#010 レッドゾーン
「もう、難しい話は終わった? 古賀さん」
待っていたのは、マスター・・・漆原玄武のひとり娘。
紫色の大人びた浴衣を着こなした女子大生、
漆原 夏希だった。
見たところ、買い物袋を持っていないようだが。
まさか・・・とは思うが―――。
「待っていたのか?」
「うん。お父さんは私が何も知らないって思ってるだろうけど。
「これでも一応、なんでも知っている『探偵サークル』の副会長だよ。
「えっへん。
夏希は腕組みをして威張り、サークルの名刺をわたしに渡した。
明誠女子大学『探偵サークル』。
No,1345 9代目副会長。
漆原 夏希。
携帯電話番号 「090-####-@@@@」
明誠女子大、この近辺で最も大きく人気のある女子大学。
生徒数は1546人。学科には、普通科。技術科。情報科。進学科。
芸術科。福祉科。生物学科の7分野に分かれ、
サークル活動が活発で有名だ。
その中で、『探偵サークル』は芸術科に属している。
3年前に起きた『麻薬騒動』の事件に捜査協力したことで、
有名を博したと聞くが。
「・・・・・・、夏希。
これは、わたしの推測の域に過ぎない。
確証はない。しかし、可能性はある。
「3年前の『麻薬騒動』事件の資料は、まだ残っているか?
「ええ。まだ、サークルの資料室にあると思うけど・・・・」
「その資料を画像保存して、送ってもらえるか。
「うん。分かった」
巻き込むつもりはない。
しかし、もし3年前の事件と今回の事件に多少なりとも繋がりがあるなら・・・。
大きな前進になる。
わたしは夏希と別れた後、ある人物に連絡を取った。
2件の捜査情報を持ち、わたしとは正反対の人間性を併せ持つ。
『絶対的な正義』を掲げる情熱の塊、警視庁捜査一課の刑事。
巌城 祭 警部補に。
その一方、2人組の男女が路地裏の影からある人物を尾行していた。
身長は164センチ、外見は痩せ型で細身。
服装は白のワンピースに、
青味の掛かったデニムのジャケットを羽織っている。
そのせいか、彼女の存在は浮いて見えた。
なぜなら、この『危険地帯』と呼ばれている区域でそんな格好をしている人間は、
彼女を除いて、誰もいなかったからだ。
町の南端に位置する区域を一般的には皆、『危険地帯』と呼ぶ場所は。
警察さえ立ち寄らない完全な無法地帯となっている。
外来系の『ストリートギャング』や『マフィア』がうろつき、
密売を目的とした『銃火器』『外国人』『娼婦』などの取引、
犯罪者の隠れ蓑となっているなどの影響によって。
近年、治安の悪化が懸念されている。
そんな場所で彼女は。
誰かとデートに行くわけでもないのに、完全に浮いた彼女の外見は。
目の黒い連中や犯罪者から「狙ってくれ」と言わんばかりだ。
その上、彼女は白い錠剤を持ち歩いて路上に座っている人間一人一人に、
訊いて回っていた。
彼女の行動が正気の沙汰とは思えない異常に見えた2人組の男女は、
息と存在を殺しながら、
彼等は自分たちに課せられた仕事を全うしようとしていた。
「投稿の気持ち」
次回も引き続き、『尾行』のお話し。