#015 不注意
興味が削がれたわたしだったが依頼は依頼だ、と心の中で呟く。
掛けていた伊達メガネを胸ポケットに収めていたケースに仕舞い入れ、
黒革の手袋をギュギュッ、と両手に嵌めたわたしは彼の目を見る。
真に迫る勢いで、
「アンタ、それだけの理由で16人の命を奪ったのか」
16人。
この数字に辿り着いた時はまだ、15人だった。
増えてしまった一人の犠牲は、わたしの不注意が招いた結果だった。
5時間前。
わたしは知り合いの刑事・・・巌城祭 警部補に連絡を取った時に
その事件が起こってしまった。
24階のマンションの屋上から転落による自殺。
自殺したのは、神崎尚也。依頼人、神崎忍の弟だった。
わたしが駆けつけた時には、既に亡くなっていた。
転落直後、
奇跡的に意識があったものの緊急医療センターに到着する3分前に。
救急車の中で、応急処置をしたが静かに息を引き取ったということだった。
自殺の原因は、麻薬の禁断症状に耐えることが出来なくなった、
という遺書がノートパソコンに書き留められていた。
キーボードやタッチパネルとなった画面からは
尚也以外の指紋は検出されなかったことから
踏まえて警察は『自殺』と判断した。
神崎忍は、弟の座っていたイスの前に倒れ込んだ。
無理もない。
わたしが言ったことを無視してまで事件を追っていたのだから、
彼女の心は既に崩壊寸前だったのか、
自分を責めていたことは直ぐに分かった。
だからこそという訳ではないが、
わたしは彼女のことを無視できない。
それはわたしが探偵であり、彼女は依頼人だからだ。
泣き崩れた彼女に向かってわたしはそっと手を差し伸べる。
「大丈夫です。わたしはあなたの味方です」
彼女はコクリ、と頷てわたしの手を震えながら握った。
弱弱しい、その手からは想像つかないほど強く。
強く・・・わたしの手を握った。
「お願いします」と事務所から去った時とは全く違う、願うように。
彼女はわたしに頼んで来た。
警察に彼女の保護要請を巌城に頼んだわたしは、
絶対に関わりたくはないが、仕方なく警視庁に足を踏み入れた。
捜査一課の警部補、巌城にしぶしぶ資料を貰ったわたしは。
ある推測をもとに、頭の中で一気に『整理』を行う。
合成麻薬、ディアブロ、麻薬取締官。
12から25歳、学生、職業。
裏と表、密輸入の規制、純国産。
3年前、麻薬騒動。
夏希に送ってもらった資料から、3年前の麻薬成分と。
巌城から受け取った資料から、今回の麻薬成分。
そこでわたしは『アピス』と『メル』を思い返し、あることに気付いた。
彼等がかつて、どこの学校に通っていたかを。