04 サキュバス
二日目以降のダンジョンは平穏、というよりは単調なリズムを奏でていた。
王であるグルンは魔力が枯渇するまで訓練と休息を繰り返し、死の妖精も同じく研究と休息を繰り返すのみであった。
ゴブリンは指示通りダンジョンの整備を続けていた。
そんな単調な日々は十日目を境に変化した。
訓練のみの日々を送っていたグルンの体内に変化が起こり、魔力総量の上昇をグルンは感じていた。
レベルの上昇による変化であるのかを確認のする為、グルンは玉座に座りインターフェースを起動しロードタブを表示する。
Lv 2(next1000/1000)
名前 グルン
種族 デスロード
性別 ♂
Skl 《New!》【初級魔法:火】《New!》【初級魔法:水】《New!》【初級魔法:雷】.................
EX 【迷宮創造】【迷宮王】
これで召還可能な魔物が増えているはずであり、確認の為、グルンはインターフェースから情報を呼び出した。
■魔物
現在召還出来る魔物一覧
・ゴブリン―――ランクG 召還魔力:100 ダンジョン内の舗装や採掘、運搬、整備、全てのダンジョン内での雑務を受け持つ。戦闘力は非常に低い。戦闘能力はレベルの上昇により微増する。レベルが高まれば雑務の効率が上がる
・ビー―――ランクH 召還魔力:50 戦闘力、知能は皆無。ダンジョン内の偵察を主にする。レベルが上がってもほとんど何も変わらない
・ミノタウロス―――ランクD 召還魔力:500 ダンジョン内の守り手。大きな体躯を活かした陣地防衛に優れ、知能は低いがレベルの上昇により優秀な戦闘要員となる
・オーク―――ランクE 召還魔力:250 武器や防具の製作を得意とする。戦闘力は低い。レベルの上昇によりダンジョン内の設備の改造、強化も可能。大規模な罠の作成も得意とする
《New!》・サキュバス―――ランクC 召還魔力:50000 召還条件:コアレベル2 主に牢屋や拷問部屋の監視及び拷問、調教、取調べを得意とする。知能も高く魔法も扱え戦闘力も高い
情報画面の一番下にサキュバスが追加され、サキュバスの説明文に思う所は少々あったグルンだったが、知能も高く死の妖精の代わりは勤まりそうだと判断していた。
早速召還したい所であったが準備が必要だと判断したグルンは、死の妖精を呼び出す事とした。
まだ離れた者との会話が可能である中級魔法の【念話】が使用出来ない王であるグルンは、インターフェースの指示タブを開き死の妖精に玉座へと来るように指示を出す。
20秒ほど待つと、足音を立てずに玉座の前に死の妖精が跪く。
「少々遅かったな。休息中であったか、ご苦労」
「い、いえ。お待たせして申し訳御座いません」
「良い。先程予のレベルが2になったのでな、死の妖精に新たに命令を出す」
「は!」
「研究は予が新たに召還する魔物に引き継ぎ、死の妖精はレベルが3になるまで訓練せよ」
「畏まりました」
「それと今までの働きの褒美として私室を持つ事を許す。ゴブリンに直接指示し区画を確保させよ。訓練室に関しても予が使っていた場所を予と死の妖精のみの使用に制限する。その他魔物には別途訓練室を設け、そちらで訓練させる」
「お、恐れ多くもグルン様と訓練をご一緒させて頂くわけには……」
「良い、一人では些か刺激が足りぬのでな」
グルンは邪悪に満ちた微笑を死の妖精に向けた。
玉座に座った王のその殺気を瞬時に悟った死の妖精は召還されてから初めて死を感じた。
目の前に座る王は絶対的な上位者なのだと、自身が如何に忠誠や礼節を守ろうと戯れで死を賜ることもあり得るのだと死の妖精は恐怖に体を震わせ、魂に絶対的な差を刻み込んでいた。
「楽しみにしているぞ、予はまだやる事があるのでな。下がれ」
「は!ご、ご期待に沿えるよう全身全霊を尽くします」
震える体をどうにか制御し死の妖精は王の間を辞した。
恐怖など知識でしか知らなかった死の妖精は王の間を辞した後も体の震えをしばらく治める事が叶わなかった。
グルンは死の妖精と思う存分訓練をする為にも訓練室A(王及び王が許可した者のみ使用可能)の拡張及び、その他魔物用の訓練室B(一般魔物専用)の区画整備をインターフェース画面から、やや表情を険しくさせつつ行っていた。
グルンは自身のレベルの低さにもどかしさを感じつつも一通りの指示をゴブリンに出し、インターフェース画面からではなく【念話】によって指示を出せるようにする事を早急に叶えようと強く感じていた。
ゴブリンには十分な休息が与えられていた為、グルンが1時間ほど玉座で休息を取っている間に全ての作業が終了しており、訓練室Aの総区画面積は5m×5mから20m×20mに拡張されていた。
75000もの魔力を消費する大拡張ではあったが、訓練室Aは王にとっても生命線と言える場所であり、魔力の先行投資という意味合いがかなり強かった。
続いて訓練室Bは予定では明日には幾体かは誕生するであろうスケルトンにまず使わせ、手の空いたゴブリンにも使わせる予定でもあるので、10m×10mとした。
この訓練室Bにも20000もの魔力が消費され、コアの魔力残量はレベル1の状態であれば既に枯渇寸前ではあるが、王のレベルの上昇に伴いコアレベルも2となり最大蓄積魔力量が200000となる為、それなりの魔力量に余裕が生まれていた。
研究室や魔力泉、寝室はある程度拡張し、新規に工房もこの十日間の間にコア魔力の回復量分を利用して作成しており、現状コアの魔力残量が100000以下、サキュバスの召還は1体が限界という状況であった。
「【魔物召還】」
グルンが【魔物召還】の対象をサキュバスとイメージし、使用した。
王の間に紫の光を放つ魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣からは濃度の濃い、淫靡な魔力が放たれ、その中からサキュバスが浮かび上がる。
その召還されたばかりのサキュバスは全身の体のラインが露になる黒のレザースーツに身を包み、胸元を大胆に曝け出し、陶器のような白い肌を露出させ、誰であろうと誘惑してしまうほどの淫靡な魔力を体中から発していた。
「サキュバス、予がおまえを召還した王だ」
「……」
「ふむ、さすがにあのゴミどもとは違うな……比べるまでもないか。発言を許す」
「此度の召還、身に余る光栄でございます。」
跪き臣下の礼をしたサキュバスが始めて口を開いた。
「サキュバスよ。畏まるでない、普通に話せ」
「は、え、でもその」
「良い、予が許すと申しているのだ」
動揺した風に装いつつもサキュバスは紫色の唇を淫靡な長い舌で舐め上げる。
「畏まりましたわ、陛下。はっ! 何故あの女の匂いが! あたくしの前にあの女を陛下は既にお呼びになっておられるのですわね!」
「フッ……やはりその喋り方がおまえらしい。してあの女とは死の妖精の事か?」
サキュバスの紫色の瞳が怪しく輝く。
「勿論で御座います陛下! 何故あたくしを先にお呼びになってくださらなかったのですか!」
「許せ、死の妖精が非常に優れた魔であるのはおまえも知っておるだろう」
「へ、陛下がそうおっしゃるのであれば……し、しかしあたくしはあの女には劣りませんわよ!」
「ではそれを功を以って示すが良い。早速だがサキュバスには研究室にてマジックアイテムの開発と魔力泉改良の研究を命ずる」
「畏まりましたわ、陛下。では早速研究を開始致します。あの女よりもお役に立つと必ずや証明いたして見せますわ! 失礼します!」
淫靡な魔力を更に撒き散らしつつ、王の間を辞するサキュバスを眺めつつグルンは小さく息を吐く。
「……やはり失敗だったのかもしれんな」
グルンはサキュバスとの対面後、玉座で一人頭を抱え少々後悔していた。
有能ではあるが、配下としては協調性や趣味に走りすぎるサキュバスを思い出し、更に悪癖とも言える拷問に関連した彼女の性癖を考え、抱えた頭を更に沈ませていた。
50000もの魔力を消費したグルンは後悔するよりもサキュバスをうまく運用する事を考えるようにし次の召還対象について考えを巡らせていた。
グルンはオークはマジックアイテムの設計図が一通り完成した後に召還するとして、ミノタウロスについて考察する。
召還に要する必要魔力は500、必要魔力の割りには戦闘能力が高く、サキュバスに比べてかなり知能が低い事が問題であった。
その為、ミノタウロスを効率良く運用するには、指揮が出来る知能と力を持った魔物が必要であった。
そうなると現状の配下では死の妖精かサキュバスをミノタウロスへの陣地防衛やダンジョン内での作業の訓練及び監督を任せる事となり、研究や彼女達の訓練に割く時間を消費する事に繋がり、最善の選択肢とはグルンは考えなかった。
配下、特に知能と力を持った者の数がまだまだ足りておらず、しばらくはミノタウロスの召還は保留にする事とした。
考えをまとめたグルンはサキュバスの【魔物召還】や【創造】で失われた魔力の喪失感を回復するため玉座に体を預け目を閉じる。
その目を閉じた顔には陰が射し、サキュバスが与えた心労は王の精神を蝕んでいた。
■グルン Lv2 (next1000/1000)
■残り時間[87(d):23(h):23(m):44(s)]