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05 韮澤純一

 校舎に入ってから、自分のクラス……一年一組に向かった音音と別れた竜巻は、二階のB棟にある職員室に向かう。学校の方から、そう指示されていたからだ。

 竜巻は職員室で、自分が所属する事になった一年三組の担任教師と、初対面を果たす。

「背……高いですね、狩那岐(かるなぎ)先生」

 職員室を出た竜巻は、少しだけ前を歩く、青いジャージ姿の女教師……狩那岐蓮華(れんげ)に、話し掛け続ける。

「さっき、昔この街に住んでた頃の幼馴染の女の子二人と再会したんだけど、二人共俺より背が高いんですよ。この学校、背の高い女の人が多いんですか?」

「余り気にした事が無かったが、言われてみれば、女教師にも女生徒にも、妙に背が高いのが多いな。うちの学校が、スポーツに力入れてるせいかねぇ?」

「スポーツといえば、その格好……ひょっとして狩那岐先生って、体育教師?」

「そうだよ、男子の授業もアタシが担当してる。ビシビシ鍛えてやるからな、覚悟しとけよ」

 そう言うと、蓮華は豪快に笑う。姐御といった感じの蓮華には、そんな笑い方が、良く似合っていた。

 自己紹介ついでの雑談を交わしつつ歩いている内に、二人は三階にある一年三組の教室に辿り着く。蓮華に連れられ、教室の中に竜巻が入ると、生徒達は一斉にざわめき始める。

 新学期最初の朝のホームルームに、担任教師が以前はクラスに所属していなかった生徒を伴って現れれば、それが転入生であるだろう事は、生徒達には容易に察せられる。だが、生徒達のざわめき具合は、単に転入生が現れただけのレベルを、遙かに超えていた。

「あの子だよ、バスケ部の土生さんの彼氏! ウチのクラスに入るんだ!」

「どうって事ない奴じゃん。あんなのと付き合ってるんだ、土生って」

「えー、割と良くない? 背は少し低いみたいだけど、顔は女顔で、結構好み!」

「土生さんだけじゃなくて、風紀委員長とも仲良いみたいよ」

「げ、あの鋼鉄の風紀委員長……鉄姫と? そっちの方が俺ショック! 美人だけど、あの人が男と付き合ってる姿が、想像出来ない!」

「土生さんも鉄姫も、全然男絡みの噂無かったのに、いきなり男の噂出て来たら、この程度かよ」

「ひょっとして三角関係とか?」

「天津甕高校人気女子生徒ランキング、ベストテン入りしてる二人と三角関係なんて、羨ましい……じゃなくて、ろくな奴じゃねえな!」

 好奇に満ちた目で、生徒達は竜巻を品定めしながら、噂話に花を咲かせる。恋愛絡みのスキャンダルを起こしたタレントを取り囲む、芸能レポーター状態である。

(どうやら、ニャーコに抱き付かれたり、マジメガ相手に馴れ馴れしく話したりしたのが、勘違いされたみたいだな)

 否応無しに耳に流れ込んで来る噂話と、女子生徒達からの好奇の視線、そして男子生徒達からの羨望と呪詛が込められた視線を浴びれば、自分がどんな状況に置かれているのかは、竜巻には理解出来る。

(――それにしても、ニャーコといいマジメガといい、結構人気あるのね)

 意外そうに、竜巻は心の中で呟く。音音にしろ神流にしろ、小学生時代までは、余り男子生徒からは人気が無かったのだ。そんな二人が、男子生徒から人気があるらしい空気を感じとれたのが、竜巻には意外だったのである。

 小学生時代の音音は、女である事を一切感じさせない、男の子の様なキャラであった。実質的に男子扱いされてた音音は、特に男子生徒に人気がある訳では無かった。

 神流の小学生時代も、男子生徒達から人気があるとは言い難い状況だった。糞が付く程に真面目で融通が効かない、学級委員長キャラだった神流は、歯向かう相手は男子だろうが、三十センチ定規で叩きのめしまくっていた、恐ろしく強気の少女だったからである。

 幼い頃から祖父が営む剣道場で、剣道や剣術を嗜んでいた神流は、棒状の物を持たせれば、同年代の生徒を相手にした場合、無敵に近い状態だった。それ故、厳しいリーダーとはいえ、女子からの人気と支持は絶大だったのだが、男子からの人気は皆無だったのだ。

(二人とも、結構見た目は良い感じになってたもんなぁ、性格は相変わらずだけど)

 昔のままのキャラであるのが明らかなのに、「昔とは違うのよ」と嘯いた神流を思い出し、竜巻は笑いそうになるが、何とか堪える。

 委員長らしい女生徒の掛け声と共に、生徒達が起立して礼をし、着席してから、教壇の蓮華は、傍らにいる竜巻の紹介を始める。

「えー、今日は新しい友達を皆さんに……なんてまどろっこしい言い方は止めだ! もう皆気付いているだろうが、今日からウチのクラスに一人生徒が追加される!」

 フィクションなどで、転入生を紹介する際の決まり文句っぽい台詞を口にするのが、自分のキャラに合わず、恥ずかしいと思ったのだろう、蓮華は決まり文句を端折り、ざっくばらんな口調で、竜巻に自己紹介を促す。

「――んじゃ、名前その他……自己紹介」

「あ、どうも皆さん初めまして」

 一応、それなりに緊張しているのだが、表には出さず、竜巻は黒板に「常時竜巻」と書き込む。その名前を目にして、教室の後ろの方の席に座る一人の生徒が、身を強張らせたのだが、その事に竜巻は気付かない。

「名前は常時竜巻、常時と書いて『いつも』と読み、竜巻と書いて、こっちは普通に『たつまき』と読みます」

「――趣味は何ですかぁ?」

 人懐っこいキャラなのだろう、一番前に座っている、小学生くらいに見える小柄な女生徒が、定番の質問を竜巻にぶつける。

「趣味は、銃器……拳銃やらサブマシンガンやらで、人を撃つ事です」

 竜巻の物騒な返答を聞いて、驚き騒然となる生徒達を楽しげに眺めながら、竜巻は涼しい顔で話を続ける。

「無論、本物の銃器じゃなくて、オモチャの銃で撃ち合うんですけど。サバイバルゲームっていう遊びが趣味なもんで」

「――なーんだ」

 生徒達の間に安堵の声が広がり、笑いが起こる。竜巻の言葉が、軽い冗談だと分かったのだ。

 自己紹介で冗談を口にする、気さくな相手だと認識したのだろう、先ほどの女生徒が、再び竜巻に問いかける。

「バスケ部の土生さんや、風紀委員長の碇屋先輩とは、どんな関係なんですかぁ?」

 皆が興味ある事なのだろう、生徒達は興味津々といった感じで目を煌かせたり、嫉妬の炎で目を輝かせたりしながら、竜巻を見る。

(ここは、勘違いを正しておいた方が、いいんだろうな)

 竜巻は苦笑しつつ、女生徒の質問に答え始める。

「えーっと、校門の前での事で、何か妙な勘違いをされてるかも知れないんですが、あの二人とは、単なる幼馴染です。俺は小六まで顕幽市に住んでたんですけど、その頃……あの二人とは、同じ団地に住んでたから、仲が良かったんですよ」

「じゃあ、恋人とかじゃないの?」

 女生徒の問いに、竜巻は笑いながら答える。

「違う違う! 俺……恋人なんて出来た事無いし」

 音音や神流のファンなのだろう、男子生徒達からの安堵の声と、恋愛関連の噂好きな女生徒達からの、残念そうな声が上がる。

「意外だな、見た目とか悪くないし、それなりにモテそうに見えるんだが」

 そう言ったのは、傍らで自己紹介を聞いていた、蓮華である。

「女の子と仲良くなっても、部屋に呼んだ時点で振られるの確定ですから、銃器オタク……ガンマニアである俺の場合。モデルガンやらソフトガンだらけの部屋の中見たら、女の子とか確実に呆れるんで」

 肩をすくめ、竜巻は自嘲してみせる。

「中学の時とか、少し仲良くなった子を部屋に呼んだら、明らかに俺を見る目付きが変わって、それ以来……二度と口をきいてくれなくなった事もあったりするし」

 実話でもある自嘲ネタの竜巻の話は、程好く教室内の空気を和ませる。

「それで先生、俺の席は?」

「最後列の窓側から二番目の席だ。梶浦(かじうら)の右隣で、韮澤(にらさわ)の後ろだな」

 蓮華が指差した席に、竜巻は目をやる。そして、その空いている席の前に座っている、蓮華が韮澤と呼んだ男子生徒の顔が、妙に竜巻には気になってしまう。

(――ん? 韮澤って……まさか)

 別れた恋人と、街中でばったりと出くわした際、顔を合わせるのが気まずくて、思わず顔を背けてしまった……といった感じで、その韮澤という少年は、竜巻から顔を背けていた。ちなみに、黒板に書かれた竜巻の名を目にした際、身を強張らせた生徒が、この韮澤である。

 自分が座るべき席に歩み寄りつつ、韮澤の席の前で立ち止まった竜巻は、韮澤の顔を覗き込む。洒落た縁無し眼鏡をかけた、色白であっさりとした顔立ちの少年の顔を、遠慮などせずに覗き込む。

 顔を背けたままの少年が、胸のポケットに青い生徒手帳を入れている事に気付いた竜巻は、平然と生徒手帳をポケットから引き抜き、パラパラと捲り始める。

「あ、ちょっと……何するんだよ!」

 韮澤は目線を合わせない不自然な態度のまま、抗議の声を上げるが、竜巻は構わず生徒手帳の名前欄を見つけ出し、名前を確認する。

「韮澤純一(じゅんいち)……やっぱりお前、ノロイチじゃねえか! 韮澤って苗字の上、顔も何となく似てるから、そうなんじゃないかと思ってたんだが、久し振りだなー!」

 パンパンと、竜巻は馴れ馴れしく韮沢純一の肩を叩きつつ、続ける。

「ニャーコがノロイチは天津甕に通ってるって言ってたから、後で一年のクラス回って探し出そうと思ってたんだけど、同じクラスになるとはな、俺ってば運がいいや」

 嬉しそうな竜巻の表情とは対照的に、純一の表情は困惑気味である。

「あの……常時君、ノロイチって韮沢君の事?」

 窓際最後列の席に座っている、蓮華が梶浦と呼んだ、ウエーブの掛かった長い髪の少女……梶浦佐里(さり)が、おずおずと竜巻に問いかける。

「そう、こいつ子供の頃からオカルト好きで、誰かと揉めたりすると、『お前なんか黒魔術で呪ってやる!』とか言い出すから、呪いの純一……略してノロイチって呼ばれてたんだ」

「呼ばれてたって……その嫌な徒名付けたの、お前だろうが!」

「みんなが親しんだ良い徒名だろ。超能力使うイタチみたいな名前で。ほら、お前……超能力とかも好きだったし」

「努力家っぽい名前のネズミが主役のアニメで、最後はネズミに殺される悪役のイタチみたいな徒名、幾ら超能力好きでも嬉しく無いッ!」

 強い口調で、純一は竜巻に食って掛かる。

「――呪いとか超能力とか、そういうの好きな人だったんだ、韮沢君って」

 意外そうな表情で純一を見る佐里の声は、微妙に嬉しげである。

「へー、韮沢って呪いとか超能力とか、信じてる奴だったんだ」

「危ない人だったんだね、韮沢君」

「変な宗教とか、はまってるんじゃない? 教祖様の言う事を信じて、イニシエーションとか受けると、超能力が使えるようになるみたいな、怪しい宗教」

「怖いー、フラれた女の子の事とか、呪ったりするのよ、きっと」

 生徒達は純一を好奇の目で見ながら、好き勝手に純一に関する噂話を始める。

「ん? ノロイチという徒名はともかく、お前がオカルト好きな事とか、みんな知らないみたいだな」

 意外そうな顔で、竜巻は呟く。

「とうの昔に、オカルト趣味は卒業してるんだよ。もう高校生なんだから、超能力だの魔術だの、信じてる筈が無いだろ? 卒業してるんだよ、そんなものは!」

 そう言い放った純一の言葉を聞いて、佐里は残念そうな顔をする。

「嘘吐け! 生徒手帳に魔法陣やら五芒星やら書き込んでる奴が、オカルト趣味から卒業してる訳がねーだろ!」

 そう言いながら、竜巻は純一の生徒手帳の、怪しげな魔法陣や五芒星が書き込まれたページを開いて、純一に突き付ける。先程ページをめくっていた時、書き込まれている事に、竜巻は気付いていたのだ。

 現在でもオカルト趣味から卒業していない証拠を、竜巻に突き付けられた純一は、怒りと恥ずかしさが入り混じった様に、顔を赤面させ、奪い取る様に生徒手帳を取り返す。

「その様子だとノロイチ、オカルト趣味隠してたみたいだな?」

 ニヤリと笑いながらの竜巻の問いに、純一は答えない。

「そうだ、後でバクチカが何処にいるのか、占ってくれよ。あいつとも会いたいんだけど、連絡先が分からないんだ」

「やなこった! お前なんかの為に、誰が占うか!」

 隠していたオカルト趣味を、クラスメートの前で竜巻にばらされた怒りから、純一は占いを拒絶する。

「ケチケチすんなよ、何だったら……」

 竜巻は、純一の耳元に唇を寄せ、囁く。

「もっと恥ずかしいお前の秘密、ばらしてもいいんだぜ」

 色々と思い当たる秘密があるのだろう、悔しげに唇を噛み締めた後、純一は深く溜息を吐く。

「――分かったよ、占えばいいんだろ、占えば!」

「サンキュ! お前の占い良く当たるからな、期待してるぜ」

 疲れの色が濃い純一とは対照的に、竜巻は嬉しそうに、純一の肩を叩く。

「韮沢君の占いって、当たるの?」

 女の子には占い好きが多い。占いが当たるという話を聞いて興味を持ったのだろう、佐里が竜巻と純一に、問いかける。

「当たるぜ、こいつの占い」

 答えたのは、竜巻である。

「探し物とか、こいつに頼めば大抵占いで見付けてくれるし、恋占いとかも外れ無し」

「そうなんだ、凄いね」

 感心したのは佐里だが、話を聞いていた他の女子生徒達も、ざわめく。占い……特に恋愛系の占いに、女子生徒達の多くは興味があったのだ。

「凄いよ、ノロイチの占いは。こいつの姉貴の友達とかが、しょっちゅうこいつに占って貰ってたんだけど、みんな当たってたし、俺自身も占って貰って、当たったくらいだから」

「常時君も、恋占いして貰ったの?」

 佐里の問いに、竜巻は頷く。

「こいつに脈無しだって占われたら、実際……相手に振られるわ逃げられるわで、散々さ」

 振られた相手の事を、少しだけ思い出しながら、竜巻は続ける。

「プロの占い師とかに頼むより、こいつに頼んだ方が、よっぽど当たるぜ。だから、探し物とか恋愛の事とか占って欲しけりゃ、こいつに頼んだ方がいいよ」

 竜巻の言葉を聞いた生徒達……特に女子達は、納得したかの様に頷く。純一に注がれる生徒達……特に女生徒達の視線からは、先程までの痛い人を見る様な色合いは、消えていた。

 オカルト趣味となると、少し痛さを感じてしまっていたのだが、占いが特技である事実が、その痛さを打ち消してしまったという感じである。

「はいはい、何時までも雑談してるんじゃない! 始業式前に色々と伝えておかないといけない、連絡事項もあるんだから!」

 蓮華が声を上げ、竜巻や他の生徒達の雑談を制止する。生徒達は素直に蓮華の命令に従い、静かになったので、蓮華は連絡事項を生徒達に伝え始める。



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