#008 本性1
「ちょっと、お父さん。古賀さんはそんなことしないよ。
「ほら、立ち話もなんだし。
「座っててください、いまお茶を淹れてきますから。
気立てのいい彼女がそういうと、丸くなったように怒りを殺す玄武。
・・・だったが、彼女がいなくなった瞬間から殺気。
高い場所からの視線が鋭くわたしに突き刺さった。
いつも座っているわたしの指定席に腰を下ろすと、目の前に仏頂面が立つ。
「―――で、要件はなんだ。
「娘のお茶を濁すような話ではないだろうな、古賀。
「・・・・・・・・・・」
わたしは答えられなかった。
いくらこの男の娘とはいえ、
こちら側まで足を踏み入れていない彼女を前にして。
話す内容ではないと判断をしたわたしは口を閉ざしたまま、
お茶を待っていた。
無言のまま時間が過ぎていく中、慌てた物言いで奥から彼女の声がした。
「お父さん、ごめんなさい。お茶、きれてたから買ってくるね」
彼女は浴衣のまま、足早に店の入り口の前で一旦止まる。
振り返ってわたしの方を見て、
「ちょっと遠いけど、『玉露屋』で美味しいの買ってくるから待っててね」
そう言って笑いながら彼女は
カランカラン、というドアベルとともに外へ行った。
それを確認したわたしは、マスターに話しを振った。
いま、町で蔓延している。
合成麻薬『ディアブロ』に関しての有力な情報を入手するために。
「マスター、もう耳に入っているんだろう。
「わたしがここに来た理由、わたしが調べ始めた事件について
「ああ、知ってる」
見透かしたような言い方だった。本当になんでも知っているような。
「古賀よ、今回の件。掃除するつもりか」
「ええ、もう裏の話だけでは無くなっている。
「放置し続ければ、痛い目に遭うことは必然的と言っていいでしょう。
「あくまでも、わたしの見解ですが・・・。
必然的・・・必然性は確かにあった。
可能性から計算しなくとも、結果は見えている。
『流行』ではなく『蔓延』。これが意味するのは、途轍もない脅威である。
ドラッグに溺れた人間の末路は決まっている。
それが若者を中心に蔓延したとなると、
これから社会に出る人間がいなくなることを指し、いつの日か町は消える。
それだけは・・・避けなければならない、
というのが本来ふつうの人間が考えること。
わたしの場合、商売がすべてだ。
商売が出来ないということは、探偵業という仕事においてスリル。
そういう『スパイス』を味わえない日常が来るということ。
もちろん死んだ町でゾンビの様に這いつくばる人間を見る日常、
というのもありかも知れないが、
それでは面白くない。
わたしが欲しいのは、
極上の好奇心という名の『メインディッシュ』の上に。
スリルといった緊張感『スパイス』を振り掛けて食べることが、
至福のひと時だからだ。
「投稿の気持ち」
探偵さんの本性を入れてみました。
読み返すと、ゾクッとします。それって、わたしだけ?