表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/35

01 デスロード

 男は玉座に腰を下ろし、目を瞑っている。


 男の全身を禍々しい黒一色の鎧が包み込み、その鎧の細部に渡って血管が浮き出ているかのような装飾が成されている。

 幾重にも流れる赤い血管のような模様は異様を通り越し、美しいとも表現出来るが、恐ろしいというイメージの方が勝るであろう。

 そんな男の体を預かる玉座もまた、彼以上に異様である。


 まず目を引くのが玉座の上部で鼓動する人間の頭ほどはあろうかという巨大な心臓そのものだ。

 まるで玉座そのものが生きているかのように、玉座に取り付けられた心臓は鼓動を続ける。

 男と心臓を支える玉座自体は至る所に亀裂が走り、今にも崩れてしまいそうであった。


 男がゆっくりと目を開く。

 その開かれた瞼からは深い赤の瞳が覗く。

 白く透き通るような前髪を少し揺らして立ち上がる。


 男の目覚めに歓喜するかのように玉座の上の心臓の鼓動が力強くなる。

 男の周りを禍々しい黒く濃密な霧が蠢く。


「これは一体……」


 目を開けると見知らぬ光景に驚いた男は声帯に走る微かな痛みと共に言葉を発する。

 言葉を発した男は自身の状況について考えを巡らせ思考をする。

 まず、異様に内包された力や、際限なく湧き出す魔力を持った肉体に驚き、魔力という概念を自然と頭に浮かべた事に困惑していた。


 冷静に思考しようと魔力の事以外に考えを移行した男は、自身の名を思い出せない事に気付く。

 そして、名を思い出そうとしている事によって更に自身が何者であったのかを忘却している事実を知った。

 はっきりと分かるのは自分が『今』何者であるかだけ。

 

 名は……グルン……全てを支配する者……

 このダンジョンの絶対的な支配者であり(デスロード)

 自身が何者であるかを明確に自覚すると、頭の中にやるべき事が流れ込んでくる。


「【起動】」


 グルンの目の前にインターフェース画面が浮かび上がる。

 何故か操作を理解しているグルンは浮かび上がった画面の左上にあるロードというタブに指で触れる。


Lv   1(next1000/1000)

名前 グルン

種族 デスロード

性別 ♂

Skl

EX 【迷宮創造ダンジョンクリエーター】【迷宮王ダンジョンキング


 次に状況と書かれたタブに触れる。


■残り時間[99(d):23(h):55(m):24(s)]

■あなたが創り出した魔物 0

■あなたのダンジョンの維持費用魔力 0/1d

■あなたがこれまでに獲得したダンジョンコア 0

...............

...............


 必要な情報だけを確認し、次に初期設定という項目にグルンは手を触れる。


BP(ボーナスポイント)の使用 BP100/100

EX【魔物改造リモデル】必要BP100

EX【眷属召還ファミリア】必要BP100

EX【絶対者(カリスマ)】必要BP100

...........

...........

Skl【暗黒魔法】必要BP30

Skl【精霊魔法】必要BP30

Skl【時空魔法】必要BP30

...........

...........


 必要な情報を読み解いて、少し考えたグルンは表示された気に掛かった項目であるEXエクストラSkl(スキル)の詳細を表示していく。


EX【魔物改造リモデル】必要BP100

デスロード固有エクストラスキル

一度しか使用出来ない

魔物全般の改造が可能になるスキル

中には改造不可の魔物も存在する

改造はインターフェース画面、改造タブから実行


EX【眷属召還ファミリア】必要BP100

デスロード固有エクストラスキル

一度しか使用出来ない

死の妖精バンシーを召還出来る

死の妖精バンシーは主への絶対的な忠誠心を持ち、頼れる従者となる

固体としての強さも通常の魔物を遥かに凌ぎ、レベルが上昇すれば初期状態のデスロードをも凌ぐ


EX【絶対者(カリスマ)】必要BP100

デスロード固有エクストラスキル

一度しか使用出来ない

あなたが創造した全ての魔物の忠誠度が最高のまま維持される

あなたが創造した魔物以外を味方にした場合は【絶対者(カリスマ)】の効果は50%


 魔物を召還する前にこの三つのEXのうち一つを取得した方が良いだろうと考えたグルンは、通常のSklであれば後々習得可能のはずだという事を知覚しており、何故それを知覚しているのかを思い出す事は出来ずにいた。

 考えること数分、ようやく決断する。

 インターフェース画面からBPを使用しEXの一つを取得する。

 ロードタブにて取得を確認し、画面を閉じる。



「【眷属召還ファミリア】」



 デスロードであるグルンが手をかざし【眷属召還ファミリア】と発すると、玉座のある王の間の床に魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣からは紫色の光が溢れ出し、王の間の全てを紫光で包み込む。

 グルンの黒の禍々しい鎧が紫色に照らされ、更に禍々しさを増す。


「……」


 紫光が収縮し魔法陣の中から跪き口を閉ざしたままの死の妖精バンシーが現れた。

 髪は紫と黒が交じり合い跪いた床に毛先が付く。

 肌は薄い灰色、瞳の色は赤く、一目で魔の者だとわかるその姿は美しく、絵画の中の創造物のような印象をグルンに与えた。

 背中から禍々しい紫の羽が生えているが、今は羽までも跪くかのように背中に密着させている。


死の妖精バンシーよ、予の名はグルンだ。このダンジョンの主であり、おまえを召還したデスロードだ」

「……」

「あぁ、そうだったな。発言する事を許す」


「は!偉大なるお方に召還して頂き僥倖で御座います。グルン様への絶対の忠誠をこの身を以って誓約致します」

「早速だがこちらへ来てくれ、それから傍に立ちしばらく見ていてくれ」

「畏まりました」


 召還されたばかりの死の妖精バンシーはグルンとは極力目を合わせぬよう、やや俯きながら王の下へと音も無く近づき、王の後ろに控える。

 死の妖精バンシーは王の背中を俯きながら感じ、おそらく王が最初に召還遣わしたのが自分である事に歓喜していた。

 そのような感情は一切出すことはおろか、死の妖精バンシーの表情はまるで感情の無い人形のような冷たさを放っており、その冷たさが死の妖精バンシーの灰色の美しい顔や肉体をグルンが感じた創造物のような印象を作り出していた。


 傍に死の妖精バンシーを立たせたグルンは再び考えていた。

 初期状態では王の間のみでありダンジョンの通路はおろか、部屋や施設は何もなく、ここからは玉座のコアを使っての魔物の召還と施設の敷設をすべきであろう事に思い当ったグルンは、再びインターフェースを起動させた。

 画面上にあるコアというタブに手を触れ、情報を出す。


■コア

コア Lv1

魔力残量 100000/100000

状態 正常 100/100

魔力回復量 10000/d


 グルンは初期画面に戻し続いて魔物タブを開く。


■魔物

現在召還出来る魔物一覧


・ゴブリン―――ランクG 召還魔力:100 ダンジョン内の舗装や採掘、運搬、整備、全てのダンジョン内での雑務を受け持つ。戦闘力は非常に低い。戦闘能力はレベルの上昇により微増する。レベルが高まれば雑務の効率が上がる


・ビー―――ランクH 召還魔力:50 戦闘力、知能は皆無。ダンジョン内の偵察を主にする。レベルが上がってもほとんど何も変わらない


・ミノタウロス―――ランクD 召還魔力:500 ダンジョン内の守り手。大きな体躯を活かした陣地防衛に優れ、知能は低いがレベルの上昇により優秀な戦闘要員となる


・オーク―――ランクE 召還魔力:250 武器や防具の製作を得意とする。戦闘力は低い。レベルの上昇によりダンジョン内の設備の改造、強化も可能。大規模な罠の作成も得意とする



 初期状態ではこの四つの魔物しか召還出来ない事を確認したグルンは、コアの魔力が10万であり施設の維持にもコアの魔力が必要だったはずだという事を考え、確認をするためインターフェース画面から施設の情報を引き出す。


■施設

現在建造可能な施設一覧


魔力泉―――1m×1mにつき魔力:500(維持費:10/d) コアの魔力により生み出される魔泉。召還された魔物はこの魔力泉から魔力を取り込み、活動する。魔力泉が最小の場合、ランクD以上の魔物は魔力を取り込めない。最低でも3m×3mの魔力泉の設置が必要である


研究室―――1m×1mにつき魔力:300(維持費:10/d) 魔導書、技術書、解剖学、工学書など様々な書物が収められている。コアによる魔力で生み出されるが、必要な魔力も書物や施設の大きさにより増える


訓練室―――1m×1mにつき魔力:200(維持費:10/d) 魔物が訓練をする施設。コアのレベルにより訓練の効率が変化する。コアレベルが高いか施設改良により魔物のレベル上昇速度も増す


牢屋―――1m×1mにつき魔力:10(維持費:10/d) 魔導器具を使用した牢。魔法や強力な破壊工作を無効化する。一定以上の攻撃には耐えられない。コアレベルの上昇により頑強さは上昇する


拷問部屋―――1m×1mにつき魔力:100(維持費:10/d) 魔導器具を使った特殊な拷問が可能。サキュバスが得意とする


墓場―――1m×1mにつき魔力:200(維持費:10/d) 死体を埋葬しておくと、一定期間を経るとスケルトンが生まれる。死体は人間や魔物を問わない


寝室―――1m×1mにつき魔力:10(維持費:10/d) 眠る必要がある魔物が休息を取る施設。コアから供給される魔力により、通常よりも魔物の魔力回復量が高い


娯楽室―――1m×1mにつき魔力:100(維持費:100/d~300/d) 魔物の忠誠心を維持、上昇させる施設。施設内には魔力をチップにした賭博場になっている。魔力チップと景品の交換が可能。景品の作成は工房にて作成可能。また外部から手に入れたアイテムも景品として扱うことが可能。レートの設定可。レートを絞ると維持費は下がるが魔物の忠誠心も下がる。初期レートは中立、維持費は200/d


工房―――1m×1mにつき魔力:100(維持費:10/d) ダンジョン内に設置可能な罠や扉、バリケードや警報機など様々なアイテムが作成可能。施設の改良度や魔物のレベルによって作成出来るアイテムも変化する


 施設の情報を読み取り、グルンは今後のダンジョンの運営について考えをまとめていく。

 まず、ダンジョン全体の維持費の事を考える必要があり、コアの魔力は一日で10%の1万が自動回復であり、娯楽室以外の施設は10m×10m分を敷設してもコアの魔力量はプラスマイナスゼロになる。しかし魔物の数が少ないうちから過剰な施設設置は意味がない。

 魔物の忠誠を維持する為に娯楽室を活用するのが最良ではあるが、初期建設費用と維持費の調整が難しく、景品を準備する為に工房も稼動させる必要があり、かなりの魔力の投資が必要となる。

 

 この問題を容易に解決出来る方法がEX【絶対者(カリスマ)】ではあったが、グルンは選択肢からすぐに排除していた。

 これは王であるグルンが全ての魔物から性別の有無を無視しての求愛行動を取られる事になる副作用を有しており、ダンジョンが機能不全を起こす危険性が極めて高いEXである事をグルンは知っていた為である。

 最良の選択肢として判断したグルンはEX【眷属召還ファミリア】を取得し、死の妖精バンシーを召還した理由は忠誠心を考慮する必要がない唯一の魔物が死の妖精バンシーである為であった。

 

 ダンジョンには王であるグルンよりも力を持った魔物が存在する事を知覚しているグルンは、次第に自身が幾度も王を経験し、記憶が魂に刻まれているのかとさえ考えていた。

 


「予は生まれながらにして何故、王と知覚しているのであろうな」


禍々しい魔力を纏う王のその言葉は、答えを欲して発せられたものでは無かったが、その答えをそう遠くはない未来に置いて、王は知る事となる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ