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30 スパイセット

「或魔!」

 純一に先んじてダマシヤに着いた竜巻は、戸を開いて店内に入ると、元気な声で呼びかける。

「メモリマの様子、どうだい?」

「ハジキンか? 大丈夫だ、今は二階のベッドに寝かせている」

 或魔の声が返って来たのは、二階から。

「二階に上がって、様子見ていいか?」

「駄目! さっき裸にして身体を拭いて上げた後で、着てた服は洗濯中だから、メモリマは裸にタオルケットかけてあるだけの姿なんだ」

 和美の様子を説明しつつ、或魔は階段を軋ませながら、一階に下りて来る。

「歳に似合わないセクシーな身体してるメモリマの露な姿を、意識が無いのを良い事に、嘗め回す様に見たいというなら、話は別だが」

「見たい訳が無いだろ、あいつまだ小学生だぞ!」

 語気を強めて言い返しながらも、小学生とは思えない和美のボディーラインを、つい竜巻は思い出してしまう。

(ま、本音を言えば、少し見たい気がしない訳じゃないけど、やっぱ小学生のメモリマを、そんな目で見たら駄目だし、そもそも俺が好きなのは或魔なんだし……)

 そう自分に言い聞かせ、竜巻は不埒な考えを、頭の中から追い出す。

「ま、とにかく上がりなよ」

 一階に降りて来た或魔は、和室に入ると竜巻に声をかけつつ、手招きする。

「あ、そうだ! スパイセット貸してくれ! 魔術式見付け出すのに必要なんだ!」

 或魔に呼ばれた竜巻は、ダマシヤを訪れた本来の用件を思い出す。

「――スパイメガネか。あれが必要になるって事は、終わり無き黄昏に通じる通路が、どの辺りに開くのか、もう分かったのかい?」

 竜巻の意図を見抜いた或魔は、驚いた様に問いかける。通路が開く場所の目星を付けるだけでも、もっと時間がかかるだろうと、或魔は覚悟していたのだ。

「ああ、かなりの確率で通路は、天津甕高校の敷地内に開いている」

 和室に上がった竜巻は、持参したバックからノートパソコンを取り出して、卓袱台の上に置く。そして、自分達が通路の場所を導き出す根拠となった情報を或魔に見せつつ、何故に天津甕高校に通路があると推理したか、その理由を説明する。

「成る程、確かに通路が開いてるのは、天津甕高校である可能性が高いな」

 或魔はモニターを覗き込みながら、感嘆の声を漏らす。

「昨夜の騒ぎの時は、どうなるかと思ったが……騒ぎを起こして一気に情報を掻き集め、集めた情報を分析し、あっという間に場所を絞り込むとはね……見事だよ」

 そういった作戦の立案は、放課後ヴィジランテスにおいては、昔から竜巻が行っているのを、或魔は知っている。故に、その感嘆は主に竜巻に向けられていた。

「――見事な手際に、惚れた?」

 隣に座る或魔の顔を、上目遣いで覗き込みつつ、悪戯っぽい口調で竜巻は問う。

「惚れるか、アホ!」

 或魔は不愉快そうに顔を顰めつつ、言葉を吐き捨てると、竜巻のこめかみに、グリグリと両拳を押し付ける。

「痛い! 痛いってば!」

 苦痛を訴えながらも、竜巻は心地良い懐かしさを感じていた、小学生時代も、色々と悪ふざけが過ぎた場合など、竜巻は或魔に、そんな風なお仕置きを受けていたが故である。

「何じゃれ合ってるのよ、こんな時に?」

 ダマシヤの戸を開け、中に入って来た純一が、竜巻と或魔の様子を見て、呆れ顔で声をかける。竜巻に少し遅れて、純一もダマシヤに着いたのだ。

「じゃれてるんじゃなくて、大人をからかう様な真似するアホへの、お仕置き!」

 或魔の返事を聞きつつ、純一は靴を脱いで和室に上がる。

「まーた或魔さん口説いてたのか、ハジキン。お前と或魔さんは、そういう縁は無いんだから、さっさと諦めろって」

 小学生時代に竜巻に頼まれて、或魔との恋占いをした事があった純一は、竜巻を諭す。殆ど外れない、恋愛関連の占いでは、二人の間には、運命の赤い糸は無いという結果だった。

「それ、小学生の頃に占った結果だろ。運命なんて変わる事あるんだから、今となってはノロイチの占いでも、当てにならないって!」

「そういう恋愛面のポジティブシンキングは、ストーカー生み出すだけだぞ。お前の赤い糸は、他の女と繋がってるんだから、縁が無い相手を追い求める様な、不毛な真似は止めて、そっちの縁を大切にしろよ」

「他の女って、誰だ?」

 竜巻が問いかけた直後、或魔が口を挟む。

「お前達、ここに何しに来たんだ?」

 或魔に問われ、竜巻と純一は、自分達が来た目的を思い出す。

「そうだ! 或魔……さっきも言ったけど、スパイセット! 早く学校に戻って探し始めないと、黄昏時が来ちまう!」

 黄昏時が来れば、またムカシノジブンが現れ、犠牲者が増えてしまう可能性が高まる。竜巻は可能な限り、黄昏時が来る前に、通路を隠蔽している魔術式を、見付け出したかったのだ。

 そうすれば、黄昏時が訪れるのと同時に通路を見付け出し、黄昏の街の破壊に入れるので、これ以上ムカシノジブンの犠牲者を出さずに済むのだから。

「時間は……四時か」

 壁に掛けられた鳩時計に目をやり、竜巻は時間を確認する。

「待ってな、すぐに三人分のスパイセット、用意してやるから」

 或魔は立ち上がって、紙魚だらけの襖を開けると、部屋を出て行く。倉庫になっている隣の部屋に、或魔は向かったのだ。

 三分程、大掃除でもしているかの様な物音をさせ続けた後、隣の部屋は静かになり、厚紙と透明なプラスチックで出来た、赤と黒に色付けされた安っぽいケースを三つ、或魔は手にして戻って来る。それらがスパイセットのケースであるのは、言うまでもない。

 色々と荷物をどかしたりしながら探し出したのだろう、或魔の黒いワンピースは、灰色に見える程に誇り塗れである。

「もう少し、普段から片付けとけば?」

「忙しいから、そんな暇無いんだよ」

 部屋の片付けが下手な事に対する言い訳を、口にするのが恥ずかしいのだろう。或魔は微妙に竜巻から目線を逸らしつつ、三つのスパイセットのケースを、竜巻に手渡す。

「このスパイセットのスパイメガネは、以前お前達に使わせてた物より、多少性能が上がっている。魔術式を見付けて判別するだけでなく、異空間に通じていた痕跡も、見る事が可能だ」

「つまり、隠蔽の魔術式を解除して、その痕跡が出て来たら、それが終わり無き黄昏に通じる通路を隠蔽していた、隠蔽の魔術式だと分かる訳ね?」

 竜巻の問いに、或魔は頷く。

「終わり無き黄昏に通じる通路の痕跡は、夕焼け空と同じ色の光に見えるから、すぐに分かる」

「それだと、夕方になると見分けが付かなそうだな」

「夕方……黄昏時に、通路を隠してる魔術式を解除すれば、痕跡ではなく本物の通路が姿を現すから、問題は無いだろう」

「そりゃ、確かに」

 或魔の説明に、竜巻は納得する。

「あと、今回は直径一メートル以下の、小さな隠蔽魔術の魔術式は、無視して構わないよ」

「何故です?」

 純一が、或魔に尋ねる。

「異世界に通じる通路を、隠し通せる程の結界を作り出せる隠蔽魔術の魔術式は、相当に高度な魔術式になるから、詰め込む情報量が桁外れに多い。当然、魔術式のサイズは大きくなる」

 或魔の返答に、純一だけでなく竜巻も納得し、頷く。

「スパイセット有難う、或魔! お礼に今度、デートしてやるよ」

「それ、喜ぶの或魔さんじゃなくてハジキンだから、お礼になってないだろ」

 バッグにスパイセットをしまう竜巻に、純一は突っ込みを入れる。

「だから、大人をからかうなと何度も……」

 窘めの言葉を口にし始めた或魔を置いて、竜巻は立ち上がると、店の方に向かう。

「じゃ、俺達学校に戻るから! またね、或魔!」

 そう言い残すと、竜巻は急いで靴を履き、純一と共にダマシヤの店外に出て行く。

「――全く、説教くらい最後まで聞いて行けっていうんだ。相変わらず、忙しない奴だな」

 再び、竜巻達が来る前の静けさを取り戻した、ダマシヤの和室の中で、或魔は独り言を呟く。昨夜、竜巻達を送り出した後に感じたのと同じ寂しさに、或魔は再び襲われる。

「前の様に長居したら駄目だな、また……離れ辛くなるだけだ。あの子達は、もうすぐ大人になるんだから」

 自分に言い聞かせるかの様な、或魔の口調は弱々しく、目を伏せている表情は寂しげである。

「余り……関わっちゃ駄目なんだ。そんなの……分かり切っている事じゃないか」

 深い溜息を吐いてから、或魔は倉庫になっている隣の部屋に向かう。スパイセットを探し出す為に、散らかしてしまった部屋を、片付ける為に。



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