#014 ディーラー
執事服とは、一般的には燕尾服のこと。
男性が夜、パーティで着用する最上級礼服の一つで
裾が燕の尾のようなのでそう呼ばれる。
燕尾服を中心に構成される服装は白い蝶ネクタイを用いることから、
ホワイトタイと呼ばれている。
また戦前日本の服制については、この服装が『通常礼服』とされている。
『通常礼服』は『小礼服』とも呼ばれ、
『大礼服』が制定されていない
下級官吏や民間人の最上級正装とされていた。
現在では、家柄・身分に関係なく
アニメやマンガなど多くの分野でその用途を発揮している。
例えば、
ネット上で多く取り上げられているのが執事服を着たレイヤーさんに。
執事喫茶が女性に人気をもたらしている。
ようは戦前と違って、趣味の方面に足が伸びたといったところだろう。
しかし、ここで大きな問題が発生する。
果たしてわたしの前に座る、この男性は趣味の範囲で着用しているのかと。
もしも普段、日常からこの衣服を着用しているなら・・・。
余程のバカか・・・それはないだろうが。
金持ちか・・・リムジンに乗っているだけでそんな気はするが。
本物の執事か・・・あり得ないことはない。
・・・といった感じでわたしは頭の奥底で思考を巡らせていたことに、
如何やら、彼は勘づいたそんな風な顔でこちらを見ていた。
「さて、お話しをする前に自己紹介をしておきましょうか。
「私の名前は、高峯 重蔵 。
その名前を聞いた途端、
わたしの置かれている状況・立場が
どれだけ危ういかが分かったと同時に、
放っておくには実に惜しい、
面白味を感じ取ったわたしは反射的に口元がニヤけてしまった。
彼等のことは、世間一般には知られていない。
・・・と言うよりは知られてはいけない理由があるからだ。
コインには知っての通り『表』と『裏』がある。
夏希やジュン、雅弓のいる陽の当たる
―――『表』は平和な日常を送る人間が歩む世界。
トビや死んだ伊達なんかは影に生きる
―――『裏』は非日常に身を任せた逆転した世界。
2つの世界の他にもうひとつの世界『中間』が存在する。
わたしや刑事の巌城、漆原のおっさん・・・恐らくこの男も
―――『中間』は『表』と『裏』を自由に
行き来できる世界に身を置いている。
その中でも、想像以上に面倒な立ち位置―――。
「なるほど、
「元とはいえ金融庁の人間を庇うリスクを掻き消す。
「その度量とわたしに向ける圧倒的な警戒、
「慎重な行動―――それが示すのは、
「ディーラーだな。
年配の執事服を着た男―――高峯重蔵は、白い歯茎をわたしに見せ笑った。
「流石は探偵さんだ。
「貴方はご存じないかもしれませんが、
「こちらの世界で『古賀明彦』という人物を
「知らない者はいないんですよ。
「正しい判断だとは思いませんか?
「私自身、十分な警戒を取ったつもりではいましたが
「如何やら警戒のレベルを2ランクほど上げた方が適切だったようだ。
「いやはや、若い者からいいことをまたひとつ学びました。
「―――さて、この辺りで世間話は切り上げて
「貴方も知りたいでしょう?
「今回の事件の発端から終わりまでを・・・。
「そろそろ、入りましょうか本題に。
長話は覚悟の上だが、
わたしはこの男の遣り口が気に入らなかった。
一気にすべてが分かるほど盛り下がることはない。
話しが終わる時、
わたしは『退屈』な世界に身を投じる破目になるのだから。




