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40 ヴリルバースト

 巨大な炎の蛇が、竜巻の通り過ぎた辺りの大気を焦がす。ジェットエンジンの発する轟音の様な音が、空気の震えや熱気と共に、竜巻に伝わる。

 ギガ・アレギオンの一体が、宙を舞う竜巻に向けて、口から炎の蛇を放ったのだ。

(あんなもん食らったら、一撃で終わりだな、俺)

 人間の魔術師やムーンチャイルドが放つ炎の蛇とは、桁違いの威力を持つ炎の蛇を回避しつつ、竜巻は心の中で呟く。竜巻が上空にいる間は、ギガ・アレギオンは炎の蛇を対空攻撃にしか使用しない為、顕幽市や周辺地域に被害を齎す心配は無い。それ故、竜巻は宙を飛び続けるしかない。

 竜巻は二体のギガ・アレギオンが次々と放つ炎の蛇を回避しつつ、二挺拳銃で牽制の射撃を行いながら、接近を試みる。だが、ギガ・アレギオンの動きは素早く、両手足での攻撃も鋭いので、竜巻は鋼鉄の両手に仕込まれた刃に身を裂かれそうになり、足や胴から伸びて来る棘に突き刺されそうになる。

 迎撃をかわす為、竜巻は急上昇して上空へと戻る。そんな風に攻撃を仕掛けては失敗し、また上空に戻っては、炎の蛇で迎撃されるという事を、竜巻は何度も繰り返している。

 何故、竜巻はギガ・アレギオンに接近しようとしているのか? それは、竜巻が変身時に使える、ヴリルバーストの性質のせいである。

 竜巻が変身するガンブラットは、二種類のヴリルバーストを持っている。その一つは拳銃では無く、レガッタ程のサイズがある大型砲を出現させ、遠距離から敵を確実に滅ぼせる、ウルスラグナ砲である。

 敵が苦手とする存在と化する、奇妙で強力なウルスラグナ弾を、一発だけ放てるヴリルバーストが、ウルスラグナ砲だ(ウルスラグナとは、変幻自在なペルシャの軍神の名)。だが、ウルスラグナ砲は発射する際、一分程の隙が発生する上、殆どのヴリルを消費してしまう欠点がある。

 それ故、激しい迎撃を行って来る、二体のギガ・アレギオン相手には、使用は不可能。一発では一体のギガ・アレギオンしか倒せない上、確実にギガ・アレギオンに一分の隙を狙われ、竜巻は撃ち落されてしまうだろうからだ。

 つまり、竜巻は必然的に、もう一つのヴリルバースト……アスポルト銃を選択せざるを得ない。二挺の拳銃を大口径の拳銃……アスポルト銃に変化させ、放つ必殺の技である。

 アスポルトとは、物体の消失現象を意味する言葉。つまり、アスポルト銃は撃ち抜いた相手を、確実に消滅させてしまう恐るべき拳銃なのだ。

 ただし、直径百メートルの球形の範囲内に収まる分しか、消滅させる事は出来ないし、消滅させたい物に直接銃口を当て、その物を声で指定しなければ、消す事が出来ない。つまり、接近しなければ使えない技であるアスポルト銃で仕留める為、竜巻はギガ・アレギオンに、接近しようとしているのである。

 炎の蛇が、眼下から吹き上がって来る。射線を読んでかわしつつ、竜巻は降下する。避けてから降下すれば、ギガ・アレギオンの手足や武装による迎撃が間に合ってしまうのを、これまで繰り返した攻撃で確信した為、回避と降下を同時に行い、時間を稼いだのだ。

 熱気が大気を焦がすせいで、鼻腔に流れ込む空気が熱い。熱気は警戒していたので、息は止めていたのだが、流れ込んで来る空気までは、防げない。

 これまで繰り返した攻撃より、ギガ・アレギオンの迎撃反応が遅れているのを、竜巻は見て取る。心の中で喝采する。

(いける!)

 迫る鉄色の巨体、鋼鉄の身体が軋む音が、耳に飛び込んで来る。炎の蛇をかわし切り、二体のギガ・アレギオンが向かい合う間に、竜巻は拳銃で牽制の銃撃を行いながら、頭の先から急降下する。その姿、まるで獲物に襲い掛かる猛禽類の如し。

 大気の抵抗を身に受け減速しつつ、竜巻は両手で二挺拳銃を、ガンスピンする。

「アスポルト銃モードッ!」

 命令を下すと、拳銃が倍程のサイズのアスポルト銃モードに、一瞬で変化する。至る所に魔術式が掘り込んである、古めかしいデザインの大型拳銃である。

 拳銃を変化させた竜巻の目に、右側に見えるギガ・アレギオンの拳が映る。アッパーカットを繰り出すかの様な、ギガ・アレギオンの右拳が、猛スピードで迫って来る姿を、竜巻の視界は捉えたのだ。

 食らえば、何者であれ命は無い。四肢は千切れ飛び、鮮血と肉塊と化して、森の中に飛び散るだろう。原子力発電所の分厚い壁ですら、一撃で破砕するに違いない、強烈な拳撃。

 鋼鉄の拳が、大気を纏い風圧としながら、竜巻に迫る。巻き起こす空気の流れに煽られ、竜巻の身体が激しく揺らぐ。

(駄目だ! 飛行制御が出来ない!)

 地面が迫って来ていた為、減速していた竜巻の身体は、巨大な拳が巻き起こす空気の濁流に巻き込まれた。竜巻は飛行を、自分で上手く制御出来なくなる。

 ギガ・アレギオンの巨体が発生させる空気の流れによる、飛行の乱れの程度を、竜巻は少しだけ甘く見ていた。そのせいで、竜巻の攻撃は予定より、ほんの少しだけ遅れてしまう。

 そんな竜巻に迫る、ギガ・アレギオンの拳。誰もが確実な死を意識する状況、竜巻であれ、それは例外では無い。

 だが、死の可能性を意識しつつも、竜巻は諦めはしない。起死回生の可能性を信じ、叫びながら迫り来る拳に向け、右手が握る拳銃を突き出す。

「ギガ・アレギオンッ!」

 叫ぶのと同時に、拳銃の銃口が拳に触れる。その刹那に合わせ、竜巻は右手の人差し指が引き金を引く。撃鉄が弾けて銃声が吼えると、拳銃の周囲に大量の金色に輝く光の粒子……ヴリルが、花火の様に飛び散る。

 迫る拳に合わせ、竜巻は必殺の一撃を、ギガ・アレギオンに向けて放ったのだ。回避が不可能と悟った時点で、自分を狙って来るだろうギガ・アレギオンの拳を狙う戦法を、竜巻は瞬時に練り上げ、実行したのである。

 その戦法の実行は、功を奏した。ほんの一瞬、竜巻の前方の景色が歪んだ後、全高五十メートルの威容を誇ったギガ・アレギオンは、跡形も無く消滅してしまったのだ。残されたのは、拳が巻き起こした風圧と、ラジオのチューニングに失敗したかの如き、高音のノイズだけ。

 アスポルト銃の威力により、拳撃を身体に受ける寸前で、ギガ・アレギオンの巨躯を消滅させた竜巻は、拳撃が残した風圧を身に受ける。降下中に下方から、上に押し戻される程に強力な風圧を受けた竜巻は、全身が軋む程の圧力を身に受け、激痛に身を苛まれ、呻き声を上げる。

(風圧だけだってのに、これだけの威力があるのか!)

 激痛に耐え、必死で空中での姿勢制御を試みながら、竜巻は心の中で叫ぶ。五秒も掛からず、竜巻は何とか姿勢制御に成功し、飛行を再開する。

 そんな竜巻に、迫る蹴り。竜巻が担当する、もう一体のギガ・アレギオンが、竜巻に襲い掛かって来たのだ。右足による鋭い前蹴りが、竜巻の身に迫る。

 身を翻し、蹴りをかわす竜巻。だが、いきなり右足の各部から勢い良く飛び出して来る、金属製の棘。ギガ・アレギオンの胴や足には、敵を串刺しにする為の棘が、仕込まれているのだ。

 二本の棘が、竜巻を捉えようとする。一本は胸を、もう一本は左腕に迫る。

(かわせない!)

 どちらも回避不可能だと、瞬時に悟った竜巻は、既に役目を終えて通常の姿に戻った右手の拳銃をハンマーの様に扱い、棘を強打する。激しい金属音を響かせながら、棘は折れる。

 直後、左腕から全身を駆け巡る、電撃の如き激痛。致命傷になるだろう胸を狙う棘への対処を最優先し、左腕に迫る棘への対処が出来なかった竜巻は、左腕を棘の先端に抉られたのだ。

 ギガ・アレギオンの放つ鋼鉄の蹴りの風圧に煽られ、左腕から噴き出た鮮血が、噴水の様に飛び散り、茜空の色を濃くする。

(変身してなければ、腕ごと吹っ飛ばされてたな……)

 日本刀による斬撃や、機関銃による銃撃ですら、ヴリルカードで変身した人間を傷つけるのは不可能。その程度に変身中の防御能力は高くなっているのだが、それでも激しく出血する程の傷を負わされたのだから、変身していない状態なら、腕ごと吹っ飛ばされていただろうという、竜巻の認識は正しい。

 竜巻は激痛を堪えながらも、左腕を動かしてみる。出血は激しいが、何とか思い通りに左腕は動いた。

(これだけ動くなら、十分だ!)

 棘に引き裂かれた際の反動と、蹴りの風圧で崩れた姿勢を必死で制御しつつ、右手の拳銃で牽制の射撃を続けながら、ギガ・アレギオンの左足先を目指して突撃する。蹴り足である右足が戻っていない現状、左足で蹴りは放てない為、迎撃が棘だけに限定される分、他の部分を狙うよりリスクが低いだろうと、竜巻は推測したのだ。

 その読みは正しかったのだが、棘による迎撃の激しさは、竜巻の予測を超えていた。まるで下半身だけ針鼠にでもなったかの様に、ギガ・アレギオンの左足から、無数の棘が飛び出して来たのである。

 悔しげに舌打ちこそするものの、竜巻は怯まない。両手に持つ拳銃をハンマーとして、踊る様な見事な動きで、襲い来る金属製の棘を次々と叩き折り、ギガ・アレギオンの左足に迫る。

 身を掠めた棘に、身体の数箇所を引き裂かれ、鮮血が噴き出て、激痛が身を苛むが、竜巻は構わず突撃を続行。苦痛と恐怖に負けて退けば、次の機会を得るのは不可能だと、竜巻は分かっているのだ。

(ここだッ!)

 右手の拳銃で、襲い来る棘を叩き折った直後、竜巻は鋼鉄の板に覆われたギガ・アレギオンの鼠色の右足が、間合いに入ったのを察する。即座に血を垂れ流したままの左手を前に突き出し、叫ぶ。

「ギガ・アレギオンッ!」

 痛みを堪え、引き金を引く。弾ける撃鉄、轟く銃声……そして飛び散る、金色のヴリル。銃口が突き付けられているギガ・アレギオン全体の像が、一瞬だけ歪む。まるで、ダリやマグリットが描いた絵の様に。

 そして、消え去る。鋼鉄の巨人の如きギガ・アレギオンの威容が、跡形も無く。ただ、高音のノイズだけを残して、消滅してしまう。

(よし、二体とも倒した! 他の連中は?)

 自分が担当する二体を倒し終えた竜巻は、他の三人の状況を確認すべく、周囲を見回す。すると、まだ三人共ギガ・アレギオンを倒してはおらず、苦戦を続けている最中だった。

 動きの良過ぎるギガ・アレギオン相手に、大技であるヴリルバーストを叩き込むチャンスを、三人は見出せずにいたのだ。

(――助けに行った方が良さそうだな、こりゃ)

 竜巻は即座に、降下を開始する。他の三人を助けに行くにせよ、二発のヴリルバーストを放った竜巻は、既にヴリルを使い果たす寸前。

 ヴリルの残量が一パーセントを切れば、ヴリルバーストやヴリルアタックなどの、ヴリルを消耗する技が使えなくなるのは当然、防御能力やスピードなども著しく低下する。つまり、今のまま助けに行けば、助けるどころか脚を引っ張りかねないのだ。

 それ故、竜巻は変身を解除し、もう一枚のヴリルカードで変身し直した上で、三人の仲間を助けに行くつもりだったのである。変身を解除して再び変身する為には、竜巻は一度地上に降りなければならない。

 だが、そんな竜巻の姿を監視しつつ、ほくそ笑む者がいた。何時の間にか、竜巻が戦っていた辺りまで、森の中を移動していた春永である。

 ガンブラットである竜巻に、二発のヴリルバーストを使わせて、ヴリルを消耗させる為、二体のギガ・アレギオンを最初に差し向けた。そして、ヴリルを消耗し切った状態の竜巻に、とどめをさす為の呪文を、春永は唱え終えようとしていた。残された最後のレギオン・ドールを、ギガ・アレギオンに変える為の呪文を。

「出でよ、ギガ・アレギオン!」

 春永の叫び声に応じ、最後のギガ・アレギオンが姿を現す。木々を薙ぎ倒しながら、森の中から鋼鉄の巨人が、起き上がって来る。竜巻が降下した辺りから、遠くない場所に。

(もう一体、いやがったのか!)

 竜巻の鼓動が高鳴る。全身の毛穴から、嫌な汗が噴き出る。竜巻は気付いたのだ。自分がヴリルを使い果たしたタイミングを狙い、春永が最後のギガ・アレギオンを差し向けた事に。

 ヴリルバーストを使えない現状、既に竜巻にはギガ・アレギオンを、単体で倒す能力は無い。だからと言って、仲間の三人はギガ・アレギオンと苦戦中なのだから、三人による助けを期待するのも、無理である。

(変身し直せば、何とかなるんだが……)

 既に地上に降りていた竜巻は、心の中で呟くが、動きの速いギガ・アレギオンは、竜巻に変身し直す暇を与えない。地震の様に地面を揺らしつつ、右足で前に踏み込むと、竜巻を抹殺すべく、左足で鋭いローキックを放つ。

 土埃が舞い上がる中、竜巻は飛び上がってローキックをかわすが、足先が巻き起こす風圧までは、回避し切れない。竜巻は暴風の如きギガ・アレギオンの蹴りの風圧に吹っ飛ばされ、五十メートル程吹っ飛ばされた挙句、地面に叩き付けられる。

 息が出来なくなる程の衝撃を身体に受け、全身の骨が軋んで悲鳴を上げる。変身していなければ、確実に死んでいただろうダメージを食らった竜巻は、全身から金色の光の粒子群を飛び散らせつつ、ガンブラットとしての姿から、制服姿の竜巻の姿に戻ってしまう。

 ヴリルカードで変身した者は、ヴリルが尽きて防御能力が著しく落ちた状態で、身体に一定以上のダメージを受けると、変身は強制的に解除されるのだ。それ故、竜巻は風圧に吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた衝撃で、変身が解除されてしまったのである。

(変身を解除する手間が、省けたねぇ……)

 呻き声を上げつつ、竜巻は心の中で強がってみせる。だが、確かに変身を解除する手間は省けたものの、再び変身する為の余裕が、既に竜巻には無かった。

 地面の上で仰向けに転がされた状態の竜巻の目に、ギガ・アレギオンの姿が映ったのだ。竜巻を見下ろして、蛇の舌の様に赤い炎が漏れ出している、巨大な砲口の如き口を開いている、ギガ・アレギオンの姿が。

 地面に転がった状態で、変身が解かれている状態の竜巻に、ギガ・アレギオンはとどめをさすべく、炎の蛇を撃とうとしているのである。

(どうする?)

 竜巻は自問する……が、今回ばかりは何も策が思い浮かばない。まさに手詰まりと言える状況に、竜巻は追い込まれていた。

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