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05 王者の資格

 グルンはダンジョン内の玉座に体を預け、サキュバスの召還による魔力の喪失と彼女の性格の問題による消耗から、休息した事によって前者は完全に回復していたが、後者はまったく回復していなかった。

 ランクC以上の魔物ともなると、個体差がかなり出る為に、またサキュバスを召還した場合、同じように悩まされるとは限らないが、先のサキュバスよりも「控え目」とは限らないのも事実であった。

 そういった事も理解しているグルンは、これからの計画を進める上でサキュバスをどう扱えば良いのかを、考え続けていた。


「どうしたものか……」


 魔力の枯渇と精神的な疲労によってほぼ丸一日休息していたので、再びサキュバスを召還すべきか悩み続けるグルンは考えを言葉にして発するが、ランクC程度のサキュバスに悩まされているようでは王としては失格だという考えに行き着き決断する。

 その決断とはより上位の魔物はサキュバス以上に扱いにくい固体なのだからという考えに辿り着くというものであった。


【魔物召還】リコール


 決断したグルンは王としての威厳を取り戻し、新たにサキュバスを召還した。

 王の間に昨日と同様、紫色の光を放つ魔法陣が浮かび上がり、眩ゆく淫靡なサキュバスが姿を現す。

 最初に召還したサキュバスとは既に見た目から異なり、目の前のサキュバスは側頭部から悪魔の象徴でもある角が二本生えており、背中からも悪魔の種族特性である禍々しい羽を生やしていた。


 服装も昨日召還したサキュバスとは異なり、レザーで出来た黒い下着を着用するのみで白く淫靡な肌の多くを露出したサキュバスが跪き、王の言葉を待っていた。


「サキュバス、予がおまえを召還した王だ」

「……」

「おまえの前に既にサキュバスは一人召還しておる、発言を許すが普通に話すのだぞ」


「此度の召還身に余る光栄で御座います。へ?」

「普段通り話すが良いと申したのだ」

「畏まりましたわ、陛下。あたくしの前に……やはりあの女が……それにあの女まで……」


 その言を聞いたグルンはまた小さく溜息をつきたくなったが、言葉を続けた。


「やはりおまえもそこが気になるようだな。良い機会だ、あの者達も呼び寄せる、しばし待て」


 グルンは死の妖精バンシーと最初に召還したサキュバスをインターフェースから連絡し、王の間へ呼び出した。

 研究室から呼び出されたサキュバスは、召還されたばかりのサキュバスを見て目をやや吊り上げ、死の妖精バンシーは表情を一切変えずに王の前へと静かに歩を進めた。

 十数秒で王の間へ現れた二人はグルンの前に跪き頭を下げる。


 三名の臣下を前にグルンは今後の問題になるであろう芽を摘み取るために口を開いた。


「おまえ達はどうもお互いを意識しているようだ、特にサキュバスの二人は予の意を理解はしていても感情を抑えることが出来ないようだな」

「……」

「…」

「……」


「しかし予がおまえ達をどれだけ必要としているかを、まだ十分には理解しきれていないのも事実であろう。よってまだ功を上げてはおらぬが特別に三者には名を与えることで、今後の働きに期待したい。まずは死の妖精バンシーよ、どうだ」

「は! 勿体無きお言葉で御座います。しかし私は先日も申し上げたように功を持って名を名乗ることを所望致したいと思うのですが……」

「ふむ、そうか。ではサキュバスの二人はどうだ。まずは先達のサキュバスから申してみよ」


「陛下のあたくしを必要となされるお心には僥倖で御座います。恐れ多くも名を頂けますのは喜ばしい事ではありますが……サキュバスはあたくし一人で十分かと!」

「ふむ、ではもう一方のサキュバスはどう思う、申せ」

「陛下からの名を頂くことは光栄極まる事でありますが、あたくしも遺憾では御座いますが、先達のこの女と同意見で御座います。陛下にお仕えるサキュバスはあたくしだけで十分かと……」


 死の妖精バンシーは我関せず、サキュバスは死の妖精バンシーにも嫉妬や敵意はあるが、それよりもお互いを激しく排除しようと思うところが大きい。

 このやり取りから見えてくるのは三者のそういった関係であった。


「なるほど。予からの『願い』という形では伝わらぬようだ」


 グルンはそう短く伝え玉座から立ち上がる。


――――――予が貴様らを消さぬとでも思っておるのか


――――――予が臣下につまらぬ嫉妬や敵意を求めてはおらぬ事、理解出来ぬのならこの場で消え去るが良い


 グルンが目を覚まして以来、初めて全ての魔を解き放つと禍々しい殺気が王の間全てを包み込む。

 その殺気は視覚でも見えるほどに濃く、漆黒の霧が王の間を埋め尽くす。

 その漆黒の霧は闇よりも濃い黒であり、その霧に包まれた三人は決して低位の魔物では無いが絶対的な弱者と王であるグルンによって瞬時に理解させられていた。


 王が殺気を放ってから数秒も時は刻んでいない。しかし三人の魔物には永遠とも思える時が流れる。

 恐怖などと一言では表せないほどの禍々しい殺気を受け、体を震わせることすら出来ず、自身がまだこの世界に存在しているのかさえ定かでは無くなりつつあった。

 幾分上位種であり、死への耐性がある死の妖精バンシーだけが絶対的な死の恐怖程度で済み、幾ばくかの思考を許されてはいた。

 その彼女が精一杯、死の恐怖に耐えて発言した。


「グ、グルン様。この二人がグルン様の本意を、その、な、蔑ろにするような事があれば私が排除いたします故、どうかお怒りをお納め頂きとう御座います」


 死の恐怖に耐えながらの死の妖精バンシーの口上はサキュバスの二人にも届いてはいたが、彼女らは思考する余裕すら無い。


――――――ほう。予に忠言する余裕があるか。さすがは死の妖精バンシーといったところか


――――――だが予が常に忠言を求めていると思ってもらっては困るのでな


 王がそう口にしたのと時を同じくして、王の掌が死の妖精バンシーに向けらる。

 王の掌には小さな魔法陣が浮かび上がり、王の間を包み込む禍々しい殺気の霧とは違い、黒く光輝く魔力が凝縮されていく。

 死の妖精バンシーの命を掛けた忠言を以ってしても王の殺気は納まることは無く、死の妖精バンシーへ王からの死が向けられる。


 黒く光輝いた王の掌の魔法陣が一瞬で消え去り、同時に死の妖精バンシーの床に突いていた左腕の全てが瞬時に消し飛んだ。

 左腕を消し飛ばされた死の妖精バンシーは数瞬の後に自身の肉体の一部を喪失した事を理解したが、痛みを感じることが出来なかった。


――――――死の妖精バンシーの予への忠心は嬉しく思うぞ。これで免じてやろう


 その言葉を最後に王の間を包み込んだ禍々しい殺気が徐々に消え始める。

 王の間から禍々しい殺気が完全に消え去った頃、王と死の妖精バンシーに起きた出来事を二人のサキュバスが知覚した。

 サキュバスは事象を『見ていた』だけであり、圧倒的な殺気により思考する事を停止していた為、王の殺気が完全に消え去った後に全てを知覚していた。


死の妖精バンシーよその忠心を功としオリビアと名乗るが良い」

「は、は! 寛大な御心に感謝致します」


 死の妖精バンシー改めオリビアは左腕を失った為、右手で床に手をつき頭を下げる。


「先達のサキュバスはゼルダ、後進のサキュバスはヒルダと名乗るが良い」


 サキュバスの二人、ゼルダとヒルダは先程の殺気の余波と隣で跪くオリビアの腕の消失、何よりもグルンへの絶対的な恐怖によって言葉を失っていた。


「まだ喋れぬか?」


「い、いえ、すすす、素晴らしいお名前を下賜された事有難く思います。オリビア様、ヒルダと協力し陛下の覇業のお手伝いをさせて頂ける事をこ、こ、光栄に思います」

「あたくしも、そ、その陛下への功を以って頂いた素晴らしいお名前に報いたく、おも、思います」


 ゼルダとヒルダは混乱しつつも上位種の魔物であり、死への恐怖程度を持つくらいには落ち着きを取り戻し、王に対して返答する事が叶った。

 オリビアに対する上下関係も本能的に理解し、自分達の生命を王への不敬を覚悟の上での忠言で守ってくれたことにも感謝していた。


 因みにグルンは先程【初級魔法:闇】の一種である【ドレイン】を無詠唱で発動しただけなのだが、デスロードという種族特性による効果で闇属性に関しては通常の威力が比較にならない程に上昇する。

 しかし聖属性はほぼ使用出来ないという種族特性もあり、回復魔法や聖属性の結界や封印といった魔法が使えないという弱点もある為、回復魔法を受ける事自体が、彼の体には毒にしか成らず強力な治癒魔法であれば、体が劣化する程の反属性を生じさせる。


「ではオリビアは欠損した体を再生した後、訓練を再開させよ。ゼルダは研究を再開し、ヒルダもゼルダと共に研究を開始しろ。以上だ、下がれ」

「は!」


 オリビアはいつもの冷静な表情を取り戻し一礼し、王の間を辞する。

 ゼルダとヒルダはやや腰が引けた状態のまま一礼し、研究室へと向かった。

 その姿を確認したグルンは恐怖による支配を選択せざる得なかった事に少々溜息をつきたくなっていた。


 臣下の結束は上位者である王の恐怖によって成されているのは危険である。

 臣下同士が結束するのではなく、王が中心となり臣下と結束するのが理想なのだから。

 オリビアによって助けられたのは理解していても、自身の不手際が原因でもある。


 その苛立ちがグルン自身を責め立てるが、対等な者が存在しえない王は誰にもこの胸の内を話すことは叶わない。


「やるべき事がまだ残っていたな……」


 グルンはインターフェース画面の墓場タブを開く。


■墓場

現在埋葬れている死体 0/100

スケルトン 3

リッチ 0

---- -

管理者 -


 墓場の情報を読み取ったグルンはゴブリン20匹の死体は完全に消化された事を知り、そこからスケルトンが3体生成された事を確認した。

 早速指示を出すべく訓練室Bへと向かわせる。

 訓練室へと向かうスケルトンの3体は休息も魔力の補給も必要としない為、延々と訓練に従事するよう指示を追記する。


 しかし、魔力増幅装置の使用はスケルトンには出来ない為、アンデッド用の魂を強化する装置を使用するように指示を出す。

 因みに、スケルトンは初級の聖属性魔法でも容易く蒸発させられてしまう弱点があり、上質な人間の死体を地上への進出後に確保する事もグルンの脳内に刻まれていた。

 人間の中には極々稀にランクAの死の妖精バンシーをも超える固体が存在する事をグルンは理由は不明ではあるが知覚しており、確保出来るのであれば多少の犠牲を払ってでも手に入れる心積りを強くしていた。


 そして、そのような者の死体の入手は困難を伴うが、ランクCクラスの人間の死体であればリッチが生成可能であり効率的にリッチを生み出す為にも、グルンは墓場の管理者をヴァンパイアに任せることも考え始めていた。

 魔力の枯渇はないが、精神的な疲労を抱えたグルンは重く感じる体で立ち上がり、訓練室へと足を運ぶ。

 それから魔力が枯渇するまでの間、激痛に耐えて自身を鍛え上げ、止まる事が許されない覇道の為に歩き続けていた。



■グルン Lv2 (next900/1000)

■残り時間[86(d):09(h):33(m):21(s)]

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