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第七章 イルス・レムヨルムド


 ヨルムドの首都ラーベスは、ヨルムヘルイド連合王国の中で一番の大都市。そこには様々な人や物が行き交い、町一つがまるで国のようにすら思える規模。


「やっとラーベスですね」


 国境を越えてから三週間。途中軽微な妨害はあったものの、さほど大きな障害になる事なくラーベスに着いた。ただ、その度に人を殺している僕は、正直自分が怖い。


 相変わらず僕は賞金首なようで、襲われる度に同じような事を言われる。


 さすがに慣れてきたけど、正直賞金首と言われるのは嫌な思い。ただ、唯一の救いは闇の世界での賞金首なようで、普通に検問を通るときなどは何も問題はなかった。


 それにしても、初めて見るヨルムドの首都に興奮すると同時に、敵の事を何も知らずに戦ってきたのだとあらめて実感した。


 ヨルムヘルイド連合王国の中の、一つの国とならばまだしも、連合全体と戦う事がどれだけ無謀な事なのか、行き交う人々を見るだけでもそれはすぐに分かる。


 それ以上に、市場でやりとりされている品々は、以前の僕がいかに愚かだったのかを実感させられた。


「俺もラーベスは初めてだな。さすが連合の首都と呼ばれるだけの事はあるか」


 ペルさんも感心したように周囲を見ていた。


「王子の家までは、ここから歩いて一日の距離があります」


 その言葉に耳を疑った。


「冗談だろ? 歩いて一日だなんて、どれだけ広いんだ」


 ペルさんも驚きを隠せないでいるみたい。


「まあ、検問とかもありますからね。それに馬車である程度中まで行くので、半日もかからないはずです」


 それでも半日かかるのかと思う。


「どちらにしろ、今日着くのは無理ですから、宿に泊まりましょう」


 ロルベルトさんの提案に、僕たちは素直に従った。



 さすがに首都だけあり、宿も豊富にある。金持ちが泊まるような立派な宿から、小屋同然の宿まであったけど、僕たちは中程度の宿に泊まる事にした。


 昔なら立派な宿にしか泊まらなかったのかもしれないけれど、正直今はそんな気分になれない。何より、僕はそんなに立派じゃない。


 城に近づけば貴族用の宿もあるらしいけど、さすがにそんな宿に泊まるのも変だ。


 それでも中程度とはいえ、首都の宿は、設備が小さな町の上質な宿と変わりなかった。


 再び襲われる事を警戒し、一応三人同部屋にしたけど、それでもベッドはそれぞれの部屋に分かれている。


 装備品を置くと、宿の一階に併設されている食事処に行く事にした。宿の外で食事も考えたけど、移動するのが面倒であったのが最大の理由。そして、武器は持ってきた。自分で自分の身は守らないと。


 とはいっても、それは杞憂だったのかも。


 宿にあった食事処は立派なもので、宿泊せずに食事だけ出来るように、外へ通じる扉もある。不審者が入ってきたら、それこそお門違い。


 僕たちは比較的奥にある静かなテーブルをお願いし、この地方特産の酒の他に、何点か肉料理を頼んで待つ事にした。


 やっと落ち着いて食事が摂れる気がする。まだ夕食には早い時間なので、僕たち以外の客は少ない。それらの客も、夕食というよりは、軽い軽食程度の料理しか頼んでいないみたい。


「少し夕食には早すぎたか?」


 旅の疲れもあり、首を振る。ロルベルトさんも構わないといった感じで、他の料理を選んでいた。


「僕は何も知らずに、こんな国と戦っていたんですね」


 小声で、他の客には聞こえないように言う。さすがに目立つような行為は控えないと。


「あなたが始めた戦争ではないのですから、もう気にしない事ですよ。それにあなたはメルサであって、過去は捨てたはずです」


 ロルベルトさんは笑いながら言ってくれた。


「俺たちの国だって、五十年程前にこの国と戦ったんだ。結局ヨルムドが勝ったんだけどな。どこだって過ちはあるし、失うものもあれば得るものもある。そういうもんだろ」


 どこかペルさんは、面白くなさそうな顔をしている。


「二百年程前は、このヨルムドも小国だったと聞いています。それまでは流血の歴史ですよ。私の両親もヨルムドの出身ではありません。そういう意味では、私も部外者ですからね」


 ロルベルトさんがヨルムドの出身でない事を知って、少し驚いた。


 前に王室の警護担当をしていたと聞いたはずだから、てっきりヨルムド出身の血筋だとばかり思っていた。


 ちょうどそこへ酒が運ばれ、僕たちは無事ラーベスに到着出来た事に乾杯する。久々にゆっくり味わって酒を飲めた気がして、とても気分がいい。


 その後運ばれてきた料理も美味しく、さすが物が集まるだけの事はあると思う。色々小皿で注文したのだけど、どれも美味しい料理ばかり。何より海の幸や川の魚、肉料理から野菜料理まで、メニューは様々。飽きる事無く食べたり飲んだり出来る。それも僕が知らない料理ばかり。特にお肉関係は、見た事のない肉が色々出てきた。


 ただ、さすがにペルさんも前の事を覚えていたのか、トカゲの肉料理は注文しなかったけど。


 ちょっとビックリしたのは、ここの料理を食べるときの道具。タルツークでは食器は金属製だったけど、ここでは木製。聞いた所、フォークは使い捨てだという。スプーンも木製で、こっちはちょっと大きい。もちろんこれも使い捨て。さすがに資源が豊富な所は違うと思う。


 色々な料理に合わせて、何度か酒を追加注文したときだった。


「ロルベルト、久しぶりだな。メルサ君は覚えているかな? ペルとは初めてだね」


 声のする方を見上げると、一人の男が立っている。服装はどこか魔道師を思わせる緑のローブ姿。顔はフードで隠れてはっきり見えない。


「誰だ」


 ペルさんが警戒しながら聞く。僕も思わず身構える。知らない相手だと、自然に身構えてしまう癖が付いちゃったみたい。


「イルス・レムヨルムドと言えば分かるかな? おっと、そのままで。こうしてやってきた事情が分からない程、君らは馬鹿ではないだろう? 空いている席に座らせてもらうよ」


 レムヨルムドさんは、椅子に腰掛けるとフードを外して酒を注文する。


「本当なら、私の別荘で会いたかったのだが、色々問題が起きてしまってね。そうそう、レムヨルムドなんて呼ばないでくれよ。イルスでいい。もちろん呼び捨てで」


 その言葉を聞いても、ペルさんの警戒心は解けていないみたい。でもロルベルトさんは、安心したような顔をしている。僕は以前一度しか会っていないし、だいぶ前の事なのではっきりと顔を思い出せなかった。


「途中で妨害に遭ったと思う。本当に済まない。予想外の事が起きてね」


「何があったのですか?」


 ロルベルトさんが聞く。


「私の事をよく思わない連中がいてね。それで計画も台無しだよ。まあ、おかげで別の方法を試せるし、私はそれも面白いと思っているが」


 一体何の事だか分からず、思わず首を捻ってしまう。


「最初から説明しないといけないね。事の発端は二年前だ」


 ちょうどそこへ酒が届く。イルスさんは、ついでにパンにお肉を挟んだオピストという食事も注文した。他のテーブルで見かける物と同じような物らしい。


「二年前、秘密裏にタルツーク王国から一人の使者が私の所へ来た。彼はこの戦争を終わらせるために、秘密協定を結びたいと持ちかけてきた」


「そんな事が!」


 思わず声を上げ立ち上がると、三人に睨まれる。慌てて椅子に座った。


「長い戦争でタルツーク王国は疲弊していた。タルツーク王国と直接戦っている我が方の国も、その損害は無視出来ない規模に膨らみ始めていた」


 損害を実際に与えていたのを、あらめて実感する。ただ、それは僕の働きじゃない。


「このまま戦争が長引けば、タルツーク王国は王室の存続が怪しくなるとまで言われた」


 その王室は、今はないことを思い出す。


「我々も、連合の結びつきが弱くなってきているのも事実だった。実際、ダル王国はこれ以上の戦線維持は無理と伝えてきていた」


 その言葉にペルさんが驚いたのか、手に持ったグラスの動きが止まった。


「そこで私は、密かに和平交渉の準備を始める事にした。機会がある度に、私は戦線維持以上の行為をしないように進言し、きっかけを待った」


 そのような事が行われていた事に、驚きを隠せない。


「そこへ、タルツーク王国の王子が前線に出るという話を聞き、もしやと思い行動を起こす事にした。私の読み通り、停戦を結ぶための下準備との報告を受け、密かに会う機会を窺った」


 何も知らなかった僕は、ただ唖然とする以外にない。


 確かに戦いが好きではない僕が、相手との交渉に臨めば、自ずと停戦が結ばれる可能性は高くなる。


「しかしその後が不味かった。私たちの事をよく思わない連中が、妨害工作に乗り出し、タルツーク王国の王室を崩壊させる事に成功してしまった。メルサ君、君は何も知らないまま、最前線で戦っていたんだ」


 何も言う事が出来なくなった。それどころか、敵の謀略により父たちが殺されたと思うと、怒りを通り超え、愕然とする以外にない。


「ペル君の任務も予定外だった。私の知らない所で色々と工作があったようだ」


 ペルさんも驚いているのが見て取れる。


「これで私の作戦は元から狂ってしまった。今、タルツークでは内乱が起きている。どの勢力が実権を握るかは、まだ分からない。同時に、それまで我々と共にしてきたダル王国も、我々連合とは距離を置き始めた」


 イルスさんは険しい顔をしながら、話を続ける。


「ダル王国が距離を置くと、今度はウェルペクド王国も連合から離脱したいと言い出す始末だ。どちらの国も、軍事力では定評がある国。その二つが同時に抜けるとなれば大問題だ。そこで連合議会が開催されているが……まだ結果は出ていない」


 予想もしていなかった事に、驚愕を隠せない。


「そして、タルツーク王国と和平を結ぼうとしていた私を、裏切り者と言い始める者も出始めた。私は色々手を尽くしたが、いくら王族とはいえ、相手は数で王を説得し、今現在、私は城に入れないでいる」


「そんな事が……よく今までご無事で」


 ロルベルトさんに、イルスさんは首を横に振る。


「何度か暗殺されかけたよ。今までよく無事だったと思う」


「しかし、それではここにいるのは危険ではないのか?」


 ペルさんの当然の問いかけ。


「ああ、だからこんな格好をしているんだ。王族の格好なんかしては、真っ先に狙われるからね。それに、私に味方をする者も少なくない。戦争をしたがる者もいれば、嫌がる者もいるのさ。そうそう、さすがにメルサ君は気がついていないかもしれないが、この店の中にもすでに私の仲間が警戒のため潜んでいる。どこにいるかは言わないけどね」


 目線で周囲を見たけど、そんな人は見当たらない。


「大元の原因は、エルバ王国だ。少なくとも、私が調べた限りでは、エルバ王国の息がかかった者たちが暗躍している。そもそも、この戦争もエルバ王国が仕組んだものだったからね」


「ど、どういう事ですか?」


 大元の原因……一体何があったのか。


「メルサ君は、戦争の原因が鉱山だとは知っているね? では質問だ。その鉱山はどこにある?」


「詳しくは僕も知りませんが、国境線上だと聞いています。確かダル王国とエルバ王国、そしてタルツーク王国の三つが接する国境線上だと」


「大抵の者はそう思っているが、事実は違う。鉱山は、タルツーク国境の内側だ。それも、疑問を抱く余地がない程にね」


「まさか!」


「真実だよ。国境線に近かった事は事実だが、鉱山がある山はタルツーク領内だ。これは間違いない。鉱山が見つかったとき、その領有がどこに帰属するか、我々の方も調べた報告書が現存していた」


「おい。じゃあ何で領有が問題になるんだ?」


「領有を問題視したのは、エルバ王国だけだ。当時の記録にも残っている。これには理由があるのだけどね。エルバ王国が農業国だとは知っているかな?」


「はい。途中で聞きました。広大な農地が印象的でした」


 今でも記憶に残る広大な農地。緑の麦の穂が、記憶に新しい。


「あの国は、農業以外に何もないんだ。生産できるのは農作物だけ。鉱山もないし、これといった工業製品もない。あの国は生活に必要な道具を、ほとんど全て他の国から調達している。この意味が分かるかな?」


「成る程な。それで分かった。奴らは資源が何としても欲しかったのか。それも、農作物以外の」


「ペル、中々鋭いね。全くその通りだよ。そして、国境近くで鉱山が見つかった。連中からすれば、喉から手が出る程欲しい資源だ」


「じゃ、じゃあ、その鉱山が欲しいために、戦争を仕掛けたということですか?」


 正直自分で言っていて信じられない。そんな事をする人がいるなんて。


「タルツーク王国は、我々連合には含まれないが、少なくとも戦争が起きる前までは、ダル王国などとは上手くやっていた。経済的交流も盛んだった。それを、エルバ王国が影で色々妨害する。それも、まるでタルツーク王国側に問題があるかのように」


「そんな。あんまりです……」


「私もそう思う。しかし、ダル王国はその罠に気がつかなかった。その結果が戦争だよ。直接はエルバ王国が手出しする事はしていない。全く汚い連中だ」


 もう、何を信じて良いのか分からない。僕らは一体何のために戦ったのか……。


「そうそう、聞いたんだが、メルサ君が持っている武器で、何か特殊な物があるとか?」


 あの槍の事を思い出した。


「君たちの暗殺を失敗した連中が、噂をしていたらしくてね。何でも瞬時に人がバラバラになったとか。そして持っている物は槍と聞いたんだが。しかし、見たところ持っていないようだが?」


 僕はその事について、ナイフをテーブルに置いてから、事細かくイルスさんに話す。イルスさんは興味深そうに聞いていた。


「私も気になって調べさせた。おそらくだが、それはシェルスプの槍と呼ばれる物だ」


 ガーランが言っていた言葉を思い出す。


「多分それです。僕もよく分からずに困っています」


「それは竜人族に伝わる、伝説の槍らしい。使い方一つで町を消滅させる事も出来れば、人を治癒させる事も出来るという。ただ、私たちに調べられたのはここまでだ。タルツーク王国ならもっと情報があると思うが、ここにはあまりなかった」


 町を消滅させると聞いて、どうしてもガーランの事を思い出す。身をもってペルさんとロルベルトさんを助け、色々教えてくれた事を。


「どちらにしても、明日この町を出よう。長くいるだけ危険が多い」


 確かにイルスさんの言う通りなら、この町に留まる理由は無いと思える。


「しかし、どこに行くんだ? あてなどあるのか?」


 イルスさんは微笑みで返した。


「エルバ王国とウェルペクド王国の間にある、草原地帯に向かおうと思う。理由は着けば分かるはずだ」


 僕はそこで一体何が待っているのか、楽しみと同時に何か恐怖心を感じた。


「それよりも、君らの旅の話を聞かせてくれないか?」


 僕たちは遅くまで、旅の話をつまみに酒を飲んだ。



 翌朝早く、僕たちは宿近くの大きな公園に集まった。


 朝早いためか、小鳥の鳴き声があちこちで聞こえる。公園では朝早くから人々が集まり、運動などをしていた。


 公園の周囲は木々で覆われていて、木陰になる場所には椅子も置かれている。


 季節が春先だからだと思うけど、木々には新芽が目立っていた。公園の真ん中周辺は、いくつか木があるけど、そこ以外は芝生になっている。そういえば、芝生の上にいるのは久しぶりな気がする。とても緑が綺麗。


 比較的人が集まりやすい所の方が、暗殺を防ぎやすいと、イルスさんに言われたからだ。確かに、普通の民間人を巻き込むつもりが無ければ、公園の真ん中で暗殺劇が起きるとは思えない。


 僕たちは出来るだけ離れないようにしながら、比較的公園の真ん中で待つ事にする。


 公園の外周だと、建物から弓で狙われる事も考えなきゃならないって言われたから。でも、そこまでして狙うのか正直疑問。それでも、命を狙われている事は確かなのだから、用心しないといけない。


 そうこうしているうちに、イルスさんとも合流した。イルスさんは一人で来たけど、こんな所まで一人で来るのかと思ってしまう。


 姿は一応民間人の格好だけど、それでも王族。一人くらい護衛がいるかと思っていた。


 そのまま僕たちは、町の外に出る馬車に乗り込み、町の外にある宿場街へ向かう事にする。


 そこからなら多方面への馬車が出ているとロルベルトさんが言っていた。馬車は町の外れまで行く事ができ、町の入口を超えるのは徒歩になるそうだ。


 そういえば、この町に入るときも馬車を降りたっけ。荷馬車や特別の許可を受けた馬車でない限りは、この決まりを破る事はできないらしい。


「まさかこんな事になるなんてな」


 ペルさんが呟く。なんだか、行く先々トラブルに巻き込まれてばかりなのは、気のせいかなと思ってしまう。


「こうなってしまったものは仕方がない。今我々が出来る事を考えるのが先決だ」


 イルスさんの言いたい事は分かるけど、ここ何ヶ月も逃げてばかりいる事に、正直疲れていた。ペルさんの部隊に襲われてから、もう季節は二つも過ぎている。


 本当なら、しばらく休みたい所。でもまた命を狙われるのかと思うと、同じ所に留まる事は出来ない。


「全くこのメンバーは一体何なんだ? 特にそこの二人! 王族にしちゃ不甲斐ないと思わないのか!」


 突然ペルさんが、こちらを向いて睨み付けた。反論したかったけど、反論すべき言葉もない。ただ俯くのがちょっと悔しい。


「言わないでくれよ。私だって本当なら、こんな事はしたくなかった。運が悪かったとしか言えない」


 ペルさんは、余計にムッとした顔になる。


「まあまあ、二人とも落ち着いてください。それにペル。王族とか王子とは言わないで下さいね。私たちはそれでなくても追われている身なのですから」


 ロルベルトさんに注意され、ペルさん歯ぎしりしていた。


「ところで、イルスさんの護衛は、どうなったのです?」


 イルスさんが一人で現れた事が、僕にはどうしても疑問。普通に考えれば、護衛が一人や二人いても良いはず。


「相手は軍を先に掌握してね。もちろん直属の護衛は信頼しているが、彼らと行動を共にしていると、目立ってしまうんだ。だから彼らには、別行動を取ってもらっている。不本意だけどね」


「軍を掌握されているという事は、国境警備隊も掌握されているのですか?」


 ロルベルトさんが、僕が聞きたかった事を聞いてくれた。もしそうなら、これからは面倒な事になる。


「その可能性はある。だから私は、こんな格好をしているんだけどね。ただ、それもどこまで通用するかは未知数だ。いざとなれば強行突破しかないと思う」


 結構面倒な事になると思った。今まで国境警備隊は問題なかったけど、これからはそうともいえない。


「国境警備の前に、町の警備隊のお出ましだ。やり過ごせば問題ないが、場合によっては一戦交える覚悟か……」


 ペルさんが、前方にいる町の監視の警備隊の事を教えてくれた。


 街中で戦いは絶対避けたい。そんな事は僕だって分かるけど、それが必ず通用するとは限らないのも分かる。


 町のあちこちに、十名程の警備隊が待機しているみたい。それほど数が多いとはいえないけど、かといって無視できるほど少ないとは言えない。


「ところで、偽名とかは用意してあるんだろうな?」


 イルスさんに向かってペルさんが、相変わらず睨みながら言う。一斉に僕らの目が、イルスさんに向いた。


「警備隊の前ではイル・レッカスで頼む。それ用の通行証も用意してある」


 僕らは頷いた。


 警備隊に近づくと、緊張のあまり硬直してしまう。


 それを感じたのか、ロルベルトさんは『心配しなくても大丈夫ですよ』と言ってくれた。少し気分は楽になったけど、やはり緊張はしてしまう。


 町の監視は見張り程度なのか、警備隊の前で待たされている人数はそれほど多くない。僕たちは順番に並ぶ事にし、無事通過出来る事を祈るしかない。


「アーツ・メルサ……竜人族か。この辺りでは竜人族自体珍しいのに、白い肌の竜人族とは、さらに珍しいな」


 警備隊の人族の男は、何かメモのような物と見比べていた。しばらく見たあと、それをしまう。


 人族にしては、がっしりとした体型。しかも完全装備で剣も立派な物が腰にあるみたい。きっと、正規の軍人なんだと思う。


「問題なさそうだな。通っていいぞ」


 通過してから、ホッと胸をなで下ろす。他のみんなも無事に通過出来た。心配は杞憂に終わったようだ。


「今回はついていたが、次はこうとは限らないと思っておいた方がいいぞ」


 ペルさんの指摘に僕たちは頷く。こうして僕たちは、イルスさんの言う草原地帯へ向かう事となった。

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