#012 イカレタ司会者 <前>
自分たちの身に何が起こったのか未だに分からぬまま、
数分が経過した時だった。
旧型のブラウン管テレビの電源が入る。
ノイズ音が狭い一室から耳に響き渡ると、テレビ画面『映像』が乱れる。
スノーノイズまたは砂嵐と言われる現象。
アナログテレビ放送を受信する際のノイズの一種。
画面『映像』に白い点が多数ランダムにポツポツ、と現れる障害。
画面に雪を降らせたように見えるためこのように呼ばれる。
数秒、映像が乱れたあと画面に男と思われる顔が映る。
男は渋い声で「マイクテス」と繰り返し言って、
こちらの反応を窺うような目で
少年の瞳をジッ、と見つめる。
目が見開き、呼吸をしていることを確認した男は口を開く。
『起きたようだな。名も知らぬ少年君子。
『いま、自分たちの置かれた状況をうまく理解していないようだな。
『ああ、安心しなよ。そっちで意識を失ってる嬢ちゃんには
『まだ、
「まだ」という部分を強調して、薄気味悪い笑みで少年を見下し。
『手出しはしていない。
『キミの返答次第では、女に飢えた狂犬の餌になるだけだが。
『さて、し・つ・も・ん・タイムで――す。
陽気な発言をした男は、問いを出題した。
『第1問。キミの名前は?
「・・・・・・・・・・」
『あれあれ、黙り込みはNGですよ―――。
『仕方ないですね。それではご登場お願いします。
『危険地帯『ロンシュウ街』から来た―――、
どこかのプロレスの司会演説の喋り方で飄々と続ける。
『ワイセツ陳列罪から始まり、婦女暴行罪、少女監禁罪など成した狂犬。
『踝 蘭 。
パッ、と出入り口と思われる場所に明かりが灯る。
透明のガラスの向こう側には、黒い覆面を被った上半身ハダカの人間が。
荒々しく息を吐きながら異様な空気を感じ取った少年は、
「わ・・・分かった。僕の名前はタオ・ジュン」
『OK、OK。理解が早い少年君子には『褒美』をあげよう。
『ジャ、ジャーン。彼女の身体の鎖を解く『1番目の鍵』だ。
天井からキラッ、と輝く物が落ちてきた。
チャリン、と床に落ちる音がした。
顎を引いて下を見ると確かに『1番』と記された鍵があるのが見えた。
『これから出す問題に対して、正しい答えを言えば。
『おうちへ、帰してあげよう。
『ただ、
『間違った答えは、キミ自身の『体』と彼女の『心』が崩壊を招くだけだ。
『それでは第2問。彼女の名前は?
「連山 雅弓 」
『第3問。鍵ゲットのチャンス、
『『アピス』と『メル』キミ等のコードネームの意味は?
「⁉」
『どうして、ぼく等のコードネームを知っているのかって顔してるね。
『教えて上げるよ。答えられたらね。
「・・・・・・、『アピス』はラテン語でミツバチ。
「『メル』もおなじくラテン語でハチミツという・・・意味です」
『正解で――す。ご褒美に彼女の手首を解く『2番目の鍵』をあげよう。
『鍵はキミの座っているイスの裏側だよ。
男は相も変らず、薄気味悪い笑みで少年を威嚇する。
少年は心臓をドクドク、と脈打ちながら次の質問を待った。
この時、『尾行』というスリルを楽しんでいた
心燻ぶる躍動感は少年から消え失せ、
代わりに残酷な恐怖感と臆病な檻によって閉じ込まれていた。