おれは成長の方がはやい
空があって地面があっておれは寝転んでいて人々は立っていて歩いていて走っていて両膝に手をついていて
夜があって冬があって木が倒れて雲が流れておひさんがあって月があって電話があって
来週も目覚ましは鳴っていて夕立が降っていて映画が終わって花が落ちて骨は燃えて辺りは暗くて風呂のお湯は冷めていて
そう、すべて聞こえるのだが、ただそんな気がするだけでしょうと、対面する天井に教授されるおれは寝転がっていて。
おれはまた、大きくなっている。大きくなった。どうしようもなくでかい。でかくて、抑えきれなくて、手足の先は遙か遠く、見えなくて、おれは育った。こんなにも育った。もう立てない。
見ろ!
おれの胸の上で色たちが毒々しく踊っていた。それ以外は皆、真っ黒で、変な色をしたアメーバよ。目を開けていても、閉じていても、おれはでかくなったろ。おれは育ったろ。遥か遠くまで育ったろ。
聞け!
何を食べて、何をしたら、こんなことになるのか。しかし、これほどでかいのに、人々は誰も気付かない。気付いてくれない。なぜだ。奇妙な色をしたアメーバのような何か、もがいていて、掴もうとしたが、おれの手、果てしなく長く、だからいまだ届かない、いつになったらおれの下へたどり着くのかおれの手よ。
言え!
自分の鼻の先も見えないくらいに、おれは育った。おれの過去現在未来前世今世来世、育った。こんなにも育ち、こんなにもでかく、なのに思考だけはひどく狭く、だから穴を掘るのだ。
馬鹿め!天井!睨みつける!恥さらせ!窓辺!建てろ!立て!縮め!流れる!廊下!消灯しろ!ドアノブ音!脇の間!逆ハンドル!当たれ!育つな!
踝と骨身、白色を捌き、おれは普通に良い年をしているが、どうしようもなくストレスで、偽ることが出来ないのだ。