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39 ギガ・アレギオン

 四人が揃い、戦力が上がった放課後ヴィジランテスは、残されていたムーンチャイルドの群を圧倒する。音音と竜巻で魔術式を潰したムーンチャイルドを、神流が仕留めるという形で、七十体近く残されていたムーンチャイルド達を、五分程度で殲滅し終えようとしていた。

「破城銀槍ネコニス・ブストリスと、ムーンチャイルド二百体を費やしても、一人も倒せないとは。連中の戦闘力は、インコグニートの実戦部隊以上なのか!」

 一体のムーンチャイルドが、神流に一刀両断にされ、黄色い粒子群となって溶けて行く夕焼け空を、春永は悔しげに言葉を吐き捨てつつ、見上げている。場所は天津甕高校から三百メートル程離れた、顕幽市東側郊外に広がる、東の森の中。

 破城銀槍ネコニス・ブストリスの発動に巻き込まれるのを避ける為、春永は此処まで逃げて来ていたのである。

「だが、君達の犠牲は無駄にしない」

 そう言い切りながら、その場にしゃがみ込んだ春永は、両手の指先で地面に魔術式を書き込む。春永が呪文を唱えると、黄色く輝く召還魔術の魔術式の上に、金属製の人形が六体、そして、夕陽を思わせる光る球体が埋め込まれた、ソフトボール大の魔術機械が召還される。

 春永が更に呪文を唱えると、魔術機械に埋め込まれた球体……コアから、オレンジ色のケーブルが六本生え、人形に向かって伸び始める。

「――いや、いきなり六体を彼等にぶつけるのは、得策では無いかもしれないな」

 呪文の詠唱を止め、春永は呟く。

「これまでも、ヴリルカードの使い手数人程度なら、圧倒出来る筈の戦力を投入したのに、全てが退けられた。ムーンチャイルドだけでも、最低二人は片付けられたか、消耗させて戦闘不能に追い込めた筈なのに、そうは行かなかった」

 放課後ヴィジランテスの戦い方を思い出し、春永は分析してみる。

「恐らく、黄昏の街を破壊する余力を、残す為なんでしょう。ヴリルを消耗しない低レベルの技だけで、ムーンチャイルドの群を殲滅する為、彼等は見事なフォーメーションを即座に組んで、戦っていました。連携が上手く取れているのは当然として、即座に状況を分析、戦術を立案してくる能力が、リーダーにあると考えるべきですね」

 ガンブラット……そして、その正体だと春永が推測している竜巻の顔が、春永の頭に浮かぶ。

「私が今回の一件を引き起こした魔術師だと真っ先に見抜き、黄昏の街を隠蔽する為の魔術式を見つけ出したのも、ガンブラット。放課後ヴィジランテスが、人数以上の戦力を発揮する鍵は、リーダーである彼のようですね。だとしたら、集中的に彼を叩き潰すのが肝要」

 そう考えた春永は、残された戦力を、四人全員に公平にではなく、竜巻中心に配分する事を決めた。

「レギオン・ドールを一体、止めをさす為に残しておくべきですね」

 そして、春永は再び呪文を唱え始める。すると、魔術機械のコアから伸びるケーブルは五本に減り、ケーブルの先端は五体の人形……レギオン・ドールの左胸に突き刺さる。

 魔術用語において、レギオンとは悪霊の集合体を意味する。レギオン・ドールとは、魔術処理した依り代としての金属人形に、多数の悪霊を憑依させ、擬似的に精霊の様な状態にした、魔術武器である。

 レギオン・ドールはエーテルや魔力を一定以上流し込まれると、アエリアル現象を引き起こす。アエリアルとは、人間には見る事が出来ない身体を持たない精霊なのだが、大気中のエーテルを集めて、擬似的な身体を作り出す事が出来る。

 アエリアルの様に、エーテルや魔力……場合によってはヴリルなどを集めて素材とし、擬似的な物質や身体を作り出す現象が、魔術業界ではアエリアル現象と定義されている。そして、レギオン・ドールに宿る悪霊の集合体……擬似的な精霊が、アエリアル現象を引き起こして、鋼鉄の身体を得た物……魔術師の思い通りに動く人型魔術武器を、アレギオンと呼ぶ。

 春永は、アレギオンを作り出そうとしているのだ。だが、普通は魔術師が持つ魔力を使って、アレギオンを作り出すのだが、春永は手にした魔術機械が発生させる魔力を使っている。この魔術機械は、膨大な量のエーテルを周囲の空間から掻き集めて、魔力に変換した上で、レギオン・ドールに魔力を注ぎ込んでいるのだ。

 オレンジ色に輝くケーブルを通し、レギオン・ドールに注ぎ込まれた魔力の量は、既に限界を超えつつある。限界を超える程の魔力を注がれたレギオン・ドールは巨大化し、絶大な戦闘能力を持つ、魔術機械の巨人……ギガ・アレギオンと化す。

 春永が呪文を唱えるのを止めると、ケーブルが自動的に外れて消滅する。ギガ・アレギオンと化すのに十分なだけの魔力を、レギオン・ドールに注ぎ終えたのである。

「出でよ、ギガ・アレギオン!」

 その叫び声に応えるかの様に、レギオン・ドールがオレンジ色の光と金色の稲妻に包まれ始める。光と稲妻の範囲は急激に拡大し、ほんの数秒で直径五十メートル程の光の球体が五つ、森の木々を薙ぎ倒しながら発生する。

 圧し折れる木々の幹から飛び散る、鮮烈な樹液の匂い。木々の上げる絶叫の如き騒音を響かせながら、巨大化した光級は、すぐに消え去る。そして、残されたのは五体の鋼鉄の巨人。

 レトロフューチャーとでも表現すべきだろうか、昔の人々がSF小説などの形で夢見た未来に、悪の科学者が作り上げるかも知れない戦闘ロボット。そんな風なデザインのロボットを、そのまま高さ五十メートル程のサイズに巨大化させた感じに、ギガ・アレギオンは見える。

「行け、下僕達! 僕の敵を滅する為に!」

 出現した巨大な鋼鉄の人形……鉄色のギガ・アレギオン達は、多数の重機が蠢く工事現場の如き騒音を立てながら、人間の様に歩き始める。最後のムーンチャイルドを仕留め終えたばかりの、天津甕高校の上空にいる竜巻達に向かって。


 突如、天津甕高校の東に広がる、東の森の奥に出現した、五体のギガ・アレギオンの姿を視認し、竜巻は驚きの声を上げる。

「何だ、ありゃあ? ゴーレム……じゃないか、ゴーレムなら粘土か石なのに、あれは金属製で、アニメとかに出て来る巨大ロボットみたいな感じだ」

 竜巻は近くを飛ぶ純一に、問いかける。

「あれ、何だか分かるか?」

 純一は既にタロットカードの束から、数枚のカードを引き抜き、絵柄を確認している。引き抜かれたのは、吊るされた男に死神、愚者のカード。

「何らかの精霊に、人型の身体を魔術で与えた物に間違いは無いが。裁かれて死んだ、愚かな連中の霊が、精霊の代用品として利用されてるって感じかな」

 カードから、そういう情報を読み取った純一は、持っているオカルト知識から、そういった霊を利用した、人型の身体を持つ魔術武器に関する知識を引き出す。

「アレギオン……じゃない! 過剰な魔力を費やして作り出す、ゴーレムを遙かに越える戦闘力を持つと言われる鋼鉄の巨人、ギガ・アレギオンだ!」

「ゴーレムを越えるだって?」

 驚きの声を上げる竜巻に、純一は頷く。

「攻撃力も速さも防御能力も、圧倒的にゴーレムより上だ」

 純一の言葉を聞いて、竜巻は焦る。放課後ヴィジランテスの面々は、過去にゴーレムと戦った経験がある。その際、ゴーレムの巨体を破壊するには、ヴリルを消耗するヴリル・バーストの使用が必須である事を、竜巻達は経験として思い知っているのだ。

 つまり、五体のギガ・アレギオンが出現した時点で、黄昏の街破壊の為に、ヴリルバーストの使用を極力控え、ヴリルを温存するという、竜巻の目論見は崩れ去ったのである。

「仕方無い! ヴリルバースト使ってもいいから、あいつ等が森の中にいる間に、一人で一体ずつ確実に潰せ! ただし、使うなら一発で確実に仕留めて、黄昏の街を破壊する分のヴリル、残しておけよ!」

 音音と純一は了承するが、神流は問いかけてくる。

「私も使っていいのか? もう一発分しかヴリル残ってないんだけど」

「あんな連中が、街の中に入って来て暴れられたら、ムカシノジブン以上の被害者が出る。黄昏の街の破壊は俺達に任せて、お前は確実に一体、ギガ・アレギオンを潰してくれればいい」

「――でも、五体いるから一人一体潰しても、一体余るぞ。どうするんだ?」

「俺が、二体潰す」

「そしたら、ハジキンのヴリルも尽きるじゃないか。幾らなんでも、ニャーコとノロイチだけじゃ、あれを破壊するのは無理では?」

 上空に浮かぶ黄昏の街を指差しつつ、神流は竜巻に尋ねる。

「安心しろよ、俺は一度ならヴリルが尽きても、大丈夫だから」

 そう言い残すと、竜巻は向かって右側にいる二体のギガ・アレギオンに向かって、飛び去って行く。二体の注意を自分に引き付けるかの様に、二挺拳銃で銃撃を加えながら。

 竜巻がヴリルカードを二枚持っているのを知っている音音と純一は、竜巻が残した言葉の意味が理解出来るが、知らない神流は理解出来ない。だが、その事を今は気にしている場合では無いと考え、神流は音音や純一同様、ギガ・アレギオン達が待ち構える、東の森に向かって、突撃を開始する。


 顕現市では大きな方に入るスーパーマーケット、ショッピングセンターふじよしの店頭広場は、普段の夕暮れ時より賑わっている。開店十五周年記念セールとして、店頭広場は縁日の様に、出店が出ていたりするからだ。

 だが、夕暮れ時である現在、本来なら夕食用の買出しの為に店を訪れた買い物客達は、買い物にも出店にも興味を持たず、皆が北東を眺めていた。顕幽市の東端がある方向である。

 無論、戦いを見て危険だと判断し、逃げる人もいるが、戦場からは相当な距離がある隣の市である為、野次馬根性を発揮して、見物に興じている人達も多い。

「ママー、ケモレンジャーみたいだねー!」

 七歳くらいの男の子が、母親に話しかける。目線の先で始まったばかりの、空を舞う放課後ヴィジランテスと、巨大ロボットの如き五体のギガ・アレギオンとの戦いを見て、日曜の朝に放送されている、子供向け特撮ドラマの「獣耳戦隊ケモレンジャー」を、男の子は思い浮かべたのだ。

「あれはケモレンジャーじゃないのよ。良く見てごらん、違うでしょ」

 母親が、男の子を窘める。

(この距離で見ても、違いなんて分からないだろ)

 母子の近くで、子供にヘリウム入りの風船を配るアルバイトをしていた志摩夫が、心の中で呟く。志摩夫の認識通り、巨大なギガ・アレギオンの姿はともかく、放課後ヴィジランテスの面々は、飛び回る虫の様な存在にしか見えない程度に、距離は離れている。

(――それにしても、ありゃゴーレムじゃないな。体のあちこちに武器が大量に仕込んであるし、そもそも動きが素早すぎる)

 遠くから戦いを見守っていた志摩夫は、不安げである。巨体であるにも関わらず、ギガ・アレギオンはプロボクサーの様に機敏でありり、両手や両足には刃物や棘が装備されていて、巨大な炎の蛇を発射する口は、まるで大口径の対空砲の如し。

 ヴリルバーストを叩き込めば、倒せない相手ではない。だが、機敏な動きと長いリーチを誇る強力な攻撃に阻まれ、放課後ヴィジランテスの面々は苦戦している様に、志摩夫には見えた。

(おまけに、数も相手より少ないからな。こいつは、やばいんじゃねえか?)

 かっての仲間達の苦戦……危機を察した志摩夫は、どうすべきか迷う。助けに行くべきか、行くべきではないかという問題について。

(アホな見栄張っちまったからなー、今更変身して助けに行くのは、かなり気まずいし、恥ずかしいのよね。それに、バイトの途中だし……)

 葛藤する志摩夫の近くで、戦いを見ていた男の子が、何かに気付いたのだろう、声を上げる。

「あ、ホントだ! ケモレンジャーとはちがうや!」

 男の子は、顕幽市上空にいる竜巻達を指差しつつ、続ける。

「ケモレンジャーは、てきのロボットとたたかうとき、五人でたたかうもん! せいぎのヒーローは五人でたたかうんだけど、四人しかいないもん! 一人足りないよ!」

 志摩夫は男の子の言葉を聞いて、はっとした様な表情を浮かべる。

「そうだよ、やっぱ一人足りないとマズイよな……五人で戦わないと」

 意を決したのだろう、引き締まった晴れやかな顔で呟くと、志摩夫は手にしていたヘリウム入り風船の紐を、近くにあった福引の出店の鉄パイプに、手際良く縛り付ける。そして、福引の出店にいた、ふじよしの社員である中年男に、声をかける。

「すいません、ちょっと体調悪いんで、今日は早退させて貰いますッ!」

 そう言い切ると、志摩夫は返事も聞かずに従業員用の駐輪場に向かって、全力で駆け出す。

「おい、阿佐田! 何言ってんだよ! いきなり抜けられても困るよォ!」

 呼び止める社員の声を、後ろ髪を引かれる思いをしながらも無視し、駐輪場に駆け付ける。

「ここからなら、森の中突っ切って全力で飛ばせば、五分……いや、四分で着く筈だ!」

 リーゼントが崩れない様に気遣いながらヘルメットを被ると、志摩夫はバイクをスタートさせ、ふじよしに来る前に出会った竜巻に場所を聞いていた、ダマシヤに向かって走り出す。

 ちなみに、竜巻がラジオゾンデに魔術式が記されてると、気付くきっかけになった風船は、志摩夫が子供に配り損ない、空に飛ばしてしまった物だった。自分の失敗が偶然にも、既に仲間を助けていた事を、志摩夫は知らない。



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