表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/50

23 変身!

「じゃあ、メモリマの事は頼んだのだ」

 既にダマシヤの店外に出た純一に続き、外に出ようとしていた或魔は、振り返って或魔に声をかける。

「任せときな、これでも一応は魔女だからね。これからメモリマに睡眠魔術をかけて、ハジキンの睡眠弾の効果が切れても大丈夫な様に、しておいてやる」

 睡眠弾は竜巻自身が解除しなくても、六時間程度で効果が切れる。このまま和美を放置しておけば、和美は目覚めて、再び自殺しようとするに違いない。

 故に、睡眠弾の効果が切れる前に、或魔は和美に医療魔術に属する睡眠魔術を施し、暫く目覚めない様にするつもりなのだ。或魔の睡眠魔術は、効果が切れるまでの時間を、一ヶ月以内で自由に設定出来るのである。無論、或魔が解除したいと思えば、何時でも解除は可能である。

「この辺にある花火、処分するくらいなら、貰っていいか? ロケット花火や打ち上げ花火とか、ムカシノジブン対策で使いたいんだが」

 花火の棚の前にいた竜巻が、或魔に強請る。

「それは、構わないが……古い売れ残りのだし」

 返事をしながら、或魔は持ち運び用の大きな紙袋を、竜巻に手渡す。

「有難う、或魔! 愛してるよ!」

 受け取った紙袋一杯に、ロケット花火や打ち上げ花火を放り込む、竜巻の口調は気楽である。

「バカ! 大人をからかうな、ガキの癖に!」

 照れているのを誤魔化す様に、或魔は厳しい口調で、竜巻を叱る。

「本気だって言ってるじゃん! ムカシノジブンの一件を片付けたら、ご褒美にデートくらいしてよ!」

「正義のヒーローが、自分から褒美を強請るな!」

「だって、昔から或魔がくれるご褒美って、駄菓子とかオモチャとかばっかで、デートに誘ってくれたりしないじゃん。だから、俺の方から強請らないと……」

「昔からって……小学生の子供だったお前を、大人のあたしがデートに誘ったりしたら、そりゃ法律や条令に引っかかる、立派な犯罪行為だ! 誘う訳が無いだろッ!」

「大丈夫だよ、或魔は警察とかの大人には、見えないんだから。或魔は、逮捕されたりする心配は無いって」

「逮捕されるされないの問題じゃない! 常識的に考えろ、歳の差が犯罪レベルだというのに、子供のお前を大人のあたしが、デートになんか誘えるか!」

「でもまぁ、昔と違って俺は高校生だから、或魔もそんなに歳の差とか気にする必要は……って、おい! 何すんだよ?」

 或魔と話していた竜巻の腕を、いきなり音音が引っ張る。音音の表情は、不愉快そうである。

「これから、やらなくちゃいけない事があるんだから、無駄話なんてしてないで、急ぐのだ!」

 有無を言わせぬ口調で、音音は竜巻を引き摺り、店の外に引きずり出して行く。

「それじゃ或魔さん、また明日なのだ!」

「ムカシノジブンが片付いたら、デートな! 約束だよ、或魔!」

 そう言い残すと、音音に引き摺られた竜巻は、店外に姿を消す。

「全く、相変わらず騒がしい連中だ」

 三人がダマシヤから出て行ったのを見届けた或魔は、苦笑いを浮かべながら、呟く。静けさを取り戻したダマシヤの中で、その呟きに応える者はいない。

 ふと、胸の中に開いた穴を、秋風が吹き抜けるかの様な寂しさを、或魔は覚える。一人きりでダマシヤにいるのは、何時もの事だというのに、久し振りに人との賑やかな会話を楽しんだ後だと、寂しさを感じる自分を、抑え切れない。

 そんな自分に情けなさを感じたのだろう、或魔は肩を竦めて自嘲しつつ、開け放たれたままのドアを閉めると、店内の照明を落として和室に戻る。和美に睡眠魔術を、施す為に。


 微風が街の空気を程好く混ぜる、九月一日の夜、ダマシヤを後にした二時間後の午後九時半、竜巻達は広いグラウンドの隣にある、自転車置き場にいた。

「この辺りなら、監視魔術の魔術式とか、仕掛けられていないだろう」

 水銀灯と月明かりだけが光源の、暗くて人気の無い自転車置き場で、辺りを見回しながら、そう言ったのは竜巻。自転車置き場があるのは、顕幽市の南側に隣接する、顕現市(けんげんし)にある顕現北中学校である。

 これから、ムカシノジブンの被害を減らす目的で、とりあえず出来る事をやる為、竜巻達は変身する必要が有るのだが、顕幽市は監視用の魔術式だらけなので、顕幽市で変身すれば、敵の魔術師に正体を知られるリスクが高い。それ故、竜巻達は変身の為に、顕現市を訪れたのだ。

 更に、人気の無い中学校の校庭に来る前に、竜巻達は顕現市のネットカフェに寄って、ムカシノジブン関連情報を投稿する機能付きの、放課後ヴィジランテスのウェブサイトを開設した。無論、目的はムカシノジブン関連情報収集の為である。

 携帯電話でもサイトは開設出来るのだが、なるべく匿名に近い形で、竜巻はサイトを開設したかった。だから、竜巻は会員制でなく、通りすがりの個人が個人情報を残さず利用出来る、ネットカフェを使用したのだ。

「じゃ、変身するとしますか」

 竜巻は自転車置き場の脇にある、広い通路に出ると、後ろのポケットから財布を取り出し、中から左手で或魔に借りたヴリルカードを引き抜くと、財布だけをポケットに戻す。更に、ポケットから右手でジェットファイアを取り出し、グリップを握る。

 そして、左手でヴリルカードを宙に放り投げる。落ち葉の様に舞い下りつつ巨大化し、扉の様に変化したカードに、ジェットファイアの銃口を突き付け、引き金を引く。

 そして、ヴリルの扉を開く為の、シンプルな呪文を口にする。

「開け! ヴリルの扉!」

 本来、ヴリルカードは宙に放り投げ、呪文を唱えるだけで、ヴリルの扉は開いて、カードを所持する者は、ヴリルの力を得た超人としての姿に変身出来る。だが、ヴリルを身体に取り込んでの変身は、精神状態の影響を受け易いので、ヴリルカードだけで変身を行うと、変身が不安定になり、姿や能力が安定しない為、行動や戦闘に支障をきたす可能性が高い。

 それ故、ヴリルカードを所持する者は、鍵と呼ばれる自分が大好きな特定の種類のガジェットを使い、変身時にヴリルカードに触れさせる事により、精神状態を安定化させ、変身自体を安定化させる場合が多い。

 要するに、鍵を使えば毎回、同様の姿と能力の超人に、変身が可能なのだ。つまり、竜巻がガンブラットに変身する為の鍵が、拳銃関連のガジェットなのである。

 ちなみに、引き金を引く必要は無いのだが、竜巻は気分が出るからという理由で、毎回引き金を引く。エアソフトガンが打ち出すBB弾程度で、ヴリルカードは傷付いたりしない。

 音音と純一も、竜巻に続いて変身を開始する。取り出したヴリルカードを左手で宙に放り、それぞれにとって大好きなガジェットである鍵、純一の場合は占いの道具であるタロットカードを、猫好きの音音の場合は、何等かの猫グッズ……今回は携帯電話に付けてある招き猫のストラップを、落下しつつ扉の様に巨大化したヴリルカードに突き付けつつ、呪文を口にする。

「開け! ヴリルの扉!」

 すると、三枚の扉に姿を変えたヴリルカードは、中央から開く。開いた扉から、黄金色に輝く光の粒子群……ヴリルが、シャワーの様に溢れ出し、竜巻達に降り注ぐ。

 ほんの数秒で、引き寄せられるヴリルの量は限界を超え、扉は砕け散って白い灰の様な粒子群となり、更に粒子群は集まり、白いカードへと姿を変える。同時に、竜巻達を覆い尽くしていた黄金色の光の粒子群が、爆発音と共に飛び散り、変身を終えた竜巻達が姿を現す。

「電光石火のガンブラット、只今参上!」

 ダークスーツに赤のドミノマスクという、ガンブラットとしての姿で現れた竜巻は、ホルスターから二挺の拳銃を抜くと、ジャグラーの様に弄んでから、ファイティングポーズを取る。

 電光石火という名乗り文句は、ヴリルカードで超人となった者の中でも、素早さが抜きん出ている事から、自分をイメージする言葉として、竜巻が自分で選んだのである。ちなみに、別に四字熟語を名乗る必要など無いのだが、ヴリルカードを使い始めた頃に、竜巻達の仲間内で、妙に四字熟語が流行っていたので、皆が変身の際、自分をイメージする四字熟語を、名乗り文句の中に入れてしまったのだ。

奇奇怪怪(ききかいかい)のタロッティア、此処に推参!」

 純一が変身の名乗りを上げつつ、手にした黄色いタロットカードを、カードマジシャンの如き見事な手付きで、シャッフルする。変身後の格好は、如何にも胡散臭い魔法使い風のローブ姿であり、顔はローブなどのコスチュームと同じ、黄色いドミノマスクで隠している。

 タロッティアとは、タロットのマニアを意味する造語である(ロケットのマニアを、ロケッティアと略すのと同様)。タロット占いを得意としていた、小学生時代の純一が、正義のヒーローとしての自分の名に、タロッティアを選んだのだった。

 武器は名称と格好から想像出来る通り、魔術の力が込められたタロットカード。このタロットカードは、攻撃用の武器でありながら、色々と不思議な現象を引き起こす効果があるので、不思議である事を意味する奇奇怪怪という四字熟語を、純一は名乗り文句に入れたのだ。

猫耳佳人(ねこみみかじん)猫姫(ねこひめ)なのだっ!」

 変身を終えた音音が名乗りを上げつつ、両手を猫の前足の様に構え、ポーズを決める。ポーズや猫姫という名前だけでなく、変身した姿自体が、猫と人間の女性が合わさった感じの、アニメやゲームなどに出て来る、いわゆる猫耳少女の様な姿に変わっている。

 猫の耳の様だった癖毛は、本物の猫耳となり、身体は髪の毛と同じ色……黒い全身タイツ風のコスチュームに、包まれている。大柄な黒猫風の猫耳少女といったイメージである為、猫姫と自分で名付けた、変身後の音音の顔は、黒いドミノマスクで隠されている。

 名乗り文句に入れている猫耳佳人とは、猫耳の美人を意味する。無論、音音が創作した四字熟語である。変身後の自分に相応しい四字熟語を思い付かなかった音音は、自分で勝手に四字熟語を作ってしまったのだ。

 陸上だけならガンブラット以上の素早さを誇る猫姫は、野生的な身体が発揮する、強烈無比なパワーと、刃物以上に鋭い爪を駆使する、接近戦タイプの超人である。同世代の人間において、最高レベルと言っていい音音の運動能力は、変身した際でも抜きん出ている。

「行くぜ!」

 全員が変身し終えたのを確認した竜巻は、出発の号令をかけると、ひらりと宙に舞い上がり、一気に高度二百メートル程の高さまで急上昇する。夜空は夜風が強く、ダークスーツの袖や裾がはためき、髪が乱れる。

 後を追って宙に舞った音音と純一は、竜巻を先頭として、三角形の編隊を組むと、顕幽市がある北の空に向かって、飛び去って行く。星々が煌めく、夜空を。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ