表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

終章 出発点

「メルサ君、君は町の恩人だ。残ってくれて構わないし、みんなそれを希望している」


 ロイスさんの言葉は嬉しかったけど、でも僕にはやる事がある。


「その言葉だけで充分です。でも僕は、ガーランに約束したんです。自分の国を持つと」


 ロイスさんは残念そうな顔をしている。


「正直言って、君はこの町を救ってくれた。君がこの町の王になる資格はあると思う。王とはいわなくても、君に相応しい地位が必要だと思う。何せ町を救ってくれたのだから」


 イルスさんも、同じ事を言ってくれる。


 僕はあらためて、僕の放った魔法を思い出す。


 あれから一ヶ月、大地には緑が戻りつつあった。そして、窪みになった場所は、大きな湖となっていた。あの戦いの記憶は、刻の中に飲み込まれようとしていた。


 町も一部が焼けはしたけど、大きな損害にはならず、次第に以前の状況を取り戻しつつあった。


 もう一点重要な事……町の北方で、失われた鉱山が見つかった。まだ採掘には至っていないけど、それも時間の問題だと思う。


 鉱山で採掘が始まれば、それを元手に町も賑やかになるはず。


 町が救われた最大の要因は、町の前に急遽作った溝と山。それが炎や衝撃波を和らげる働きをし、町への損害を弱めたみたい。


 でも、僕はこの大地で放った魔法に後悔していた。あまりに多くの人を殺す事になるとは、夢にも思っていなかったのだから。


 せめて、ここから立ち去ってくれればと思っていたのに。だからこそ、この町にはいられないと思う。僕にとって、まだこの地は忌まわしい記憶の地。


「でも、ここはあなた方の町です。確かに僕は町を救ったのかもしれませんが、それ以上に人を殺してしまった。僕は、こんなに殺したくはなかった。僕がここに残るのは、良くないと思います」


 一瞬静寂が訪れる。それは、きっと肯定だと思う。


「それは違うな、竜王メルサ。君はこの町の、新しい未来を切り開いたんだ。私は君が残るべきだと思う」


 ギーアスさんの言葉に、何と言ってよいのか分からない。


「私から一つ教えてあげよう。アレでも何人かは生き残った。その捕虜から、色々な情報を聞き出す事が出来た。中でも一番私がショックだったのは、彼らは我々を虐殺するつもりだったという事だ」


 ロイスさんが教えてくれた事は、正直驚きを隠せない。


「そう、君が戦いの前に言っていた事は、正しかったんだ」


 イルスさんまでもそんな事を言う。


「それに、町の皆が残って欲しいといってくれているのよ」


 セイムさんが付け加える。


「もう一つ、言っていなかったが、この地はシェルスプの出発点でもある」


 ギーアスさんが、何を言っているのか理解出来ずにいると、その巨体を動かし、頭を地上近くまで下げてくれた。


「この地で最初のベルタアークが使われ、シェルスプの槍が生まれた。そしてシェルスプの血筋も。君は、一族の故郷に帰ってきたんだ。お帰り、竜王メルサ」


 ただ驚く事しかできなかった。


 ドラアスさん言っていた伝説が、ここで始まっていたなんて信じられなかった。


「それによ、新しい国を作るって、どこに作るんだ? タルツークには戻れないだろう?」


 ペルさんの言葉に言い返せない。混乱が起きているタルツークに、今戻る事は出来そうもなかった。


 また、エルバ王国がラスクドで敗北した事は瞬時に広まり、情勢は一変した。


 エルバ王国の力は一気に弱くなり、王国は崩壊、そこにウェルペクド王国とダル王国が進軍し、内戦が始まっていた。


 それをヨルムド王国は阻止出来ず、事実上連合王国は崩壊してしまう。それだけに留まらず、外の大陸からの圧力も、噂が始まっている始末だ。


 この大陸は、新しい混乱の時代を迎えようとしていた。


「そうですよ。国民もいないのにどうやって国を作るのですか? ここなら、皆があなたを支持しますよ。それとも、メルサは皆が嫌いですか?」


 ロルベルトさんの言葉が、重く感じる。


 確かに生まれたばかりのこの町は、まだ外敵から身を守るだけの十分な備えはない。そのために僕を必要としている事は、十分に承知しているつもり。


 僕という存在だけで、他の国からは充分驚異になる。そうでなければ、今頃他の国が進軍してきているはずだ。


 あれからどの国も、ここに近づこうとさえしない事が、何よりもの証明だと思う。


 それはもちろん、僕という存在が前提だし、この町に僕の力が必要なのも分からないわけじゃない。


「私はメルサがここに残ってくれるのであれば、出来る事なら何でも協力しよう」


 ギーアスさんが、首をあげて僕に願うような言い方。


「巨竜族が住める場所は限られている。ここは数少ないその場所だ。昔のように洞窟に住むのは、正直あまり好きではないしな」


 確かに、ガーランの住んでいた洞窟は、ここに比べれば住み心地がよいとはとても言えない。いや、洞窟が住居だなんて、本来間違っていると思う。


「ガーランだって同じ事を言うはずだ」


 ギーアスさんの言葉が重く僕にのしかかる。


 たぶんこの世界に、巨竜族が共に住める町はここしかない。洞窟で暮らすなんて、同じ竜族種として認めたくない。


「でも僕は……」


「でもなんてのは無しだ。みんながお前を必要としている。とりあえず、しばらく暮らしてからも遅くはないだろう? それに、お前はまだまだ世相に疎いんだ。一人で何が出来る?」


 ペルさんの言葉に、反論する事が出来なくなってしまった。


「でも僕は、ここでは王にはなれません。確かに僕は竜人族の王家の血筋です。でも、それはレムヨルムドさんだって同じはずです。一つの国に二人の王は多すぎます。ここはあなた方の町、あなた方の国です。僕は来たばかりの部外者。それくらいは分かっているつもりです」


 せめてもの抵抗。それに今回の旅や戦いで、あらためて王になる器でない事を実感させられた。まだ王になるには、全ての面で若すぎるし、未熟。


「なら、どうするか皆で決めれば良いではないか。結論を急ぐ必要はどこにもない」


 ロイスさんが、断れないと分かっていて言ってくるのが嬉しかったけど、僕にはまだ戸惑いがある。


「大体さ、その歳で国を持とうなんて甘いんだよ!」


 ペルさんが笑いながら僕の背中を叩く。他のみんなも笑っている。


「確かにそうだ」


 ギーアスさんの言葉に、みんなの笑いが大きくなる。


「この国は、まだ始まったばかりだ。いや、まだ国としてはどこにも認められていない。メルサ君。君も一緒に国を作らないか?」


 ロイスさんが、僕に握手を求める。戸惑った。本当にここで手を握って良いのか分からない……。


 そこへ、ペルさんが手を差し伸べ、僕らの手を繫げた。


「ま、始まったばかりだ。これからよろしく頼むぜ。竜王様?」


 こうして、メルサとラスクドの新たな一歩が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ