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10 会議

『オリビア、上位種全員と中隊長全員を新設した会議室に集めよ』

『は! 訓練中の者はどうなされますか? 数名が演習中で御座いますが』

『こちらが最優先だ』

『畏まりました、直ちに』


 グルンからオリビアへの【念話】によってオリビアをはじめ、フィジャック、ゾンヌ、ゼルダ、ヒルダの上位種全員。

 中隊長に任命されているミノタウロスの10名が急遽会議室へ集められた。

 全員が集められた理由がわからぬままであったが、僅か5分程で全員が会議室に参集した。


 会議室とされる区画は床、壁面全てが魔力付与された特殊な石材で覆われており、内部の声が外には一切漏れない完全な防音機能が完備されている。

 こういった特殊な魔力材の利用や加工も初期の頃からダンジョンにいるオークの手によるものである。

 彼らはダンジョン内では目立った存在では決して無いが、戦闘が出来なくともこういった形で貢献する貴重な存在である。


 会議室には討議をしやすくするため、円形の机が中央に置かれ、円を囲むように椅子が置かれている。

 上座の方向にやや背の高い椅子が置かれ、そこは王が座る場所として空席のままとなっている。

 上位種である魔物各々もオリビアから上座の王の席の近くに座り、フィジャック、ゾンヌ、ゼルダ、ヒルダという順に上座から距離を取りつつ座っていく。中隊長であるミノタウロスは円卓に着席せず、壁際に直立したまま待機していた。


 上位種とミノタウロスであっても絶対的な上下関係は存在し、王の命が無き場合は同席するなど許されることではない。

 したがって中隊長であるミノタウロス達は緊張した面持ちで壁に無骨な牛頭を飾っていた。

 その牛頭どれをとっても訓練や主に実戦形式の演習によって出来た裂傷の痕や痣などが見て取れる。


 ミノタウロスの象徴でもある角は皆、太く逞しく黒々としていて通常のミノタウロスとは自力が違うと一目でわかるほどである。

 そんな彼らも壁際では上位種の魔物を前に畏まったまま小さくなっているように見える。

 特に直接の上位者として接することが多い、フィジャックやオリビアに対してはどこか怯えているようにも見える。


 上下の関係が色濃く出る会議室にグルンが静かに入室する。

 オリビアをはじめ上位の魔物は起立し礼を持って王の入来を迎える。

 壁際に立つ中隊長達は跪き最敬礼を取る。


 会議室を冷たく張り詰めた空気が瞬時に包み込む。

 上座にある王の席にグルンが座り、グルンがオリビアに目で合図をする。

 オリビアもその合図を確認して周囲への着席を目で促し、全員が一斉に着席する。


「中隊長達も立つが良い。跪いていては会議の全容が把握出来ぬだろう」

「ハ!」


 野太い声を会議室に木霊させミノタウロス達が立ち上がり、壁に牛頭を再び飾る。


「早速だが時間は有益だ、会議を始めるとしよう。現在1個師団を十の中隊に編成しているがそれぞれの中隊は全てミノタウロスのみで構成されている。そのミノタウロスも全てがオークによって製作されたアックスを使用している。実戦においてこの兵科の単一化による不備が生じる可能性が非常に高いと予は考えるのだが、この問題について改善策があれば提案せよ」

「では私から申し上げます。グルン様の仰る通り、現在の兵科の単一性は人間との大規模な戦闘になった場合、敵側に遠隔攻撃や機動力を重視した兵力を投入された場合不利となる事は間違いないでしょう。しかしそれは地上での戦いという事を想定しての場合です。我々の最優先すべき戦場はダンジョン内であると、私は考えております。ダンジョン内での戦闘を重視するのであれば機動力はまず使用困難という問題と地形に適応させ辛いという理由により有益ではないと考えます。そして遠隔攻撃を主体とした兵科も通路や限定された区画内での戦闘を想定した場合、遠隔攻撃の特性を十分に発揮出来ないと判断致します。よって兵科は現在の歩兵を中心とした接近戦に特化した編成が最良かと考えます」


 グルンの問題提起にまず答えたのがフィジャックであり、彼の言にも一理ある。

 編成を指示した時のグルンもフィジャックと同様に考えていたのだから。

 しかしそのフィジャックの言に異を唱える者が現れる。


「グルン様、私からも宜しいでしょうか?」

「うむ、会議なのだ許可は要らぬ。申してみよオリビア」

「は!では私の考えを申し上げます。フィジャックの言う歩兵に特化した編成には私は反対で御座います。ダンジョン内での戦闘だけを考えましてもやはり複数の兵科を中隊事に組み入れる事での、戦いにおいての優位性は明らかかと。その理由としてまずダンジョンへの侵入者の多様性で御座います。主に人間と考えておりますが、彼らは遠隔からの魔法、投射、投擲が使用出来ない密閉された通路や区画において近接する不利を覆すために、広域範囲魔法の使用という手段を用いるという事が考えられます。その攻撃に対応するには短/中距離に特化した速射に優れた部隊の編成も考慮すべきかと考えます」

「オリビア様、広域範囲魔法を扱える人間の数を過大に評価されておりませんか?そして使い手が複数居たとしても狭い通路や区画であれば一定の損害を我らが蒙る事になりましょうが、戦況を変化させる程とは思えないのですが。遠隔を主体とした兵科は広域範囲魔法に対してのみ機能するとも言えます。兵を効率よく運用すると考えるのであれば、遠隔攻撃に特化した部隊を創設し歩兵部隊とは所属を別としてはどうでしょうか」


 オリビアの異に対して、すかさずフィジャックが反論する。

 オリビアは兵の損害を少しでも抑え、すぐに反撃が可能となるようにと主張する。

 フィジャックは遠隔部隊を歩兵で単一化された部隊とは別に設け、歩兵主体での運用をすべきと主張した。


「それでは単一化された部隊の弱点を十分に補えないでしょう。確かに歩兵のみで編成された部隊であれば戦況次第では防衛力や突破力は極めて高いでしょうが、私は部隊それぞれに柔軟性を持たせるべきだと考えます」

「わ、私も言って、申しても良いでしょうか?」

「ヒルダか、申してみよ」


「オリビア様、フィジャック様のお考えを聞いて思ったのですが、私は小隊長それぞれに魔力結界を一時的に展開出来るマジックアイテムを支給すれば良いのではと」

「ふむ。そのマジックアイテムの開発にはどれくらいかかるのだ?」

「私とゼルダで交代で開発するのであれば、約十日程で可能ですわね」


 ヒルダの提案にグルンが答え、開発期間を確かめる。

 ゼルダもヒルダの隣でグルンへ頷き、想定される開発期間に間違いが無い事を追認する。


「ゾンヌは何か考えが無いか?スケルトンを管理しているのだ、奴らの運用についてでも良いぞ」

「……一つだけ提案が御座います」

「申してみよ」


 ゾンヌは会議の光景を目の当たりにし、困惑していた。

 王が会議を開き、配下の考えを聞くなどゾンヌの常識には無かったのだ。

 ましてや王の考えにともすれば反対するような意見を上位の魔物が躊躇いも無く発言している。


 ゾンヌの知る王は全てを一人で決め、ただ命令するだけの存在であり、他者の言を取り入れるなどあり得ない。

 この王は本当に面白い。

 しかし御するには手強い。


「スケルトンは斬撃など近接攻撃に対しては強固な耐性が御座います、しかし魔法への耐性は闇属性以外はほぼ無力と言って良いでしょう。その特性を活かし、前線で運用するよりも遠隔部隊としての運用が適しているかと考えます。スケルトンであれば暗闇であっても目標を正確に捉えることが可能という利点も特筆すべき理由で御座います。そして敵に、人間を想定するのであれば遠隔部隊を機動力や近接戦闘でおいて粉砕する行動を取ると予想されますが、近接攻撃をスケルトンで構成された遠隔部隊であれば苦にしないというのもスケルトンを推挙する理由となります」

「なるほど…」

「フィジャックもゾンヌの考えを是と思うか」


 ゾンヌの理路整然とした口調でスケルトンの運用方法が述べられた。

 その運用方法を聞いたフィジャックが肯定の意を呟く。

 オリビアやゼルダ、ヒルダもゾンヌの考えに頷き感嘆している。


「皆の考えを聞き、予も考えが纏まった。中隊事の編成ではなく小隊規模から再編成すべきであろう。小隊長には全員に結界のマジックアイテムを支給し、小隊の構成員は歩兵であるミノタウロスを九体、弓を所持させたスケルトンを一体を基本とし編成しなおす。スケルトンが現在37体しか居らぬが、ビーの召還と処分を繰り返し足りぬ数は調整していく。ではオリビア、フィジャック、ゾンヌを中心に再編成をせよ、ゼルダとヒルダは結界の開発とオークへの弓の製作を指示しろ。各中隊長のミノタウロスは再編成後の指揮についてフィジャックから指示を受けるように。以上だ」

「は!」


 会議室に王の命に答える配下全員の声が響く。

 王が会議室から退出し、その後会議室にて上位の魔物や中隊長が再編成についての指示や連絡事項について確認しあい、詳細を詰めていく。

 かなりの人数の異動や調整が必要であった為、王が退出した後の会議室を長時間オリビア達が使用していた。



 グルンは会議室を後にし、玉座で独り考え込む。


 まずはダンジョン内での戦闘を考えての編成は決した。地上戦に発展する場合はスケルトンの比率やオークやゴブリン、ビーを加えた工兵や輜重兵しちょうへい、偵察兵の比率も高めねばならない。

 それに加えて地上戦の師団とは別にタンジョンを防衛する専任の部隊の編成。

 王の周囲を常に守備する部隊である近衛の創設。

 魔力がいくらあっても足りない現状に加え、やるべき事が残り日数が迫る中加速度的に増えてくる。


 先程の会議ではゾンヌは非協力的だと予想していたが、思わぬ良案を出してきた。

 あれは一体どういった心境であったのか。

 忠義が芽生えたとも思えないが、グルンはすぐに答えを見出せない問題を最後に、玉座にて思考を終わらせた。



■グルン Lv5 (next900/1000)

■残り時間[44(d):23(h):19(m):41(s)]

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