#001 挨拶
戸惑っているのか、
中々入ってこないことに痺れを切らして男は戸に手をかけ、
爽やかな作り顔で声を掛ける。
「ご依頼でしょうか、お嬢さん」
どこかの令嬢のような雰囲気を漂わせる女性。
ベージュのポーチを持って立っていた。
白のワンピースにデニムの青味のかかったジャケットをはおり、
少し栗色がかった長いストレートの髪に、
淡いピンク色の唇が特徴なカワイイ系の彼女。
しかし、どことなくあどけない。
彼女自身が緊張している性か、勘に障る違和感を覚えた。
戸を片手で押さえ彼女を事務所に通し、
《妖しいお店》のバーゲンで買ったお茶缶を彼女の前に置く。
彼女を座らせて分かった。指に指輪の跡がないこと、
香水をつけているが煙草臭はしない。スマートフォンの待ち受け画面は、
古い型ながらノーマルのまま。考察の結論から言って、彼氏はいない。
ジッ、と彼女の顔を見つめていると、
「あの・・・、なにか顔についてます?」
おっと、いかん。
悪い癖が出てしまった。考えすぎると一点を見つめてしまう。
「すいません、失礼しました。見惚れてしまいました」
「あ・・・・・・、えっと」
彼女は照れた顔を隠すようにお茶缶を開けて飲んだ。
照れた顔も可愛いがこれでは話が進まない。ここ等で切り出そうか。
「えーと、ご依頼はなんでしょうか」
彼女は照れた顔から一変。ポーチから新聞紙の塊を取り出した。
机の上に置くと滑らせてその塊をわたしの前に。
嫌な予感はしていたがいきなり物が出てくると、
晴れ晴れした気分だが拳銃?ではないようだ。重みが感じられない。
中身を確認するため、新聞紙の塊を解いていく。
重なり合った紙を取っていくと、
小さな透明の袋にピンク色の錠剤が入っていた。
錠剤には「D」と記されている。
見た瞬間になんのか直ぐに理解できた。
これは最近、町で蔓延している覚せい剤『ディアブロ』。
名前通り、悪魔の薬。
依存性が非常に強く気性が荒くなり、
暴力行為に及ぶ少年少女が急増している。目の前にあるのは錠剤だが、
他に粉末10グラム当たりや飴やガムといった。
一般的な小学生やら口にする物までにも入っていたことが確認され、
以降、昼夜問わず至る所で見廻り私服警官がうろついている始末だ。
始めに言っておくがわたしは犬ではない。
最初、彼女を嗅いだ時香水以外の香りはしなかった。
覚せい剤常習者にも見えないが。
「このクスリの出元を調べてほしいのです」
いきなり話が飛んだな。
「どういうことですか」
その質問に彼女はゴクリ、と唾を呑んで答えた。
「正直に話します。わたしはこういうものです」
彼女がわたしに差し出したのは黒革の手帳だった。
俗に言う警察手帳かと思いきや厚生労働省と、
書かれた名刺を手帳から取り出す。
名前、「神崎 忍」。
「麻薬取締官ですか」
「ええ。流石は探偵さんですね」
誰にでもわかると思うけど・・・。
覚せい剤に厚生労働省の職員と言ったらそれしかない。
「取締官がなぜ、探偵に依頼を?」
「外されてしまったので・・・」
「外された?」
「私の弟が、薬漬けになってしまって、その・・・」
そのまま神崎は黙り込んでしまった。
なるほど、家族や親族などの身内が犯罪に手を染めたなら理由は分かる。
非合法な捜査や一線を越えないため。
この件から外されたというところだろう。
「分かりました。受けましょう。その依頼」
「投稿の気持ち」
・・・・・・、少々普通過ぎかもしれません。ありがちな展開。
次回にご期待ください。