマネズミ等が生息している。また、行動展示を売りにしているこの動物園では彼等が元気に動き回れるようにある程度光を遮るような建物構造になっている。その為、どこのフロアでも禁止ではあるがカメラのシャッターは厳禁であり、これに違反した場合は罰金1万円が課されてしまう。

そんな"夜行館"は、今の時間殆ど人がいない。開園早々こんな薄暗い所に来る物好きは私と一部の夜行性小動物マニアくらいだ。今から会いに行く動物も大人数で来られるとパニックに陥ってしまうのでお互いにとって良い環境で交流できる訳である。

「おお、今日もどでかいお客様が来たようだ。こんにちは、お話しようよ。まだ眠たいけど」と薄暗いケージの向こう側から声が聞こえてきた。

彼はヤマコウモリ。日本に住む虫を主食とするコウモリの中では最も大きく北海道にも生息している。

体長は翼を広げると40cm程になる。夕方から夜にかけて活発に行動する為私達人間が彼等を見る事は少ないが、森林や山地に住んでおり、一日に自分の体重の半分以上の蛾を食べている。また、餌を探すときには超音波を発してその距離を測る小さなハンターだ。そのせいなのか、これは彼ら含む小さいコウモリ殆どに言える事だが目があまり発達していない。我々がイメージするコウモリは"吸血する"というイメージが強いが、実はそういうコウモリ事体は数は少なく、寧ろ虫を食べるコウモリが殆どだったりする。それに、虫嫌いの人間にとってはそれを大量に食べてくれる有り難い存在でもあるのだ。

「寝てましたか?寝てたら申し訳なかったです」

「いえいえ、全然そんな事ないよ。早くお話ししようよ!」

彼は誰かと話をするのが大好きなコウモリで、別の日にここに寄った時はテンションが上がりまくってあちらこちら飛び回っていたのを覚えている。このままの生活を送っていたら早死にするくらい凄かったのを覚えている。

「今日は落ち着いて話しましょう。別に僕は逃げませんから」

「分かってるよ!!君はそういう酷い事はしないっていう感じだもんね。じゃあさ、僕が住んでいた所の話聞いてよ。凄い事が起こったんだから」と彼は話した。

ヤマコウモリは日本全体での生息数が減少しているとされている。人間による森林伐採や夜間照明の設置が原因だ。彼もその例に漏れず、道端でぐったりしている所をここの職員に保護されたらしい。

「僕はここの近くの森に住んでたんだよ。この辺美味しい虫が沢山いたんだ。たまに大物がいてさ、それを仕留めた時の達成感と言ったらもうね。味も文句ないし最高だったよ!」

「餌を探している途中さ、色々な物発見できるんだよ。見たことも無い虫に出会ったこともあるし、君よりもでかい真っ黒な動物にも会ったことあるよ。いつも草とか僕が食べてる虫とかも食べたりもうありとあらゆる物食べてたよ。世の中変わった奴も沢山いるんだよね、それがまた面白いんだよ」

彼はとても楽しそうに私に語ってくれた。しかしその直後、彼は少し寂しそうな声で「でもね、ある日ね、お家、無くなったんだ。いきなり僕が住んでた木がメキメキっていってさ、倒れちゃったんだよ。あんな頑丈な木がだよ。風もそんなに強くなかったし、一体何事だってなってさ。僕、無我夢中で巣から飛び出したんだ」

「そしたらね、今まで聞いたことも無い音を立ててね、君なんかよりも何倍もでかい黄色い奴がね、木を倒してるんだ。僕が住んでた木だけじゃないよ。その周りの木もね、全部倒していったんだ。どんどんどんどん倒れて行ってさ、真っ平になっちゃったんだ」

「僕は別の家を探さざるを得なくなっちゃってさ。結構な時間飛んだんだよ、太陽が出てまだ明るい時間なのに。でもね、全然僕に丁度いい家が無いんだ。木があっても穴が開いてなかったり、そもそも枯れちゃってたりしてさ」

「一生懸命探してたらお腹も空いちゃってさ、餌探しも始めたんだ。でも、僕の好きな虫が全然いないんだよ。周りに何も無いから」

彼はその時の体験談を事細かに話してくれた。そして、このような出来事がどうやら5日くらい続いたらしい。彼等は早ければ1年程で死んでしまう程寿命が長くない。餌と住処が無い事は死を意味する。これはコウモリに限った話ではないが。

「5回日が昇った時かな、地面が見えたんだ。今まで僕は地面に体を着けたこと無かったなあ何て考えてたらさ、急に地面に降りてみたくなったんだ。一体地面てどんな感触何だろうって」

「僕はゆっくりゆっくりと降りて行ってね、地面に着地したんだ。最初はとても冷たい感じだったんだけどね、時間が経つにつれて段々と気持ちよくなっていくんだ。気持ちよくて仕方が無くなってくるんだ」

「そしたらね、今度は眠くなってきたんだよ。木の所以外で寝るのは僕始めてだったんだけどさ、そんな事はもうどうでもよくなってたんだね。そのまま僕は目を瞑ったんだ」

「意識がどんどん遠のいていくのが分かるんだ。力も入らなくなっていくしね。今までこんな感覚味わったこと無かったから凄い新鮮だったよ。それで、目が覚めたらここにいた訳さ。不思議だろう?」と彼はここで一連の体験談を語り終えた。

彼は一度死にかけ、自分の住処を奪った人間に皮肉にも命を救われた訳である。おそらく、彼の住処だった所は大型商業施設が建設される予定だった筈だ。人間の娯楽の為に多くの自然を犠牲にする――あまり良い気分にはなれない。

「どうしたの、急に黙り込んじゃって?もしかして僕の話面白くなかった?」

「いえ、そんなことありませんよ。凄い冒険譚ですよ、僕はそんな経験したことないから貴方がとても羨ましいです」

私達はあまりにも自然を軽視しすぎている。そして、自分含む人間が愚かで恥ずかしい――そう思えてきてしまっていたのだ。だから、どう彼と接していいか分からなくなっていた。取り敢えず私の気持ちが暗くなりすぎる前にここから去る事にした。

「今日は貴重な話有難う御座いました。また楽しいお話聞かせてくださいね」

「もう行っちゃうの、残念。じゃあ次はね、僕が今まで捕まえてきた虫たちの話してあげるね。楽しみにしててよ!」と彼は明るく私を見送ってくれた。

今後は私も環境に負担を掛けないような生活をしていこうと心に決め、ブラブラと散策を始めた。さて、次はどこに行けばいいものか――。



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