序章『それは不思議な出会いなのか?』
一発書き。一発ネタ。推敲してない。よろしくお願いします。
「プリティーまじかる! メェイクアップゥ!」
甲高いソプラノボイスとともに、少女の周囲は一変した。
またたく間に展開される、ショッキングピンクな空間。
少女を中心として、どこからともなく現れ、迸る、きらびやかな星々。
それらは流星のように、少女の周りを駆け巡っていく。
少女が四肢を強調するような踊りを見せると、その動きに合わせて、身に着けている衣服が泡のようにはじけ飛んでいった。
しかし、大事な部分は流星の残像を思わせるエフェクト群が覆い隠し、そのまま少女の全身を取り巻いていく。
少女を包む、そのエフェクト群が白い光になったかと思うと、それは、少女の肌に定着するように収縮し、最終的には服らしき輪郭をかたどっていた。
白い光が収まった後に残るのは全体的にピンク色をした少女趣味な服。
フリフリのミニスカートに、半袖のドレスを身にまとった少女がそこにいた。
「乙女ちっくなハートがキュンキュン! 甘い香りでアナタをメロメロ! おいたをする子はバッチリ成敗! 愛と正義で魔法な少女――プリティーミホノ、見参!」
諭吉さん一万人分の笑顔。
セリフも噛まずに完璧。
まさに魔法少女の鑑。
「プリティー……ミホノ、か」
だが、そんな笑顔も束の間――少女は顔に苦々しいものを浮かべた。
ただ表情が変わっただけだというのに、二、三歳も老けたように見える少女――いや、そこにいるのは一人の女性であった。
「解せぬ」
「モックもだモック」
「リンもだリン」
劇場型魔法少女と、社畜マスコット聖獣は、そう呟いた。
牧野美穂乃は途方にくれていた。
というか、困窮していた。
端的に言えば、お腹が減っていた。
役者を育成する専門学校に通っている美穂乃は親の仕送りで生活をしている。ある理由からバイトもままならない彼女にとって、仕送りが唯一の食いぶちであったわけだが。
「だからあれほど振り込みにしてくれと……」
郵送でいつも届く仕送りが、郵便局の手違いからか、美穂乃の許に届いていなかった。そして、美穂乃には既に金が無かった。
「いや、お父さんを恨むのはお門違い、か」
空腹を紛らわせるために、田舎の父を思い返してみる。
美穂乃の父は、ATMとLTEの違いがわからないようなアナログ人間だった。
「ATMとLTE? おお、ATMは分かるぞ。俺も若いころは空手をやっていたからな。当身は基本中の基本だ。今はこんなんだが、若いころは熊をな――」
美穂乃の回想の中で、父の自慢話が始まった。空腹のせいで色々とおかしくなっている美穂乃は、まるで走馬灯のように、それすらも懐かしく感じていた。
父の自慢話が始まると、母がたしなめるのだったなとぼんやりと思い返す。
「お父さん、その話はもう何度も聞きましたから」
「おおう、そうか?」
「それと、ATMは現金自動預け払い機の略称で、預貯金口座への現金預け入れから、宝くじの購入なんかもできちゃう機械よ。そしてLTEは新しい携帯電話の通信規格で、現在普及している3G回線を超える高速通信のことね」
「お母さんそんなに詳しいならATM振り込みにしてぇ!!」
思わず、空想の両親にツッコミを入れる美穂乃。彼女はもう駄目かもしれない。
今の大声で、美穂乃の中の決定的ななにかが切れてしまったように、ばたりと倒れこむ。
「ああ……もうご飯くれるなら、なんでもする、だから」
誰もいないマンションの一室。オートロック式。防音も完備。独り身の女性も安心。よって美穂乃の声は誰にも届かない。はずだった。
「い、今なんでもするって言ったモックか!?」
しかし、美穂乃の耳に届く、自分以外の声。
可愛らしい、少年のような声色だ。
「だ、誰……?」
美穂乃はゆっくりと身体を起き上がらせる。そこにはぬいぐるみが浮いていた。
「誰でもいいモック!! さっきの言葉は本当モックな!?」
いや、ぬいぐるみではない。兎のような長い耳を揺らし、猫のような愛くるしい口を賢明に動かしながら美穂乃に語りかけていた。……賢明というより、必死なようにも見えるが。
「ご飯、くれるのか……?」
「あげる! いくらでも食べさせてあげる! だから!!」
どんどん泣きそうな声になっていく兎耳の猫風生き物。
「魔法少女に……魔法少女になってくださいモック!! 後生モック!!」
もう泣いていた。光のグラディエーションが入った、大きくクリクリとした黒い瞳に涙が溜まっていく。
一枚絵で見れば愛らしい姿だが、先程からの言動が必死過ぎて、朦朧としている美穂乃でも軽く引いた。
しかし、食べ物をくれるらしい。今の美穂乃に、どれだけ甘美に響いたことか。
「わかった。えっと……魔法少女に、なる」
「あ、ありがとうございますモックゥ!!」
そうして、今ここに魔法少女プリティーミホノとマスコット聖獣が出会った。