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34 ヒーローが縛られるのは法律じゃない、自分が信じる正義だ!

 午後五時五十分、部活動や生徒会活動などを終えた生徒達は、帰宅の為に校門に向かっている。それ故、校舎の裏にある水飲み場の近くに集まっている、竜巻と音音、純一の三人がいる辺りに、他の人影は既に無い。

「もう、探して無いところといえば……教師用の寮の、閏間先生の部屋くらいなもんかな」

 純一は呟く。校長室や理事長室なども、三人は分担して、窓の外などから中をチェックしていたのだが、春永の住む部屋は、カーテンなどで窓が内側から覆われていたので、担当していた純一は、室内をチェック出来なかったのだ。

「閏間先生って、さっきニャーコが言ってた、俺が磐座公園にガンブラットとして降りたのを、近くを通って見かけたって言ってた人か」

 竜巻の言葉に、音音は頷く。

「でも、その話は嘘なのだ。閏間先生は、ハジキンが変身したまま、ニャーコ達の所に降りて来たのなんて、見てないよ」

(だよなぁ。でも……そんな嘘を、何で吐いたんだ?)

 不自然な嘘を吐く意味を、色々と考えてみた竜巻の目に、二十メートル程離れた辺りにある、水飲み場の壁に記された、仄かに赤い光を放つ、監視用の魔術式が映る。遠くにいても、特定の場所の光景を監視出来る、その魔術式を見た竜巻の頭に、或魔の言葉が甦る。

「こんな、人が全く来なさそうな森の中に、わざわざダマシヤを開店したのも、街中が魔術式だらけだったからさ。警戒や監視目的の魔術式も多かったんで、あたしやダマシヤの存在を、魔術師に先に掴まれると、厄介な目に遭う可能性あるからねぇ」

 或魔の言葉は、顕幽市中に監視用の魔術式が仕掛けられている事実を、示していた。

(そっか、つまり今回の敵である魔術師は、ガンブラットに変身した俺が、ニャーコ達がいた磐座公園に降りたのを、見ていた可能性が高いんだ)

 竜巻は更に、考えを深めてみる。

(だが、ガンブラットの正体が俺だと気付いたのなら、魔術師は自分の敵に回るだろうガンブラットの正体である俺を、排除しようとする筈だが、そんな動きは無い)

 頭の中に、小学生時代の記憶が甦る。監視魔術の魔術式が記録した映像を、或魔に見せられた際の記憶である。

 テレビのニュース番組などで放送される、監視カメラの映像同様に、離れていたり暗かったりする場所の映像が、監視魔術の映像には、余り鮮明に記録されていなかったのを、竜巻は思い出す。

(磐座公園付近には、監視魔術の魔術式を仕掛け損ない、離れた場所の魔術式から監視していたのなら、映像の質に問題があり、映像から俺を判別するのは無理だったのかも。俺の見た目なんて、少し離れた場所から見れば、他の連中と区別出来ないだろうからな)

 竜巻は音音を見詰める。高校生の少女としては、人並みを外れた肢体の持ち主である音音を。

(こいつと違って)

 遠くから撮影した映像であっても、音音程に大きな身体を持つ少女なら、顕幽市の中で数人まで、候補を絞り込める事に、竜巻は気付く。

(だとしたら、魔術師はニャーコが映像に映ったデカイ少女なのかどうか、確認しようとコンタクトを取る筈。無論、ガンブラットの仲間かもしれない相手に、自分が魔術式を使った事を知られたくないと、過剰に意識するが故、吐かなくていい嘘を吐く……違う方法でガンブラットの姿を見たと、アピールしてしまう可能性が高い)

 春永が音音に対して取った行動が、そのまま顕幽市で暗躍している魔術師が取りそうな行動に、竜巻には思えてきた。

(つまり、ニャーコが匂いで嗅ぎ取った嘘は、ガンブラットを「見た事」ではなく、「近くを通りかかった」の部分だった訳だな)

 自分達が、春永が話した内容の、どの部分が嘘なのかという点について、勘違いしていたのだと、竜巻は気付いた。

(しかも、そんな閏間先生の部屋こそが、天津甕高校の敷地内で今現在、目当ての魔術式がある可能性が残されている、唯一と言っていい場所)

 竜巻の頭の中で、靄が晴れ……太陽の様に、答えが姿を現す。ムカシノジブンという危険な超常現象を、顕幽市に発生させている元凶の正体を、竜巻は導き出したのだ。

 竜巻は大きく深呼吸をしてから、導き出した答えを口にする。

「魔術師の正体は、閏間先生だ!」

 見知った教師である春永が、今回の一件の黒幕だと、いきなり竜巻に断言され、音音と純一は呆然とした目で、竜巻を見る。竜巻が頭の中で巡らせた思考を知らないのだから、その反応は当然と言える。

「何で、そんな話になるんだよ?」

 問いかけてくる純一……そして音音に、竜巻は自分が春永が魔術師だと考えるに至った一連の推理を、手短に語って聞かせる。

「いや、確かに……閏間先生が魔術師だと考えれば、筋道が通る気はするんだが、証拠が全く無いだろ? 全部、ハジキンの推測というだけで」

 純一の言う通り、竜巻の推理には証拠が無い。だが、竜巻は不敵な笑みを浮かべ、言い放つ。

「証拠が無いなら、手に入れればいいんだ! これから閏間先生の部屋の中を、探してな!」

「探すって、どうやって? 窓はカーテンで覆われてて……」

「無論、正義の名の下に、強制的に家宅捜索!」

「いや、それ警察ならやっていいけど、俺達が勝手に先生の家の中調べて回ったら、不法侵入とかの違法行為だろ!」

 竜巻は、伸ばした右手の人差し指を、左右に振るジェスチャーで、純一の言葉を否定する。

「空を飛ぶのだって、武器を持ったり戦ったりするのだって、ぶっちゃけ何かの法律に引っかかってるんだぜ! でも、そんなの気にしてたら、正義のヒーローなんて、やってられないって!」

 スパイメガネを外し、手にしたバッグの中にしまいつつ、竜巻は話を続ける。

「多少法律犯して、それで人の命を救える可能性上がるんだったら、迷わず法律くらい破って人の命を救う! そいつが正義のヒーローってもんだ! そうだろう?」

 バッグの中にあるスパイセットから、銀玉鉄砲を取り出すと、竜巻はバッグを校舎の壁近くに置く。

「ヒーローが縛られるのは法律じゃない、自分が信じる正義だ!」

 ポケットから財布を取り出すと、その中から竜巻は、ヴリルカードを引き抜く。

「強制的に調べた結果、閏間先生のプライバシーレベルの人権を侵してしまう事より、調べるのを躊躇ったせいで、人が死ぬリスクが高まる事の方を、俺の正義は許さない!」

 竜巻はヴリルカードを、宙に放り投げる。

「閏間先生が黒幕の魔術師だと、俺の心が判断した以上、俺がやる事は決まってんのよ!」

 木の葉の様に舞い降りてくるヴリルカードに、竜巻は右手で握る銀玉鉄砲の銃口を突き付ける。ヴリルカードは一瞬で巨大化し、扉となって竜巻の前に立つ。

「開け! ヴリルの扉!」

 叫びつつ、竜巻は引き金を引く。すると、ヴリルカードは中央から割れ、黄金色に輝くヴリルのシャワーを、竜巻の全身に浴びせる。

 ヴリルの光は弾け飛ぶ様に周囲に飛び散り、ガンブラットに変身した竜巻が、姿を現す。

「電光石火のガンブラット、只今参上……と!」

 ガンスピンを手短に披露してポーズを決めると、即座に竜巻は宙に舞い、雑木林がある方向に向かって、飛び始める。百メートル程の幅がある雑木林の向こうに、教師用の寮があるのだ。

「ちょっ……待てよ、おい!」

 あっという間に飛び去って行く竜巻を見上げながら、慌て気味の純一が声をかける。

「無駄なのだ。正しいと信じてる事を、やると言い出したら、ハジキンは誰が止めようが、やっちゃうんだから」

 竜巻を見上げながら呟く音音は、既にスパイメガネを外し、ヴリルカードを手にしている。

「――でも、それで結局は上手く行くのだ。そんなハジキンを助けるのが、ニャーコにとっての正義なのだな、昔も……今も」

 音音は笑顔でヴリルカードを宙に投げると、財布に付いている招き猫のキーホルダーを、ヴリルカードに突き付ける。そして、開いたヴリルの扉から流れ込んできたヴリルを全身に浴び、正義のヒロイン……猫姫に姿を変える。

「俺は、どっちかといえば巻き込まれて、流されてるだけな気がするよ。昔も……今も」

 愚痴を漏らしつつ、純一もポケットからタロットカードのケースを取り出し、ケースの一番上にしまっておいたヴリルカードを取り出すと、宙に放り投げる。 

「ま、それはそれで楽しいし、人助けにもなるんだから……いいか」

 投げやりな言葉を口にしつつ、純一はタロットカードをケースごと、ヴリルカードに突き付ける。すると、他の二人と同様に、ヴリルの扉が開かれ、流れ込んできたヴリルを全身に浴びた純一は、タロッティアに変身する。

 変身を終えた音音と純一は、竜巻の後を追って宙に舞い、雑木林に向かって飛び始めた。雑木林の向こう側にある、教師用の寮に行く為に。



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