#013 悪の塊
スマートフォンを上方へ弾いて、懐から自動拳銃を取り出して発砲。
上空にて空中分解したことを確認した男は洋酒を片手で持って移動を始める。
低俗区『スラム街』のチャイナタウンは、区内一の繁華街として知られている。
昼時になれば区外からビジネスマンや観光客が来訪するが、
夕刻から朝方までギャングやマフィア、指定暴力団などが横行する無法地帯になる。
その影響もあり深夜時間で例え、爆音や銃声が飛び交うことがあっても住民は
何もしないのが鉄則となっている。
理由として挙げられるのは、
この区域にはまず警察署や消防署などといった庁舎がなく
自己・個人の責任で物事を解決しなくてはならず、
何もしないことが決まり事としているものの例外は存在する。
ギャングやマフィア、指定暴力団などといった集団組織、
一個人それなりに実力行使できる人間は
対抗する術を持ち合わせているため心配無用だろうが。
酔っ払う様子もなく男はずかずかと歩いて、とあるクラブハウスへ入っていった。
ドゥンドゥン、とリズミカルな高音質がテンポよく弾かれる中を割るように
男は声を張り上げる。
「ハーモットを呼べ」
カウンター越しでワイングラスを丁寧に拭く男性店員は、天井を指差すが
ギョロッ、と男がサングラスから覘かせる目で睨みつけられ
そそくさと店員は階段を駆けて2階へ。
ゴキバキ、と首の関節を鳴らしながらエレベーターに搭乗、
「3F」の上にある「WVW」ボタンを押した。
チーンチーン、2度到着音が響くと後ろの自動扉が開いたエレベーターの外には
若い女性が立っていた。
「お疲れさまです、椴松様。上質な赤ワインが入っておりますが」
「いまはいい。
「それよりも店を閉めろと、下のボーイに連絡してくれ。
承知しました、と女性は室内にある電話に手を掛ける。
通話に入った直ぐ後エレベーターから、
ポタポタ、と赤色の液体を垂らしながら真っ赤に染まったコートを
羽織った筋肉質な長身の人物が入って来るなり椴松を無視して
ドカッ、とソファーに腰を下ろす。
「どういうつもりだ・・・椴松。幹部集会でも開くつもりか?」
「いや、ハーモット。
「ゾディアックにこれから言う事を伝えろ。
「―――フィッシャーマンとの取引は中止、血戦軍と一時同盟を結べと。
その言葉にハーモットは激昂し、手前に置いてあった木製のテーブルを叩き割った。
「―――っざけるな!!
「どれほどの犠牲を払って、戦争を止めたと思っている。
「第一だ。あの戦争の引き金を先に引いたのは警察だろうが、
「くだらん詐欺事件で武器取引は中止、挙句の果てには血戦軍から詐欺扱い。
「アンタ、いい気になるな。
「例えチームの創設者でも、いまはオレがトップだ。
足を組んで叩き割ったテーブルに乗せると、
ハーモットは赤ワインの首を手刀で飛ばしてゴクゴク、と口内に注ぎ込む。
その応えに対して椴松は、鼻で笑って答えた。
「ほう、いいのか。取引を中止しなければ、オマエ等は檻の中。
「血戦軍との同盟を断れば、チームは潰れるだけだ。
「図に乗るな、若造が―――。
ハーモットの頭を素手で掴み、自前の握力で締め上げていく。
ミシミシ、と痛々しい音がするにも関わらず止めることなく話しを続ける。
「いま、血戦軍と組めばオマエ等は奴らを侵食できるチャンスだろう。
「これ以上俺を失望させると、後々困るのはオマエだ。
「成功に犠牲は付き物だ。
ハーモットの頭部を壁に叩き付けて女性に、
「修繕費には、俺の名前を使え」
その一言を放ち椴松は、エレベーターに搭乗して去った。
これから始まるであろう楽しい事件捜査に笑みを浮かべて・・・。