塩キャラメル
「あのさ。ごめん。本当にごめん。」
中学の頃から3年間付き合っていた彼が頭を下げた。
学校の帰り道彼は急にそう言った。
「なにしてるの?」私は彼に問いかけた。
急すぎて、何が起きているのか分からない。
彼は「他に好きな人が出来た。」と言った。
「酷い。最低だよ。どうして?私達・・・・」私は泣きながらそう言った。
でも。
彼は「ごめん。別れて。」と言い残し、去っていった。
どうして、こんなにもあっけないのだろう。
どうして、こんなにも簡単に気持ちは変わっていくのだろう。
(私の何がいけなかったの?好きって言ってくれた言葉は嘘だったの?)
「私は、もう恋なんて出来ないよ。」
私はそういって、その日は涙が枯れるまで泣いた。
次の日。
朝、教室に向かう途中の廊下。
私はうつむきながら、歩いていた。
腫れた目を隠すために。
すると、前から聞きなれた声が聞こえた。
「おはよう。立花。元気かっ?」
私が顔を上げると、社会の前田先生が立っていた。
前田先生は20代後半の男の先生。
私の委員会の先生ということもあり、かなり仲のいい先生。
「せんせーおはよ」
私は、先生に挨拶をかえした。
すると、私の顔を見た先生がぎょっとした顔で私を見た。
先生は「ちょっとこい。」と私の腕を掴んで、無理やり屋上に連れて行った。
先生は私を屋上のベンチに座らせた。
「どうしたんだ?そんなに目をはらして・・・」先生は私の隣に腰をおろして私に問いかけた。
(ズバリ、言いにくいことを聞いてくる・・・。)
私はうつむいたまま「ふられた」と言った。
先生は「そっか」と言い、何故か私の頭をなでてくれた。
(温かい・・大きな手)私はふとそう思った。
「学生同士の恋人なんてあっけないものさ。いやー実は、俺も半年前にふられた。彼女に浮気されたうえに、ふられた。俺さ。その時、もう二度と恋愛なんて出来ないって思ってた。でも人間ってのは不思議だよな。そう思っていても、また誰かを好きになってるんだ。」
先生は苦笑いしながらそう言った。
「私もそう思ってた。ねぇ先生。私もまたちゃんと人を好きになれるかな?」
私は先生に言った。
先生は、黙ってうなずいた。
先生が頷いてくれた瞬間、涙があふれてきた。
枯れたと思っていた涙が。
どうしてか分からない。
でも、気がつくと涙を頬を伝っていた。
「恋愛は難しいよな。俺も未だに上手く出来ない。どれだけ好きでいても気持ちは離れたりする。上手く気持ちが伝わらなくて、相手を傷つけたり泣かせてしまったり。でもさ。人はいつか自分の大切な人と出会うだろ?だから、上手くは言えねえけど。練習なんだと思う。いつか出会う大切な人と上手くいくように。
ちゃんと愛せるように。それでもさ。いつか出会う大切な人と上手くいかなかったら。そのときは、沢山悩んで、沢山考えて。少しずつ上手くいく努力をしていったらいいんじゃないかって、俺は思う。」
先生はにっこりと微笑んだ。
それにつられて、私も微笑んでいた。
振られたもの同士だからか。
先生の言葉はすごく共感できる。
心の中にストンと落ちる。
なんだか、少し心が軽くなった気がした。
私はベンチから立ち上がって深呼吸をした。
「先生。私、もう大丈夫だよ。ありがとう。励ましてくれて。」
私は隣に居る先生に向かって言った。
先生は黙って頷いた。
先生は急にポケットをごそごそし始めた。
先生はポケットから箱を取り出した。
「食べる?」と言って取り出したのは、塩キャラメル。
「塩キャラメル?」私は笑った。
甘い飴や、甘いキャラメルではない。
しょっぱいキャラメル。
先生は「そう。塩キャラメル。今の立花にぴったり。」と一粒くれた。
それから先生は思い出したかのように時計をみた。
「あっ。職員会議が始まる時間だ。俺、行かなきゃな。もう大丈夫そうだし、俺は行くわ。じゃあ、また授業せな。無理しないようにな。」と言いながら、私の頭をなでた。
私が「うん。」というと、笑って片手を振りながら、職員室へと走っていった。
私は、先生の後姿に「ありがとう」とつぶやいた。
それから私は先生にもらったキャラメルを食べた。
しょっぱいけど、甘い。
しょっぱいときには、涙の味がして。
甘いときには、元彼との楽しい時間を思い出した。
(人はこうして涙の味を知って、いろいろな経験をして成長するものなのかな・・・)
私は、ぼんやりそんなことを考えていた。
そのときチャイムが鳴り響いた。
「いけない。急がなきゃ。遅刻しちゃう・・・・」
私はあわてて教室へと向かった。
(先生。ありがとう。すぐには吹っ切れないかもだけど・・・でも、もう泣いたりしない。)
読んでくださり、ありがとうございました。
初めての短編で、上手く書けなかったのですが・・。
次は、もっと頑張りますのでよろしくお願い致します。