#004 違和感
「あの・・・、書き終えました」
神崎は『誓約書』と前金である「5万円」をわたしの方に向けて置いた。
契約期間 2020年 3月 8日
氏名 神崎 忍 (カンザキ シノブ)
誕生年月日 1996年 11月10日 [24歳]
携帯電話番号 ### - **** - @@@@
依頼内容 合成麻薬『ディアブロ』の物流・密輸ルート、製作元の捜索
依頼理由
「・・・・・・、いいでしょう。承ります」
依頼理由は不明記か。
わたしへの心理的な邪魔をしていない点はよい判断だと言えるが、
弟の薬漬けと『取締官』としての仕事以外になにか隠している?
・・・・・・、考え過ぎだろうか。
「それでは神崎さんは、自分の仕事の方に専念ください。
「何かあれば、こちらからご連絡を差し上げます」
『誓約書』に目を通したわたしは立ち上がって答える。
神崎も同じように立ち上がり一礼し
「お願いします」、と一言だけ口にした。
ポーチを持ち上げ、丁寧にお辞儀して退出していった矢先。
わたしは胸ポケットから旧式のスライド式携帯電話を取り出し、
ある人物に連絡を取った。
本来なら『彼等』に仕事を任せたくはないが、
今回に関しては致し方ない。
依頼人が事件に直接、間接的に関わりを持ち、
尚且つそれが新人の『取締官』なら尚更だ。
「もしもし、古賀です」
『彼等』は何処にでもいるし、何処にもいない。
『ウッス、古賀さん。ご無沙汰しています。仕事ですか?』
電話に出たのは若い男だった。
わたしよりも年下の性か、男は慣れない敬語で話す。
『彼等』というのは、わたしに協力してくれる仲間。
・・・・・・、仲間と言うよりは『ある縁』で繋がっている。
「トラはそこに居るか」
『しょ・・・少々、お待ち下さい』
若い男はわたしが『トラ』と言い放った瞬間から、
声質が急激に変わった。
当然と言えば、
当然だが少しばかりビビり過ぎだ。
いくら自分が所属しているギャングのトップとはいえ。
『暗証番号は』
唐突に出題された問題にわたしは迷うことなく9桁の番号を答える。
「842652369」
『悪いな、古賀。こうでも、しないと安心できなくてよう』
「気にすることはない。例の事件の後遺症みたいなものだ」
彼・・・『トラ』とは本名、獅子島 虎之助。
この町に潜むギャングの一団のひとつ『血戦軍』のトップである。