紅桜
初めてです。
皆さんはじめまして。
へたくそですが、よろしくお願いします!
この小説は霧島桜子という天才の話です
私は天才だ。
欲しいものは何でも手に入れた。
お金や物、地位や権力を。
全力を出さなくても簡単に手に入れた。
どんなものでも。
それでも、手に入らなかったものがあった。
私の手の上からこぼれ落ちたものがあった。
彼という存在。
彼の心だけがつかみ取れなかった。
彼の心は他の女の子に奪われた。
その頃あたりから、私は病気になっていた。
おそらく、恋の病という病気に……。
紅桜
「霧島、助けてくれ!」
別に非常事態って訳ではない。ただ、彼は宿題をやっていないだけ。
「また?」
私はぶっきらぼうに答える。
「そんなこと言わずに頼むよ!次は必ずやってくるからさ」
「浩介、前回もそんなこと言ったわよ」
「そうだっけ?いやそんなことより、貸してくれよー。頼む!一生のお願いだ!」
「はぁ……、仕方ないわね」
そう言って数学のノートを差し出す。
「サンキューな。あともうひとつ…」
「どうしたの?」
「……いや、もう二つかな?」彼は言いづらそうにする。
「国語と物理の宿題も見せてくれ!」
ずっこけそうになった。
「浩介、いくつ宿題してないのよ!」
呆れかえる。
何してるのよ、まったく。さっきの授業も寝てしかいなかったじゃない。
「宿題は自分でしないと意味がないのよ」
「二人よりさえば文殊の知恵というだろ」
「言わないし、あんたが一方的に知恵をもらってるだけでしょ」
「一生のお願いだ!貸してくれ、霧島!!」
「はぁ……、あんたには呆れるばかりよ」
そういって課題を手渡す。
なんだかんだ言っても、彼に対して私は優しい。
「サンキュー!今度何でも言うことを聞くから!」
「なんでも?なら私を彼女に…」
そう言うと私の返事も聞かずに、自分の席に走って行った。と思ったら、他の場所に行こうとしたので、消しゴムを投げつけて自分の机に向かわせた。
私は彼、井ノ原浩介に恋をしている。
きっかけは入学当初だった。
みちに迷っていた私を正しいみちに導いてくれた。彼が手を引いてくれた。
それ以来、彼をみるたびに心が切なくなっていった。動悸が激しくなり、顔が赤くなった。いつも彼のことを見るようになり、考えるようになった。
これが恋だと気づいた。気づくのに半年かかったけど。
私は行動するのは早い方だ。
だから私は彼に告白した。
そして私たちは付き合うことになった。
毎日が楽しかった。新鮮だった。嬉しかった。
でも、そんな幸せな時期もあっという間に過ぎ去っていった。
突然、彼から別れを告げられた。
理由は彼の本命が入学したからだ。
もともと彼は一つ年下の唐沢留美を好きだったようだ。
でも、私たちが通う高校に入学できそうもなかったので諦めていた。諦めた。
ちょうどその時期に私から告白されたため、新しい恋をしようとした。
でも、唐沢留美が入学したという情報を聞き、彼の興味は彼女にいった。
そして私は捨てられた。
信じられなかった。信じたくなかった。信じなかった。
初めは何も食べなかった。
現実を認識するたびに心が締め付けられ、涙がでてきた。
学校に行くことができなくなった。彼に会いたくなかった。
以前の私は見る影もなくなった。
何も食べなかったので栄養失調になり痩せこけた。頬はこけ、目のしたにはクマができた。
それでも、頭の中は彼の言葉だけが鳴り響いていた。
「すまん。桜子とはもう付き合えない」
私は入院した。
腕には注射の針が刺さっていた。栄養を注入するためだ。
クラスメートが何人か見舞いに来たけど、部屋に入れなかった。
誰とも関わりたくなかった。誰も接したくなかった。
ある日、彼が見舞いに来た。
いつものように追い払おうと思った。
でも、できなかった。
「もし、お前の持病なら仕方がない来なくてもいい。でも、オレが振ったのが理由で入院したのなら、退院してくれ。お前がいないとオレが困る」
その言葉が私の冷め切った心に火をともした。
私はまだ彼に必要とされている。そう思うと私は力がでてきた。
その日から私はリハビリに励んだ。
毎日毎日。辛くてもきつくても。
彼のため。そのためだけに。
そして見事に私は学校にいける状態になった。
でも、浩介と唐沢留美が愛し合っているところしか見れなかった。
チャイムがなる。下校の時間だ。
いつものように帰ろうとして玄関に向かった。
「……はぁ、まただ」
下駄箱を開けると私の靴いっぱいに画鋲が入っていた。ここ最近こういう嫌がらせが毎日ある。
でも、浩介には言ってない。彼に余計な心配をかけたくない。
いつものように床に画鋲を捨てた。
「うわっ……、なんですかこの大量の画鋲」
後ろから声が聞こえた。
「先輩、いっしょに帰りましょー!」
唐沢留美だ。
「嫌よ」
「えー、私先輩といっしょに帰りたいですー」
あの後、唐沢がうるさくごねだしたのでいっしょに帰ることにした。
「先輩って、天才なんですよねー。うらやましいです」
「まあ天才も考え方次第ではイヤなものよ。さっきみたいに妬まれたりするし」
「私も天才になりたいー」
正直言って彼女と帰りたくなかった。
だって、彼を奪った女だから。
「先輩って、浩介の元カノなんですよね?」
ピクッと頬がひきつるのがわかった。
「なら浩介の好きな食べ物知ってます?」
「ゴメン、知らないわ。私、料理しないもの」
「そうですか。まあ、所詮元カノですもんね」
元カノ、その言葉が心に刺さった。
「すいませんが先輩、浩介につきまとうのやめてくれませんか?」
元カノ?確かに今は彼の彼女じゃないけど。
「私から見ても気持ち悪いんですよ。やめてください。あなたはもう浩介に捨てられたんですよ」
でも、元カノって言い方はないんじゃない?
「これ以上浩介につきまとうなら全力で排除しますよ」
元カノなのは事実。
「では、これで」
私は呆然として立っていた。
何一つ言い返せずに。
唐沢留美の言葉が頭を反響する。
元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ元カノ
それだけが頭に残る。
そしてそれはすぐに怒りに変わった。
彼女の言いぐさではなく、彼女が浩介を奪ったことに。
そう。もとをただせば、私は彼の彼女であって、唐沢留美が浩介を盗んだのだ。
私の目の前で。
振られた直後、唐沢留美が物陰からでてきた。
「浩介、もう終わった?」
「……ああ。終わったよ…」
「良かった。はい、ご褒美」
二人はキスをした。長く、深く。
彼女は私に見せつけるようにキスをした。
実際、私に勝ち誇ったような目をして見ていた。キスをしながら。
よく考えれば浩介は彼女に弱みを握られているのかもしれない。
私のことを気にしてないように振ったにも関わらず、元気がなかった。
そうに違いない。
もしかしたら靴の画鋲も彼女の仕業かもしれない。いや、絶対にそうだ。
私が画鋲を捨てた直後に現れた。
タイミングを計っていた。
そう考えると辻褄が合う。
それなら早く浩介を解放してあげないと。
私は夕日が沈みかける中誓った。
夜、私は浩介の家に向かった。
いろいろと手間取ったから。
インターホンを押す。
少しして浩介が出てくる。
「なんだよ」
「もう邪魔者はいないよ」
「はぁ?お前、何言ってるの?」
浩介は理解できなかったみたいだ。
「つか夜遅くに来るなよ」
「ごめんなさい。でも嬉しかったから」
「何がだ?」
「もう唐沢留美の脅しに浩介は怯えなくてすむの。私たち堂々と付き合えるの」
「はぁ?本当に意味がわからねぇ。お前とはもう付き合わないって言っただろ?」
「照れてるの?せっかく私が助けてあげたのに」
かわいそうな浩介。ここまで洗脳されてたみたい。今、解き放ってあげるわ。
「私と浩介の中を引き裂こうと唐沢留美はいろいろと私にちょっかいをかけてみたいだけど、うまくいかなかったようね。まあ、画鋲ぐらいで私たちのラブラブな仲を引き裂けると思ってもらっちゃ困るわよね」「…………」
「なんていったって私たちはもともとベストカップルなんだもの。ちょっとした障害があって道を違えたけど、結局は同じ道を行く運命だったの」
「…………」
「私たちは恋人に戻れるの」
「…………は?何言ってんの?」
とぼけるフリが浩介は上手だ。それも彼の魅力のうち。
「だから、もう唐沢留美の洗脳に怯え――」
「オレ、前に言ったよな。お前とは付き合えないって。言ってないか?ならもう一度言う。オレはお前とは付き合えない。オレは留美が好きだ」
あれ?なんか食い違ってきている。歯車が噛み合わない感じ。
でも、そんなはずはない。
「嘘は吐かなくても――」
「はっきり言わないとダメか?オレはお前は好きではない。というか、嫌いだ」
「そんな嘘は嫌いよ」
「画鋲が靴にたくさんあったろ?」
なんでそれを?話してないのに。
「もしかして、見たの?」
「見たんじゃなくて、オレがいれたんだ」
世界が揺らいだ。
え?嘘……。
「この際はっきり言おう、お前しつこい」なんで?声がでない。
「お前は留美がやったみたいに勘違いしてたみたいだけど、それはオレがやったんだ」
どうして?声がでない。
「お前はオレがお前を好きだと思っていたみたいだけど、一度もないぞ。付き合っていたのは暇つぶしだ」
嘘……。声がでない。
「オレはお前のことをなんとも思っていない。つきあっている頃のメールの量とかキモイ。十分に一回送ってくんなよ」
「でも、毎日宿題借りに来たじゃない!」
やっと声がでた。
「お前、宿題だけはキッチリしてくるから利用しただけだよ。気づけよ、ばーか」
世界が壊れるのを感じた。崩壊を感じた。「―――――たのに」
「言いたいことがあるなら今言え。もうお前とは口を聞かないから」
「せっかく殺したのに!」
場が凍った。
「誰を、だ……?」
「邪魔者唐沢留美をよ!あなたのために!ほらこれ!」
背負っていたリュックから唐沢留美の生首を取り出す。
「あなたのために殺したのよ?今からでも遅くないわ。謝ったら許すわよ」
そう。私は心が広いの。
でも浩介は
泣いた。
「留美!?」
唐沢留美の生首を抱きしめ泣いている。どうして?
「うわあああああぁああああ……」
じゃあホントに浩介は留美のことを……
「うあぁあぁあ……」
鳴き声が響く。
世界が修復不可能なレベルに壊れるのを感じた。
「……許さねぇ。お前だけは……」
浩介が私のものにならないなら…。
「お前だけは殺す!」
私が浩介を殺して私のものだけにする!
私はナイフを取り出した。
浩介は目を見開く。防ごうとするが遅い。
グサッ
肉が切れる音がする。
「か、あががが……」
「うわあああああ!!!!!!」
刺す
血が飛び散る。
刺す刺す刺す
血を大量に浴びる。浩介のだから気持ちがいい。
刺す刺す刺す刺す刺す刺す
あはははははははは。
刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す
これで浩介は永遠に私のものとなった。
私が感じていたのは恋の病ではなかった。
ただの精神病だった。
「あははは、ははは、はは、ははははははははは!!!!」
これで私はすべてを手に入れた。
「いっしょに……」
ナイフの刃先をお腹に向けた。
「生きましょう、浩介!!」
世界が途切れた。
オチは理想通りだけど、天才の設定が消えた。
難しい。
読んでくださったらありがとうございます。