43 五芒流星撃
「馬鹿な! 貴重なヴリルカードを二枚も貸与されている者なんて、いる筈が……」
驚きの声を上げたのは、上空にいる春永。顔は鎧のパーツで覆われているので、表情は確認出来ないのだが、竜巻が再び変身した事に対する動揺と焦りは、声のトーンから明らかである。
春永の言う通り、インコグニートのみが開発に成功したヴリルカードは、魔術業界において最高レベルの貴重品。命賭けで戦う協力者であれ、一人の魔術師は一人の協力者に対し、一枚しかヴリルカードを貸与してはならないという規則がある。
理屈でいえば、インコグニートの魔術師二人と出会い、その双方から信頼を勝ち得れば、二枚のヴリルカードを持つ事自体は可能なのだが、それは有り得ないレベルのレアケースなのだ。つまり、二人の魔術師と出会って信頼を得て、それぞれから一枚ずつのヴリルカードを貸与された、竜巻の様な存在は、完全なイレギュラーといえる。
それ故、ヴリルカードを二枚持つ者がいるなどと、春永は想定すらしていなかったのだ。
「五芒流星撃を、一度くらい見てみたいだって? だったら見せてやる!」
そう言い放つと、竜巻は目線を春永から仲間達に移し、指示を出す。
「五芒星の陣だ! 散ッ!」
その声を切っ掛けに、放課後ヴィジランテスは全員、五人全員の力を合わせて放つ合体技にして、一撃必殺の究極技である五芒流星撃を放つ為の陣形、五芒星の陣を組むべく、素早く動き始める。疾風の様に地を駆け、最適と思える位置まで瞬時に移動した竜巻を頂点として、他の四人は直径五十メートル程の円に収まる程の、正五角形を描くかの様な位置に、移動する。
激しい戦闘により、森がクレーター状の荒地となってしまった場所で、五人の放課後ヴィジランテスのメンバー達は、それぞれが頂点となり、正五角形を描くかの様に、位置を取ったのだ。竜巻を頂点として時計回りに、純一、音音、神流、志摩夫という順番で。
この正五角形の陣形こそが、五芒星の陣である。だが、まだ描かれているのは正五角形であり、五芒星は描かれていない。五芒星を描くのは、これからである。
五人はそれぞれ、懐からヴリルカードを取り出し、それぞれの武器でヴリルカードに触れる。竜巻の拳銃に純一のタロットカード、音音の爪に神流の日本刀、そして志摩夫の拳が、ヴリルカードに触れる。
すると、ヴリルカードがヴリルバーストの発動時に匹敵する、金色の光を放ち始める。茜色と闇の色が混ざり合っていた辺りの景色が、金色の光に照らされ、真夏の真昼の如き明るさとなる。
まず、竜巻のカードから音音のカードに、金色の光線が放たれる。続いて、音音のカードから志摩夫に、志摩夫のカードから純一に、そして純一のカードから神流に、最後に神流のカードから竜巻にという順序で、金色の光線が放たれ……繋がって行く。
「これは、ペンタグラム……五芒星!」
空から竜巻達を見下ろしながら、魔砲アグネヤストラの発射準備に入っていた春永は、驚きの声を上げる。繋がった五条の光線が、東洋においては五芒星、西洋においてはペンタグラムと呼ばれる、神秘の図柄である魔術記号を描いた光景を、目にしたからである。
五芒流星撃が、今まさに自分に向けて放たれようとしているのを察し、春永は焦る。最強と言えるレベルの魔物を屠った必殺の一撃に狙われ、春永は本能的な恐怖に身を震わせる。
だが、必殺の一撃を放てるのは、春永も同じ。
「魔術業界の伝説である、アトランティスの技術を受け継ぐ魔砲アグネヤストラが、インコグニート風情の力を借りて、正義のヒーローを気取る連中の技などに、負ける筈が無い!」
自分に言い聞かせるかの様に叫び、春永は自分を奮い立たせる。更に、春永は目を覆うゴーグルに表示される照準で、描かれた金色の五芒星を狙う。
漸く、翼が掻き集めた膨大なエーテルを変換して作り出した魔力が、魔砲アグネヤストラを撃つのに十分な量に達した。魔砲アグネヤストラを発射する条件が、整ったのである。
「僕を邪魔する、放課後ヴィジランテスを滅ぼせ! 伝説の魔砲、アグネヤストラァ!」
叫び声が空に響き渡った直後、地上で光る五芒星以上に眩いばかりの光が、春永の右手だけから発生する。稲妻の如きスパークに包まれた、砲身である春永の右腕が、太陽の様に光り輝いているのだ。
膨大な魔力が破壊エネルギーに転じ、春永の右腕の中で暴れ回っている。山を一つ吹き飛ばす程の破壊エネルギーが、向かうべき先を見出せず、閉じられた砲身の中を駆け巡っている。
そこで、開かれる。円錐状になっている砲身の先端が、花開く様に展開し、破壊エネルギーの出口である砲口となる。すると、当然の様に暴れ回っていた破壊エネルギーは、砲口から外部に飛び出して行く。
眩いばかりの光の束に見える破壊エネルギーが、雷鳴の如き轟音と共に砲口から迸る。破壊エネルギーの奔流が、地上にいる竜巻達の上に出現した、金色に輝く五芒星に向かって、殺到する。
山一つ跡形も無く吹き飛ばすだろう破壊エネルギーの放出は、射手の身体にも凄まじい負荷をかけるので、春永は苦しげに呻きつつ、発射による強烈なリコイルにより、上空に百メートル程吹っ飛ばされる。砲身の砲口の逆側からは、発射時の反動を相殺する為、破壊エネルギーでは無い、単なる気体が大量に放出される、無反動砲の様なシステムを、魔砲アグネヤストラは積んでいるのだが、それでも強力過ぎる反動を、相殺など出来ないのだ。
龍が吐き出した炎の如き、凄まじい破壊エネルギーの奔流が、光の五芒星を直撃する。だが、五芒星を構成する光線の合間には、ガラスの様に透明な壁が作り出されていて、魔砲アグネヤストラの破壊エネルギーの奔流を、受け止めてしまう。
言わば、ヴリルで作られた光の五芒星は、盾の様な存在と化していたのだ。膨大なヴリルのエネルギーを費やして作られた五芒星型の盾と、強力な破壊エネルギーの衝突により、眩い閃光が発生し、激しいスパークが辺りに飛び散り、雷が至近距離に百本程、立て続けに落ちたかの様な轟音が、轟き続ける。
竜巻達がいる周囲の森の各所が、スパークとなって飛び散ったエネルギーの飛沫を浴び、爆撃でもされたかの様に、立て続けに吹き飛び続ける。ただの飛沫ですら爆弾程の威力を持つ事実が、魔砲アグネヤストラの放った破壊エネルギーの奔流と、竜巻達が作り出したヴリルの五芒星の衝突が、どれ程凄まじいエネルギー同士の衝突であるかを、示している。
両者の放つエネルギーは、互角の押し合いを続ける。春永も放課後ヴィジランテスの面々も、壮絶なエネルギー同士の衝突による苛烈な負荷に、身体と心を苛まれるが、どちらも挫けはしない。挫けた時点で……心が折れた時点で、負けが決まるのだから。
どちらも退かぬまま、三十秒程続いた状況が、変化する。五芒星の表面に、地割れの様な亀裂が走り始めたのだ。
「――勝てる! この勝負、勝てるッ!」
魔砲アグネヤストラが迸らせた破壊エネルギーが、ヴリルの五芒星を撃ち破ったと確信したのだろう、春永は歓喜の声を上げる。実際、亀裂が走り始めた五芒星を目にすれば、そう誰もが思ってしまうのは、当然である。
「やばいな、こりゃ……」
何時の間にか、五芒星の下の中央に移動していた竜巻は、ヴリルで作られた五芒星型の盾である五芒星盾を見上げながら、呟く。冷や汗が竜巻の頬を伝い、流れ落ちる。
五芒星盾に亀裂が走り始めた事に、竜巻も焦りを感じているのだ。
「持ちそうか?」
五芒星盾を見上げながら、純一が竜巻に問いかける。純一も、五芒星盾の中央辺りに、移動していたのだ。五芒星盾は出現後、高さ五メートル辺りまで上昇しているので、その下を放課後ヴィジランテスの面々は、自由に移動できる。
「持たない。崩壊するタイミングを見計らって、流星撃を撃つ!」
そう言いながら、竜巻は両手に持った二挺拳銃で、ガンスピンを始める。
「マスドライバーモード!」
竜巻が命じると、二挺の拳銃は竜巻の手を離れ、閃光を放ちながら合体して巨大化し、一門の手持ち式の火砲風の姿となる。SF映画に出て来る、艦首に決戦兵器である大型砲が装備されている、宇宙戦艦を思わせる奇妙なデザインの、口径が三十センチ、三メートル程の長さがある砲身が印象的な形態は、マスドライバーモード。
マスドライバーモードとは、五芒流星撃の発動時しか使えない、特殊なモードである。マスドライバーとは、SF作品などに出て来る、宇宙船やコンテナなどの巨大な何かを、宇宙空間まで打ち上げたり、放り上げたりする装置の事だ。
名前の通り、マスドライバーモードと化した竜巻の武器は、巨大な何かを打ち上げる、発射装置なのである。見た目以上に重く、とても竜巻一人では運用出来ないモードなので、他の四人が、砲身や竜巻の身体を支える事になる。
砲身を支えるのは、志摩夫と純一、神流である。神流が下から持ち上げ、志摩夫が左から、純一が右から支える形で。
そして、しゃがみ込んでマスドライバーのグリップを両手で握っている竜巻を、後ろから抱き抱える様に支えているのが、昔から仲間内で一番、力が強かった音音である。発射の際の強烈な衝撃を支えるポジションを、音音は一人で受け持つのだ。
「方向はそのまま、仰角八十二度!」
竜巻は砲身を支える三人に指示を出す。魔砲アグネヤストラが放つ破壊エネルギーの光のせいで、春永の存在を視認出来ないのだが、竜巻は標的が空のどの辺りにいるのか、ちゃんと記憶しているので、標的が見えずとも、正確に狙いを定められる。
「行過ぎ! ちょい、下」
張り詰める空気の中、神流達は呼吸を合わせ、砲身の仰角を調整するが、微妙に行き過ぎたので、少しだけ下に戻すように、三人に指示を出す。
「OK! 動かすなよ!」
春永がいるだろうと竜巻が思う方向に、砲口の向きと角度が調整し終わったのだ。
(後は、五芒星盾の崩壊のタイミングに合わせて、引き金を引けばいい!)
何時でも撃てる様に、引き金に指をかけ、五芒星盾を竜巻は見上げる。至る所にひびが入り、崩壊寸前と言った状態に見える、五芒星盾を。
緊張の糸が、張り詰める。砕けそうな五芒星盾の上では、辺り一面を一瞬で焦土と化すに充分な破壊エネルギーが渦巻いているのだ。言わば、亀裂だらけとなった原子炉の壁の前にいる様な状況にいるのだから、五人が緊張しない訳が無い。
脂汗が全身から噴き出て、着衣を濡らす。激しさを増す自分の鼓動や呼吸の音すら、聞き取れる程に、研ぎ澄まされて行く感覚。
そこまで鋭くなった感覚が、捉える。五芒星盾の各所に入った亀裂同士が、急速に繋がり始めるのを。小さな亀裂同士が繋がり、五芒星盾全体が砕けるに充分な、大きな亀裂となったのを、五人の感覚が捉えたのだ。
(来たッ!)
竜巻が心の中で声を上げた直後、野球のボールが直撃した学校の窓ガラスの様に、五芒星盾が砕け散る。ガラスの破片の様に飛び散った五芒星盾の破片は、金色に輝く光の粒子群に変化する。
破壊エネルギーの奔流を防いでいた盾の崩壊は、放課後ヴィジランテスの敗北を意味するだろうと、誰もが思う筈の状況。盾を失えば、破壊エネルギーの奔流が、放課後ヴィジランテスに襲い掛かると、考えるのが普通なのだから。
だが、そうはならなかった。破壊エネルギーの奔流は放課後ヴィジランテスに、襲い掛からなかったのだ。何故なら、五芒星盾の破片だった大量のヴリルの粒子が、それまで受け止めていた破壊エネルギーと混ざり合い、その場で巨大な球体を作り始めた為、その球体に破壊エネルギーの奔流は、留められてしまったのである。
その球体は、マスドライバーの砲口の真上で、浮遊している。
「な、何だ、あれは?」
その巨大な金色の球体を見下ろし、驚き焦ったのは春永。勝利を確信した直後に、予想だにしない展開が始まったのだから、春永が驚愕するのも焦りだすのも、当然と言える状況。
竜巻達は焦ってはいるが、驚きはしない。何故なら、五芒流星撃とは、そういう性質の技だからである。
五芒流星撃とは、二段階に分かれている、攻防一体の技だ。その一段階目は、大抵の攻撃を受け止められるだけでなく、受け止めた攻撃が持つエネルギーを蓄積する防御用の盾……五芒星盾を作り出し、敵の攻撃を受け止める防御段階。
そして二段階目は、五芒星盾が崩壊してから開始される。五芒星盾は崩壊すると、五芒星盾を作り出す為に費やしたヴリルと、五芒星盾が受け止めて蓄積したエネルギーを投入し、強烈無比の砲弾……流星弾を作り出す機能を持っている。五芒星盾の崩壊により作り出された流星弾を、マスドライバーを使って標的に放つのが、五芒流星撃の攻撃段階なのだ。
敵の攻撃が、五芒星盾で完全に受け止められるレベルか、敵の攻撃を受け止めずに、単独で放つ場合、放課後ヴィジランテスが自ら五芒星盾を故意に崩壊させた上で、流星弾を作り出す。だが、敵の攻撃が受け止めきれないレベルの場合、限界を迎えた五芒星盾は自壊し、流星弾を作り出してしまう。
前者の場合、流星弾を放つ攻撃……流星撃は、敵の攻撃の無力化に成功した上で放たれるので、ほぼ確実に技同士の勝負には勝利出来る。だが、後者の場合、結果は相手のエネルギー残量次第と言える。
今回の場合、魔砲アグネヤストラの壮絶な威力を、五芒星盾は受け止めきれなかった……つまり、後者なのだ。例え流星弾を撃っても、勝つか負けるかは、分からない。
勝つか負けるか分からない状態だろうが、竜巻は撃つしか無いのだ。撃たなければ、確実に負けるのだから。
「――せっかく五人揃ったんだ! 悪党風情に負けてられるかよォ!」
叫びながら、竜巻は引き金を引く。すると、金色に光り輝く直径十メートル程の球体……流星弾に向け、マスドライバーの砲口から、金色に輝く棒が飛び出して来る。
凄まじい勢いで飛び出してきた棒は、まるでビリヤードのキューが球を突くかの様に、流星弾の底を突く。爆弾でも炸裂したかの如き爆音が響き、衝撃波が辺りに広がる……それ程の激しさで、マスドライバーの棒は流星弾を突いたのだ。
凄まじいリコイルにより、竜巻達の身体は地面に叩き付けられそうな勢いで、沈み込む。砲身を支える三人は、砲身にしがみ付きながら支え、怪力を誇る音音は竜巻の身体ごと、必死でマスドライバーを支え切る。皆が苦痛に呻き声を上げるが、全てが発射音に掻き消される
それ程に激しい発射音と反動を伴い、打ち上げられた流星弾は、まさに流星の様な光の尾を曳きながら、上昇して行く。魔砲アグネヤストラが放出する破壊エネルギーの滝を遡り、春永に向かって突き進んで行く。
凌いでいるのだ、流星弾の勢いと威力が、魔砲アグネヤストラが放つ破壊エネルギーの奔流の、勢いと威力を。
「馬鹿な! 魔砲アグネヤストラが、撃ち負ける訳など無い! そんな馬鹿な事など、有る訳が無いんだッ!」
流星弾が迫り来る現実が、受け入れられないのだろう。上擦り気味の春永の叫び声が、空に響き渡る。既に半分以上が夜に侵食されている、夜に近付いた黄昏時の空に。
魔砲アグネヤストラが、流星弾に打ち破られつつある現実を、受け入れられない事が、春永の判断を誤らせる。破壊エネルギーの奔流は、流星弾の速度を大幅に減じていた為、避けようと思えば避けられた筈の流星弾を、春永は避けようともせずに、魔法アグネヤストラによる攻撃を続けてしまう。
故に、春永は流星弾を避けられず、全身を流星弾に破壊される事になる……筈だった。
「春永!」
突如、悲痛な叫び声を上げながら、森の中から飛び出した人影が、閃光の如きスピードで春永の元に駆け付ける。人影は春永の左腕を掴み、助け出そうとする。
人影は必死で左腕を引っ張り、春永の身体を移動させる。そして、何とか流星弾の射線上から、春永を逃すのに成功した……ただし、右腕以外。
逃げる際、春永の右腕だけは、流星弾の端に掠ってしまったのだ。魔砲アグネヤストラと化している右腕は、落雷の直撃を受けた木の幹が、裂けるかの様な音を響かせながら、流星弾の光に巻き込まれ、膨大なエネルギーを大気中に拡散させながら弾け飛び、粉々になって消滅してしまう。右腕と融合していた、エーテル・エンジンと共に。
エーテル・エンジンが破壊された為、春永は人型戦車アグニ・ラータとしての姿から、元の姿に戻る。無論、右腕を失った姿ではあるのだが。
突然の乱入者により、五芒流星撃の攻撃段階である流星撃は、春永に相当なダメージを与えたものの、倒し損なってしまった。必殺の一撃を回避された竜巻達は、攻撃の目的を果たし損なった……訳では無かった。例え春永に回避されていても、竜巻達は目的を果たせるのだ。
竜巻達が果たすべき目的、それは春永を倒す事では無い。黄昏の街を破壊し、ムカシノジブンによる犠牲者が、永遠に出ない様にする事。つまり、最初から本当の狙いは、春永では無く黄昏の街だったのである。
だからこそ、竜巻は五芒流星撃を発動する際、変身した場所から。わざわざ最適と思われる場所まで移動してから、発動したのだ。その最適の場所こそが、空にいる春永と、その更に上空であり、尚且つ天津甕高校の上空でもある空間に存在する黄昏の街、そして東の森の地上から技を放つ竜巻達が、一直線となる場所だった。
つまり、五芒流星撃で春永を狙えば、同時に黄昏の街をも狙える訳で、春永に攻撃を回避された場合でも、黄昏の街を五芒流星撃の攻撃段階……流星撃で、破壊出来るのである。無論、春永も同時に倒せる方が、竜巻からすれば良かったのだが。
春永の右腕を奪った流星弾は、流星の様に尾を曳きながら、逆さになって空に浮いている様に見える黄昏の街に、突き進んで行く。夕暮れの空を抉る様に、突き進む流星弾の行く手を阻む者は、既に存在しない。
流星弾は通路を通り抜けて世界の壁を越え、終わり無き黄昏に突入する。そして、黄昏色に染まる古びた石造りの街並の中央に聳え立つ、教会の様な黒い塔を直撃して押し潰しつつ、起爆する。
溜め込んでいた膨大なエネルギーが、まさに目も眩むばかりの閃光と共に、周囲に放射される。石畳が……煉瓦造りの壁が崩れ、金色の光に溶け込んで行く。爆音を伴う強烈な光が、街ごと溶かしてしまうかの様に広がって行き、常に黄昏時の様な景色であった終わり無き黄昏を、真夏の真昼以上の明るさに、塗り潰してしまう。
遠い昔に人々が生を営んでいた街並、魔術師達の愚かな実験により、異世界を彷徨う街と化してからですら、長い時間が過ぎた街が、金色の光に飲まれて消滅する。宇宙から墜落して来た巨大隕石が引き起こした、大爆発に巻き込まれて消し飛ぶ街の様に、黄昏の街は跡形も無く、姿を消してしまう。
残されたのは、黄昏の街を破壊しても、まだ有り余る流星撃のエネルギー。エネルギーの残滓は光となり、終わり無き黄昏を、照らし続ける。お陰で、顕幽市の空の一部は、巨大な満月でも出現したかの様に、光り輝いている。
既に夜の勢力が、夕方を圧倒し始めている黄昏時の終わり、放課後ヴィジランテスは、黄昏の街の破壊に成功した。これでもう、ムカシノジブンによる犠牲者が出る事は無いのだ。
黄昏の街が消えた以上、程無く全てのムカシノジブンが、消滅する。ムカシノジブンは黄昏の街の存在無しに、存在し得ないからだ。
「ま、これで目的は果たした訳だ」
光り輝いたままの、終わり無き黄昏を見上げながら、竜巻は満足げに呟く。既にマスドライバーは、ただの二挺拳銃に戻っている。流星撃の発射を終えて三十秒程過ぎると、マスドライバーは自動的に、拳銃に戻るのだ。




