表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

最終話『全てを終わらせるとき』

 それからというもの。

 美穂乃は頑張った。モックとリンも頑張った。監督も編集作業を頑張った。

 魔法少女の本場で撮影された、魔法少女モノというだけあって、それは先進的な文明だろうと変わらないニッチな層に受けて、文化保護局は金欠から救われた。

 美穂乃の魔法少女としての変身時間も、後半になるに連れ、伸びていった。今では三分+延長二分までありだ。ちっとも嬉しくない。


 そして、一週間にも及ぶ激戦、死闘につぐ死闘、その他もろもろをこなし、美穂乃一行は敵の本拠地にいた。


「長く苦しい戦いだったな……」

「いやあ、怪人たちは強敵だったモックね……」

「まあ、この本拠地だって最初から判明してたわけだどリン……」


 彼女らの目の前にはビルがあった。

 立地は、美穂乃の家から徒歩八分だ。


「なあ、なんでこんな本拠地が近いんだ……?」

「ああ、今だから言うモックけれど、敵の怪人はこっちからハッキングかけて、安全なレベルに弱体化させてたモック……」

「このビルも、ついさっきハッキングかけて場所を変更させたリン」


 美穂乃はその言葉を受けて、まあ当然だよな、と思った。

 最初の扇風魔人から始まり、近寄ると少し熱い電子煉人に、エコロジー設定でしか動かない冷暴君、ただただ眩しい電球児――。

 先進世界では、もはや戦争に人の兵士を使うのはハイコストとなっていて、人工知能をもった兵器を使うのが当たり前になっているようだが、少なくとも、上記の怪人たちを使うくらいならば、鈍器を持った一般市民の方がいい。


 うだつの上がらない空気の中、美穂乃はビルを駆け上がる。


「敵がいるの四階らしいリン」

「エレベーター使うか……」


 美穂乃はエレベーターでビルを駆け上がる。

 目的階につき、エレベーターの扉が開くと、そこは別世界だった。


 フィクションの世界にありがちな、司令室とでも言えばいいのか。

 近未来的な機械がピコピコと動いていて、真正面には大きな画面。そこには美穂乃が映っていた。


 そして、画面の前には男が座っていた。

 こちらに背を向け、美穂乃の映る画面をじっと見る男。


 男の肩は、笑いを堪えるように上下していた。


「……なにがおかしい」


 ここに来て、美穂乃は始めて、この茶番からリアルを感じた。

 今までは全て、冗談のようで、事実、世界征服を企てている敵と戦っているはずなのに、恐怖や危険なんてものを感じことはなかった。


 しかし、目の前の男から、今までは違う、異質な何かを感じた。

 男から溢れだす雰囲気は、圧倒的なリアル。

 一気に現実に引き戻されたような感覚な包まれた美穂乃の頬に、冷たいものが伝う。


「な、にがおかしい、ってぇ……?」


 ところどころイントネーションがおかしい喋り口。

 引き笑いをしながら喋っているような感じだろうか。肩の上下は激しくなり、まるでこちらを馬鹿にしてるようである。


「馬鹿にしてるのか……?」


 美穂乃は、自分の声色が硬くなっているのを感じる。

 緊張からか、思ったことをそのまま口に出すことしかできなかった。


「ば、ばば、馬鹿にして、してる……?」


 まるで壊れたラジオのように。

 男は、じーっと、美穂乃の映る画面を見ながら、独り言のような言葉をこぼす。


「は、ははは……」


 笑った。


「はっははははははっ!!」


 男は、盛大な笑い声を上げた。

 近未来的な部屋に、空回るように、声が響いた。


 そして。

 くるり、と回転式だったらしい椅子を回し、画面から本人へと視線を移すように、男は美穂乃に振り向いた。


「馬鹿にしてるのは、てめえらだろおおおおおおお!!」


 男は――泣いていた。


「……え?」


「おがしいだろ! なんだよ! わっげわがんねえ゛よ!」


 涙と鼻水で、髭面をぐしゃぐしゃにしながら、大のおとなが泣いていた。


「こっちが……! 作った、兵器は……、なんが、わっけわかんねえ怪人にされるし……!」

「お、おう」

「検索してみだら……! なんが、魔法……、しょ、少女とか、言って、売り出してるじぃ……!」

「お、落ち着け」

「そりゃ、ごっちが、悪いけど……! 悪の組織だけど……! ごんな、こんな゛ぁ、仕打ちで潰ざれるのは、おがじいぃ……!」

「わ、わかるぞ。わかるぞ、その気持ち」

「うぐぐああああ……!!」


 大のおとなが男泣きだった。

 号泣だった。美穂乃によしよしされながら、鼻水をずびずびと言わせている。


 男はモニターで、美穂乃見続けていた。

 丹精込めて作った兵器を、勝手に弱体化されて倒されるさまを。

 くわえて、その映像は、フィクション作品として売られているし。

 しまいには、逃げようとすると部屋にロックがかかり、ここに閉じ込められ。

 自分が追い詰められていくさまを――美穂乃が近づいてくるさまを、まるで死刑台に登るかのような心境で見続けていたのだ。


 美穂乃は感じた――圧倒的リアルを。

 こんな茶番に左右される、生死が掛かっている現実。

 美穂乃たちの戦いの裏にはあるのは、こんな世知辛い現実(リアル)だった。



 そんなふうに、美穂乃が男を慰めていると、ふわふわとリンが近づいてくる。


「ふんっ!」

「な、なにをしてるんだ……!?」 


 リンは、男の頭に謎の電極をぶっ刺した。

 そして。


「ふははは! 来たな! 魔法少女ミホノよ! 悪の総帥たる俺様が、直々に相手をしてやろう」

「…………」


 無言の美穂乃に、リンが、ぐっとサムズアップを見せる。


「さあ、ラストバトルリンっ!」

「やりにくいわっ!!」


 ――こうして。

 洗脳された男と美穂乃の消化試合(ラストバトル)はつづがなく終わり。

 美穂乃の魔法少女としての戦いは終わったのであった。



 かに、思えたが。



「~♪」

 

 鼻歌交じりで、料理をしている美穂乃。

 あの頭のおかしな一週間から、既に一ヶ月が経過していた。


 手元には、未だにあのとき貰った金が残っている。

 税金とかその辺はどうなっているんだろう、とも思ったが、なんとかなっているのだろうと決めつけ、欲しいものに使ったり、ちょっと夕食豪勢にしたりしていた。


 苦労もあったが、あの一週間で一皮むけたような気もする。

 お金も貰ったし、悪いことばかりでもなかったかな、などと考える美穂乃であるが、それは喉元過ぎて熱さを忘れてしまっただけである。


「ミホノ! 久しぶりモック!」

「やらない」


 唐突に、響く声。

 セキュリティ万全なこの部屋で、自分以外の声がするというのは、まさしく異常事態であり、それは、喉元を過ぎて忘れてしまったはずの熱さを瞬時に思い出させた。


 条件反射のように、美穂乃は会話を先読みして拒否した。


「実は続編の話が……って早いモック! 拒否するの早いモック!」

「あのときのやるせなさを忘れていた自分が恥ずかしい。絶対にやらない」


 美穂乃の意思は固かった。

 もう、あのような惨劇を繰り返してはいけないのだ。

 何があろうと、美穂乃が彼らに協力することは無いだろう。美穂乃の目にはそう思わせてくれる芯の強さがあった。


「今回は正規の契約ということになるモックから、これくらい」


 なんだかいやらしい顔をしているモックの手元に紙が現れる。

 お金で釣ろうとしているのが、まるわかりである。うろんな目で、紙に目を向ける。

 

 ちらりと、紙に書いてある金額を目に映した美穂乃は、一度目を瞑り息を整えた。

 吸って吐いて、たっぷり三回深呼吸をしてから、ゆっくりと、紙を受け取る。薄っすらと開けた目で紙に視線を落とす。目を見開く。いやいや、と首を振る。しかし、もう一度目の向ける。天を見上げるようにして、顔に手のひらを置く。手のひらのすき間から、ちらりともう一度、金額に目を向ける。


 そこに書いてあるのは、もしもこれがサラリーマンの平均年収になってしまったら、一戸建ての価値が「俺の給料一〇年分」から「俺の給料一年分」に様変わりしてしまうというものだった。 


 結果。


「やります」


 ――そうして、彼女はこれからも戦っていく。

 愛と平和など放っておいて。

 勇気と希望なんてほっぽり出して。

 大人の事情とお金にまみれた、劇場型魔法少女は、今日もきゃぴきゃぴ、戦っていく。






読んでくれてありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ