49 続ける者と、見守る者達
「せっかく稼いだバイト代を、また不毛なギャンブルで台無しにする気か?」
呆れた様な口調で、一真は志摩夫に問いかける。場所は天津甕駅の東口前にある、宝くじ売り場の前。一真は志摩夫と共に、バイクで宝くじ売り場を訪れたのだ。
不良っぽい外見の、制服を着崩した二人組が、宝くじ売り場にいるのは、余り似合わない。
「今日の俺の博打運は、最高なんだよ! 今日は絶対に当るんだって!」
カウンターの上に並べた、スクラッチくじのカードを、志摩夫は爪先で削っている。既に九程のカードを削り終えたのだが、今までの所、当りは出ていないのだ。
「もう一枚しか残ってねーじゃん。今回も全部外れだよ」
「いや、当る! 昨日、友達に今日の博打運を占って貰ったんだよ、そしたら、今日の博打運は最高だって結果が……ん!」
最後の一枚のカードを削っていた、志摩夫の言葉が途切れる。目を凝らし、カードを念入りに確認した後、志摩夫が歓喜の表情を浮かべ、叫ぶ。
「あ……あ、当ったッ! と……トリプルマッチで、二十万当ったッ!」
「――マジかよ」
歓喜の声を上げる志摩夫を、呆然とした顔で眺めながら、一真は驚きの声を漏らす。
「こいつは、ノロイチに何か奢らないとな!」
そう言いながら、純一に感謝のメールを送る為、志摩夫はポケットから携帯電話を取り出す。
「どうしたのかな、和美? 何か沈んでるみたいだけど」
夕陽が西の空をオレンジ色に染め始めた頃合、学習塾の教室の窓際で、三つ編みにしてる少女が、ベリーショートの少女に尋ねる。授業の合間の、休み時間の事である。
「彼氏から返事のメールが来ないんだってさ」
「え? 和美って彼氏とかいるんだ」
ベリーショートの少女の返答を聞き、三つ編みの少女は驚く。
「彼氏じゃなくって、和美が片想いしてるだけらしいよ。最近、顕幽市に戻って来た、初恋の人だとかで……天津甕高校の一年生」
話に参加して来た、長い黒髪の少女の言葉に、少女達は色めき立ち、噂話に花を咲かせる。
「和美が好きな人って、高校生なんだ!」
「大人だなー、和美! 大人っぽいの、スタイルだけじゃなかったんだね」
そんな少女達の目線の先にいるのは、背が高い為に窓際の最後列の席に座っている、沈んだ表情の和美。今日、塾が終わったら買い物に付き合って欲しいと、和美は竜巻にメールを送ったのだが、メールの返事が一向に来ない為、和美は沈んでいるのである。
だが、そんな和美の表情が、急に明るくなる。手にしている携帯電話が、メールの着信を告げたのだ。
「来た!」
嬉しそうに、和美はメールを確認する。発信者は竜巻であり、件名は返信。和美は胸を時めかせながら、本文に目を通し始める。
「悪い、これから銀行強盗退治しに行くから、今日は付き合えない。また今度な」
急いで打ったのだろう、普段とは違うシンプルな文面のメールを見て、和美は残念そうに溜息を吐く。
「ま……仕方が無いか。正義のヒーローの彼女は大変だなー」
携帯電話を閉じ、和美は恥じらいながら、呟き続ける。
「――なんてね。まだ、彼女じゃないし……。いわゆる、願望って奴」
直後、窓の外を見ていた男の子が、空を指差して叫ぶ。
「ガンブラットだ! ガンブラットが飛んでる! 何か事件があったんだ!」
男の子の声を聞き、教室にいる生徒達が、窓際に殺到する。はしゃぎながら生徒達は、正義のヒーローに大声で、声援を送る。
「がんばってね」
他の生徒達とは違い、はしゃぎも騒ぎもせず、和美は小声で応援の言葉を送る。そして、祈る……正義のヒーローの無事な帰還を。
高い空に、少しだけいわし雲が並んでいる、夕焼けが始まったばかりの空。そんな気持ちが良い秋の空を、風に乗る鳶の様に、一人の少年が飛んでいる。
飛んでいるのは、電光石火のガンブラット……つまり竜巻。竜巻だけは、二週間前の騒ぎの後も、ただ一人だけ顕幽市で、正義のヒーローを続けているのだ。
竜巻がガンブラットの姿で現れた事は、顕幽市とその近辺で、何等かの事件が起きた事を示している。事件を解決する為に、ガンブラットに変身して動き出した竜巻をを見上げ、顕幽市の人々は惜しみない声援を送る。
その人々の中には、今はヴリルカードを持っていない為、共に活動出来ない、放課後ヴィジランテスの仲間達も、含まれている。彼等も空を見上げ、今でも活動を続けている仲間に声援を送り、その無事を祈る。
宝くじ売り場を後にして、ゲームセンターのウインディ・シティに辿り着いたばかりの志摩夫も、バイクを店頭に停車させながら、空を見上げて声援を送る。傍らにいる親友、一真と共に。
天津甕高校でも、音音と神流……そして純一が、声援を送っていた。それぞれの居場所から、茜色に染まり始めた空を見上げて。
生真面目そうな生徒達ばかりが集っている、B棟二階の風紀委員会室では、神流が剣道部の後輩を叱咤激励するかの様な、厳しい声援を送っていた。行儀良く窓の前に並び、普通の声援を送っている、仙流などの他の風紀委員達と共に。
純一はオカルト研究部の部室の窓から、佐里や他の部員達と共に空を見上げながら、声援を送っていた。映る訳も無いのに、ガンブラットの姿を撮影しようとしている部長に気付き、苦笑したりもしながら。
そして音音は、体育館のドアから外に出て、他のバスケ部の部員達と空を見上げ、声援を送っていた。竜巻の身の安全と、竜巻の運命の相手が、これ以上増えない事を祈りながら。
正体を知る人と知らない人……多くの人々の声援を受けながら、ガンブラット……竜巻は飛び去って行く。磐座山を歩いている際、地図を確認する為に取り出した携帯電話で、ついでにニュースサイトをチェックした際、銃で武装した銀行強盗が逃走中だと報道されていた、顕幽市の西側に隣接する、顕業市を目指して……。




