表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

プロローグ

 物語はとある田舎町――アンダーレイトタウンから始まった。

 その当時、少年少女の間では『アンリアルドライヴ』という名前のトレーディングカードゲームが流行の最先端を走っていた。ポーカーのようなシステムを持つカードゲームだ。モンスターにあたる『キャスト』のカードを中心に『ドライヴ』『プラン』『ギミック』『トラップ』などの様々なサポートカードをうまく組み合わせて戦う。より強いカードを出したほうが勝利するというゲームだが、なにより自分を強く見せたり弱く見せたりして相手を騙すことが重要となっている。

 この物語の主人公、阿久津カケルもそのプレイヤーの一人である。日々、町の裏路地にダンボールを積み上げて、近所の仲間達と共にこのゲームを楽しんだ。彼は地元で最も強いプレイヤーだった。全戦全勝。どんなプレイヤーが立ち向かってきても、負けることのなかった地元の王者だった。それでも挑戦者は絶えず、彼はいつも誰かから挑戦を受けていた。

 この日も同い年の少年と戦いを繰り広げていた。

「いくぜ! ゲームスタートだ! 俺は《"嘘憑き(ブルシューター)"ジャージーデヴィル》を召喚!」

「僕は《"伐採者"ロガー》を召喚だ!」



――KAKERU Card

《"嘘憑き"ジャージーデヴィル》

キャストカード

BET1/黒/POWER:1000

効果①UNKHOWN


――ExtraBoy Card

《"伐採者"ロガー》

キャストカード

BET1/緑/POWER:2000

効果①[T]アクションフェイズに1度、コスト[BET+2]を払うことで、相手のトリックエリアに存在するカード1枚をブレイクする。



「よしっ! 最初のキャストは僕のほうがパワーが上だ!」

「そうだな。――けど、パワーが高いだけじゃこのゲームには勝てないぜ!」

 そう言って、カケルはキャストカードの手前にカードを2枚裏向きにして置いた。

 このゲームでは、チョイスフェイズというタイミングに、それぞれのプレイヤーが3枚までカードを裏向きにして出し合う。それをその後のバトルフェイズというタイミングで1枚1枚表向きにしていく。新しいキャストカードを出して戦力を増やしたり、ドライヴカードでキャストのパワーを上げたり、相手の裏向きのカードを使えなくしたりして、自分に有利な状況を作り上げていくのである。最終的に、キャストの合計パワーが高いほうがそのターンの勝者となるのだ。

「僕はカードを1枚出す! そして、《"伐採者"ロガー》の効果を発動する!」

 また、チョイスフェイズとバトルフェイズの間には、アクションフェイズというタイミングが存在する。このフェイズでは、すでに場に出ているキャストカードの効果を発動することができる。この時、対戦相手の少年はカケルの出したカード1枚を破壊して、有利な状況を作り出す効果を打ち消そうとしたのである。

「僕が選択するのは、一番右にあるカードだ!」

「右? 悪いな! 一番右に伏せたカードの正体はトラップカード《トロイの木馬》だ!」


――KAKERU Card

《トロイの木馬》

トラップカード

効果①自分のキャストカード1枚を選択し、[BET+1]を与える。

効果②このカードが相手によって破壊された場合、自分は手札から[BET2]以下のキャストカード1枚をキャストエリアに置くことができる。


 しかし、カケルが伏せていたカードはトラップカード。普通に使ってもあまり戦況を有利に出来ないが、相手に破壊されると強力な効果を発揮することができるカードだ。相手が自分のカードを破壊してくることを先読みして伏せておけば、大きなメリットを得ることができるのである。少年はまんまとカケルの戦術にハマってしまったわけだ。

「俺はこのカードの効果で《"嘘憑き"メデューサ》を出すぜ!」

「し、しまった!」


――KAKERU Card

《"嘘憑き"メデューサ》

キャストカード

BET2/黒/POWER:4000

効果①UNKHOWN


「さあ、バトルフェイズだ! お互いに残った裏向きのカードは1枚ずつ。これを同時にオープンしてバトルだ!」

「ま、待て! 僕はここで降りる。降参だ」

 アンリアルドライヴ最大の醍醐味は、バトルを降参できるという点にある。自分の手元に裏向きのカードがある時、それをめくる前であれば、敗北を認めることでバトルを終わらせることができるのだ。

 自分から敗北を認めるメリットは2つある。1つは被害を最小限に抑えられるという点だ。キャストはそれぞれ『BET』というパラメーターを持っている。これはそのキャストの強さであり、敗北した時に自分が受けるダメージの数値でもある。ほとんどのカードは、パワーを上昇させたり相手のカードを破壊したりする代償として、キャストのBETを増やすコストを持っている。少年のカード《"伐採者"ロガー》も、カケルのカードを1枚破壊する代償として自身のBETを2つ増やしているし、これから発動しようとしていたサポートカードもBETの増加を要求していた。負けると思った時は早めに降りることで、BETの増加を防ぐことができるのである。

 もう1つは、使わなかった裏向きのカードはそのまま手札に戻せるという点だ。手札の消費を抑えることができる。毎ターンにお互いのプレイヤーは1枚カードを引くことができるが、一度のバトルで2枚以上のカードを使おうとすることはよくあることだ。せっかくたくさんのカードを使ったのに、負けてしまっては大損だ。逆に、負けても手札を温存できれば、次以降のバトルを有利にすることもできるのである。このターン、少年は《"伐採者"ロガー》の元々のBETに効果を使ったコストを加え、合計BET3をダメージとして受けた。だが、手札は1枚も消費せずに6枚。1枚のリードを得たのである。

 ――次のターン。お互いにカードを1枚ずつ引き、カケルは7枚、少年は8枚の手札を持っている。また、プレイヤーの命であるライフポイントはゲーム開始時にそれぞれ10ポイントずつ与えられており、少年は3ダメージを受けて残りは7ポイントだ。

「今度は僕からだ! カードを3枚出す!」

「それじゃあ俺は2枚だ」

「今度は《"伐採者"ロガー》の効果を使わない!」

 先ほどのターンにトラップカードを破壊してしまったことを受け、少年はカケルのカードを破壊することをやめた。またトラップカードを破壊してしまうかもしれないと思うと、うかつに手が出せなかった。しかし、それを読んでいたカケルの場には、この時トラップカードは1枚もなかった。

「それじゃあバトルだ! 僕はドライヴカード《倒木ドミノ》を使う!」

「俺は3枚目のキャストカード《"嘘憑き"フルーレティ》を召喚するぜ!」



――KAKERU Card

《"嘘憑き"フルーレティ》

キャストカード

BET3/黒/POWER:5000

効果①UNKHOWN


――ExtraBoy Card

《倒木ドミノ》

ドライヴカード

効果①[風土:緑]のキャストカード1枚と相手のキャストカード1枚を選択し、選択した相手のキャストカードをレスト状態にする。その後、選択した自分のキャストカードに[BET+?]を与える。(?はレスト状態にしたキャストカードのBETと同じ数値になる)



「《倒木ドミノ》はBETを増やす代わりに、相手のキャストカード1枚をバトルに参加できないレスト状態にする! これで《"嘘憑き"メデューサ》は行動不能だ!」

 キャストカードにはアクティブ状態とレスト状態、ネガティブ状態という3つの状態が存在する。キャストカードは普段、表側縦向きのアクティブ状態で置かれるが、《倒木ドミノ》のようなカードを用いることで、バトルに参加できない表側横向きのレスト状態にすることができるのである。更に別のカードの効果では、バトルに参加できない代わりにBETの情報も失われる裏側横向きのネガティブ状態になることもある。これらはターンの終了時に全てアクティブ状態に戻るが、ドライヴカードなどでパワーアップしていたキャストカードをレスト状態にされてしまったら、一気に戦力ダウンになること間違いなしの強力な効果である。

「少し使うのが早かったんじゃないか? そういうカードは、一番最後に使うもんだぜ!」

「う、うるさいっ! 僕にだって考えがあるんだ!」

「そうか? それじゃあ、次のカードをめくろうぜ!」

「言われるまでもない! 僕の2枚目はキャストカード《"伐採者"ハーバサイド》だ!」

「俺の2枚目はプランカード《暗転》だぜ」



――KAKERU Card

《暗転》

プランカード

効果①自分の[風土:黒]のキャストカードを任意の枚数選択する。選択したキャストカードをすべてネガティブ状態にする。


――ExtraBoy Card

《"伐採者"ハーバサイド》

キャストカード

BET2/緑/POWER:4000

効果①[R]このカードが召喚された時、[BET+?]を得る。(?は全てのレスト状態のキャストカードのBETを合計した数値になる)

効果②[R]このカードが召喚された時、[POWER+?]を得る。(?は全てのレスト状態のキャストカードのパワーを合計した数値になる)



《"伐採者"ハーバサイド》は召喚された時、レスト状態のキャストカードのBETとパワーを得る。これで《"伐採者"ハーバサイド》は《"嘘憑き"メデューサ》の能力を吸収して、BET3、パワー8000になる……はずだった。

「《暗転》!? しまった!」

「俺は自分のキャストを全員ネガティブ状態にするぜ! バトルには負けるが、これでこのターンに俺が受けるダメージは0だ!」

 カケルのキャストたちはさっそく裏向きのネガティブ状態となり、パワーとBETの情報が失われた。

 このカードゲームにおいて最も重要なのは、攻めるタイミングと守るタイミングを見極めることだ。先述したとおり、たくさんのカードを消費したのに負けてしまっては大損だ。攻める時は中途半端にせず、絶対勝つつもりで強力なカードを一気に使用したほうがいい。ただし、たくさんのカードを消費しても、相手に守られてダメージを与えられなければ意味がない。相手も攻めてきているとか、守れない状況でなければいけない。

 少年の最後のカードは、2枚目の《"伐採者"ハーバサイド》だった。攻撃が成功していれば、パワーは合計18000まで上昇し、勝っていただろう。だが、カケルが守ることを予想できなかったため、失敗した。

「残念だったな! さあ、次のターンだぜ!」

 カケルの3枚のキャストはネガティブ状態からアクティブ状態へと戻る。合計BETは6で、合計パワーは10000だ。

 少年のキャストも3枚。合計BETは5で、パワーは10000だ。

「くっそーっ! さっきの攻撃が通っていれば、一気に6ダメージを与えられたのに!!」

「通ればね。通らなきゃ意味がない」

 その点、カケルは攻めるタイミング、守るタイミングを熟知していた。加えて、攻めているように見せかけて守るテクニックも持っていた。

 ――次のターン。

「俺はカードを1枚出す!」

「僕は……2枚だ! 《"伐採者"ロガー》の効果を使う!」

 今度はカードの破壊効果を発動する。

「へえ、このタイミングで使うんだ」

「また守られたら困るからね」

「ふぅん……。でも残念。俺のカードはトラップ《シャドウホール》だ!」

 またも少年はカケルの術中に嵌る。彼が破壊したカケルのカードはやはりトラップカード。



――KAKERU Card

《シャドウホール》

トラップカード

効果①自分の[風土:黒]のキャストカードを1枚選択する。選択したキャストカードをネガティブ状態にする。

効果②このカードが相手によって破壊された場合、相手のアクティブ状態のキャストカード1枚を選択する。選択したカードをレスト状態にする。


「お前のキャストを1枚レスト状態にする! 俺が選ぶのは《"伐採者"ハーバサイド》!」

 この効果で、少年の合計パワーは4000ダウンする。

「更に《"嘘憑き"メデューサ》の効果も発動! このカードは相手のカードがレスト状態になった時、もう1枚レスト状態にできる。2枚目の《"伐採者"ハーバサイド》もレストだ!」

 更に4000のダウン。一気に合計パワー2000までダウンしてしまう。

「そ、そんな……。どうして僕が破壊するってわかったんだ!?」

「簡単なテクニックだよ。このゲームじゃ、攻める時は一気に攻め、守る時はなるべく消費せずに守ろうとする。だからわざと1枚だけ出して、守ろうとしているように見せかけたってわけさ」

「そ、そういうことか……。悔しいけど、残り2枚のカードじゃパワー8000以上は稼げない。僕の負けだ」

 少年のBETはジャスト7。降参しても敗北する数値だ。結果、またもカケルの勝利で戦いの幕は閉じた。

 ――幕間。

「やっぱりカケルくんは強いや」

 少年は悔しそうな表情をしながらも、カケルの強さを賞賛した。

「ヘヘッ。お前らが弱すぎるんだよ。さっきの1枚出しだって、よく考えればトラップだってすぐにわかったはずさ」

 普通、カードを破壊できるキャストカードを出しているプレイヤーは、1枚だけ出されたカードを見て『カードを破壊できる効果を持っているのに、1枚だけなんて無防備だ。トラップに違いない』と思う。ましてや守るカードとは思わない。もちろん、このテクニックを知っているプレイヤーが『トラップと見せかけた強力なカードに違いない』と裏を読んで破壊に踏み切ることもあるが、少年はただただ安易に守るカードと判断して破壊したに過ぎない。

 カケルの近所には、そういった深い読み合いができるような強いプレイヤーがいなかった。それゆえに、カケルはその町の頂点に君臨し続け、自分が最強だと慢心していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ