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45 後始末

 戦闘が完全に終わったと確信出来る程度に、顕幽市の東端に広がる東の森が、静けさを取り戻した頃合、少数の人々が状況確認の為に、森の周囲を訪れていた。仕事として訪れた、警察や市役所の人間、そして好奇心に溢れた野次馬の人々などである。

 だが、彼等は戦場となっていた、半壊状態になっている東の森に、足を踏み入れる事が出来なかった。何故なら、透明な壁の如き結界が、森の周囲に張り巡らされていたからである。

 巨大なギガ・アレギオンが、暴れ回れる程に広大な森ごと、結界で包み込む程に大規模な隠蔽魔術を発動したのは、他でもない或魔。隠蔽した理由は、破壊した森を修復する為。

 外からは半壊状態の森の外側しか見えていないのだが、森の中は急激な勢いで修復が進んでいる。修復しているのは、森の中を駆け回る、着物を着た男女の小人達。

 光り輝く小人達が放つ光を浴びた、損傷した木々や木々の残骸は、無傷だった元の姿に、戻ってしまうのだ。まるで逆回転する映像でも、見ているかの様に、

 元に戻るのは、木々だけではない。戦闘によって穿たれたクレーターの様な穴や、荒れ放題になっている地面も、元通りに修復されつつある。

 木々を元通りにする能力を持つ小人は、木霊。木々に宿る精霊である。そして、地面の下で活動しているので、地上からは見えないのだが、地面を修復しているのは、地中に住まう精霊である、地霊。

 森の中の至る所に、五芒星が描かれている。だが、西洋魔術で使われる五芒星……ペンタグラムとは、漂わせている雰囲気が異なる。何故なら、描かれているのは陰陽道という東洋呪術で使われる呪術式である、安倍清明判紋だからだ。

 陰陽道は、世界を構成するという、陰陽と五行の各要素(木・火・土・金・水)に干渉し、世界に様々な現象を引き起こす呪術。森の中に描かれた安倍清明判紋は、木と水と土の要素を、陽にする……活性化する、陰陽道では相生という効果を上げる様に、記されている。

 それ故、土の要素に属する地霊が活性化し、土と水の要素の活性化に助けられた上、木の要素に属する木霊が著しい活性化を果たした。破壊された森を、短時間で元通りに出来る程に。

 森を西洋魔術で隠蔽し、同時に陰陽道を駆使して、森を修復しようとしているのは、或魔。インコグニートの役割として、戦いで発生した被害を回復させているのだ。

 今回……というより、大抵の場合、放課後ヴィジランテスは戦いに人が巻き込まれない様に、人がいない場所を戦場に選ぶので、死傷者などの人的な被害は出ない。そして、ヴリルカードの使い手が出した、物的な被害の回復は、ヴリルカードを貸与したインコグニートのメンバーが、行う事になっている。

 森を回復させているのは或魔だが、或魔自身は森にはいない。身柄を拘束している春永を、インコグニートのメンバーに引き渡す為に、ダマシヤに戻っている。

 或魔が放った使い魔により、今回の事件の元凶である魔術師を捕らえたとの連絡を受けたインコグニートは、即座に春永を引き取る為に、メンバーである魔術師を送って寄越した。ティンカーベルである或魔を知覚出来る様に、性的な意味では子供といえるメンバーを。

 そして、或魔が春永をインコグニートのメンバーに引き渡している頃、放課後ヴィジランテスの五人は、顕幽市の夜空にいた。顕幽市東口側にある、ショッピングモールの上空に。


「本日は晴天にして、絶好のガンファイト日和なり! 本日は晴天にして、絶好のガンファイト日和なり……と。問題無し、マイクテスト終了!」

 ショッピングモールの上空から放たれた大声が、顕幽市の夜空に響き渡る。無論、声の主は拳銃を拡声器モードにしている、竜巻。

 竜巻を中心として、放課後ヴィジランテスのメンバーが全員、空中で横一列に並んでいる。

「顕幽市の諸君、注目! 電光石火の二挺拳銃、ガンブラットだ!」

 名乗りを上げた竜巻は、花火弾モードにしてある右手の拳銃を空に向け、撃つ。銃声と共に発射された弾丸は、打ち上げ花火の様に上昇して行くと、炸裂して夜空に火の花を咲かせる。

「本日の夕刻、顕幽市で行われた戦いには、諸君も気付いていただろう! あの戦いにより、ムカシノジブンという危険な超常現象を発生させていた魔術師は倒され、発生の原因は取り除かれた!」

 顕幽市中の人々が夜空を見上げ、注視する中、竜巻は弁舌巧みな政治家の様に、スピーチを続ける。

「故に、今後はムカシノジブンが発生し、顕幽市の諸君が犠牲になる事は無くなった! これだけの短時間で、我々が問題の解決に至れたのは、諸君からの情報提供があったからこそ! 顕幽市の諸君の協力に、感謝する!」

 顕幽市中から、歓声が上がる。春頃から五十余名の自殺者が相次いでいた、異常な状況が終わるのだから、人々が喜ぶのは当然と言える。

 人を自殺に追い込む超常現象の存在自体を、公の場で認める者などいない。でも、都市伝説や噂話として人々の間では語られ、本音では不安を感じていた者達が多かったのだ。

 歓声と、放課後ヴィジランテスを称える声援の大きさは、その不安が取り除かれた喜びの大きさを示している。

「――残念ながら、我々が解決に乗り出す前に、五十余名の犠牲者が出てしまった。故に、犠牲者達へ哀悼の花を送る事で、今回の我々の活動を、締め括らせて貰おう!」

 そう言うと、竜巻は左手でガンスピンを始める。

「花火弾モード!」

 すると、左手の拳銃も右手の拳銃同様に、花火弾モードとなる。竜巻は二挺拳銃の銃口を夜空に向けると、立て続けに引き金を引き、連射する。

 響き渡る、銃声の音。蛇の舌の様なマズルファイアと共に撃ち出される無数の花火弾が、笛の音の如き音を奏でつつ、夜空に打ち上げられ続ける……打ち上げ花火の様に。

 次々と、花火弾は上空で太鼓の様な音を立てて炸裂し、白い火花を夜空に撒き散らし続ける。続け様に炸裂し続ける花火弾は、火花が描く白い花で、夜空を埋め尽くして行く。

 葬儀などで、軍隊が空に向けて撃つ弔銃は空砲なのだが、竜巻が撃つ弔いの銃は、花火弾で描く白い花で、夜空を飾り付ける。見る者に、葬儀場を飾る白い花を思い出させる、花火で描かれた白い花。

 そして、犠牲者への哀悼の意を抱きながら、夜空を見上げていた人々の視界から、火花で描かれた白い花が、残像を残しつつ消え去る頃には、放課後ヴィジランテスの面々も、消え去っていた。伝えるべき事を伝え終えた竜巻達は、花火弾の喧騒に紛れて、去ったのである。



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