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22 そもそも何でお前は、ヴリルカードを持ってるんだ?

「――でも、そもそも何でお前は、ヴリルカードを持ってるんだ? 前に貸してたのは返して貰った筈だし、おいそれと手に入る代物では無い筈なのに」

「或魔は知らないだろうけど、俺……或魔が顕幽市を去った後、親父の転勤のせいで、すぐに引越したんだ」

 手渡されたヴリルカードを財布に仕舞いながら、竜巻は答えを返す。真面目に好意を表した話を、強引に打ち切られたのが納得行かず、少しだけ不満そうな顔付きで。

「その引越し先の街でも、色々と傍迷惑な超常現象が続いて、インコグニートのメンバーが派遣されてたんだけど、そいつに協力した時に借りてたヴリルカードを返しそびれて、そのまま持ってるだけの話さ」

 インコグニート……魔術などに関わるトラブルを、人知れず解決し隠蔽する、秘密結社にして魔術結社。ダマシヤの主である或魔も、インコグニートのメンバーである。

 もっとも、或魔の場合は、過去に犯した魔術業界における大犯罪に対する罰として、その身に呪いを受けた上で、無理矢理協力させられているのが、そうなった経緯らしいのだが。

 ヴリルカードは、インコグニートが過去に開発した魔術道具である。インコグニートは常時人材難といえる状況な為、問題を解決する意志の有る一般人の協力が必須。

 そんな協力者に、魔術師に匹敵する問題解決の為の力(要するに、戦闘能力)を得させる道具こそが、ヴリルカードなのである。

「ハジキンは引越し先でも、正義のヒーローやってたの?」

 音音の問いに、竜巻は頷く。

「こっちに戻って来る直前まで、正義のヒーローやってたよ。野暮な事情があって、ガンブラットって名前は、使ってなかったけどね」

「顕幽市に戻って来る前に、引越し先に派遣されていたインコグニートのメンバーは、お前にヴリルカードを返却させなかったのか? 問題が片付いたのなら、ヴリルカードを貸したインコグニートのメンバーには、ヴリルカードを回収する義務がある筈だが?」

「最後のトラブル解決する時に、あいつ行方不明になっちゃったのよ、どっか別の世界に飛ばされたらしくて。だから、返却出来ないで……俺が持ったままになってる」

 魔術業界では至宝と言える程のレア・アイテムであるヴリルカードは、インコグニートのメンバー自身が、託す相手を慎重に選び出し、自分と選んだ相手である協力者以外の者に、ヴリルカードが渡る状況を、阻止する義務がある。それ故、問題解決の最中にインコグニートのメンバーが死亡したり行方不明になると、ヴリルカードは協力者の手元に残される。

 そうなった場合でも、ヴリルカードを悪用しない、強い正義感の持ち主しか、協力者として選んではいけないのだ、インコグニートのメンバーは。

「ま、行方不明になっただけで、死んだ訳じゃないから、その内また会えるさ。こいつは、その時そいつに返すよ」

 財布の中から取り出した、或魔ではない、他のインコグニートのメンバーに借りたままになっている方の、ヴリルカードを眺める竜巻の表情は、複雑である、懐かしさと苦さ……そして切なさの入り混じった感じの。

(生きてるよな、あいつなら……)

 三年の間、共に活動した若きインコグニートのメンバーの顔を思い出しながら、竜巻は感傷に浸る。音音や純一達に劣らぬ程、濃い時間を共に過ごした者の、無事を祈る。

「そのヴリルカード貸してくれた人って、女の人?」

 竜巻の表情の変化から、気になる何かを読み取ったのだろう、音音が訝しげな、少し厳しい目付きで、問いかけてくる。

「――分からない」

「分からないって、何でなのだ?」

「男にも女にもなれる奴だったんだ、そいつ。一応、学校では男子として通ってたけど、本当の性別は、最後まで確かな事は分からなかった」

「男にも女にもなれるって、インコグニートって、そんな変な人がいるの?」

「もっと変なのが、沢山いる」

 或魔は音音の問いに答えつつ、視線を音音の後ろに寝かされている和美に移す。

「ところで、メモリマはどうするんだ? 親御さんが心配するかもしれないが、状況が状況だけに、あたしが預かった方が良いと思うんだが」

 会話を交わしている間に、時間は子供は家に帰るべき、夜の時間帯に突入している。ムカシノジブンに侵食され、意識を失わされている和美をどうするかも、決めなければならない。

(確かに、家に戻すと何かあった時、すぐに対処出来ないから、ダマシヤで預かって貰った方が在り難いな)

 そう考えた竜巻は、和美を或魔に預ける事にする。

「メモリマの家族は心配するだろうし、警察に捜索願とか出されるかもしれないけど、どうするのだ?」

「一日や二日で片付くなら、友達の家に泊まってる事にして、誤魔化した方がいいだろうけど、今の所は解決まで、何時までかかるか分からない」

 様々な要素を考慮し、竜巻は決断を下す。

「心配させる事になっても、事実を伝えておいた方がいいと思うから、後でメモリマのケータイ使って、本当の事を伝えておく」

 和美の携帯電話を使うのは、その方がメールに説得力を持たせられるだろうから。今でなく後で連絡するのは、この場で連絡を入れると、警察に連絡された場合、電話会社を通じて発信記録が調べられ、基地局の位置からダマシヤの場所が、探し当てられてしまうからである。

「それで、これから俺達はどうするんだ、ハジキン?」

 純一は竜巻に、問いかける。

「今からでも、やれる事は始めたいし、明日からは学校をサボってでも、黄昏の街探しをしたい所なんだが……」

 そう言いながら、竜巻は機嫌を窺う様に、或魔に目線を送る。純一や音音も竜巻同様に、或魔の様子を窺う。

「幾ら世の為人の為とはいえ、ヴリルカードを貸与した協力者は、学校や仕事をサボる事は許されない。それがインコグニートの掟だからね」

 厳しい口調で、或魔は言い切る。インコグニートはヴリルカードを貸与された協力者が、例え正義を為す活動の為とはいえ、通常の仕事や学校を休む事を許さないという掟がある。

 掟の理由は、単に仕事や学業を休むのが、人として良くないからではない。仕事や学校を休んで正義のヒーローとしての活動を行うと、正義のヒーローの正体……シークレット・アイデンティティを暴かれ易いからだ。

 正義のヒーローとして活躍している時、何故か何時もいなくなる人がいる。その事に疑問を持つ者が現れ、正義のヒーローのシークレット・アイデンティティが暴かれてしまうというエピソードは、正義のヒーロー物の娯楽作品などで、定番のエピソードといえる。

 シークレット・アイデンティティを暴かれると、変身していない只の人間の時に、悪人の襲撃を受けて、協力者が危険に晒されたり、ヴリルカードを盗まれたりするリスクが高まる。それ故、正義のヒーローやヒロイン的な活動をする協力者には、シークレット・アイデンティティが暴かれる可能性を下げる為、活動の為に仕事や学校を休まない義務が、課せられるのだ。

 竜巻達が小学生時代に、正義のヒーローとして活動していた時も、学校を休まないように、活動時間は休日や放課後だけに限られていた。その結果、竜巻達には何時しか、自分達が名乗った訳ではない、五人グループとしての名前が、顕幽市の人々によって付けられたのである。

「今回も活動時間は、休日と放課後以降の時間帯だけか……」

 或魔の言葉を聞いた竜巻は、残念そうな口調で続ける。

「ま、俺達は放課後のヒーローチーム……放課後ヴィジランテスだから、活動時間がそうなっちまうのは、仕方が無いな」

 竜巻の言葉に、純一と音音が相槌を打つ。二人共掟を覚えていたので、自分達の活動時間が今回も限られるのは、想定済みであった。

 スーパーヒーロー達が行う、正義の為の活動の事を、アメリカンコミックスなどでは、ヴィジランテ活動(ヴィジランテは自警団員という意味)と定義している。顕幽市でヴィジランテ活動をしていた竜巻達は、放課後の時間帯に活躍する事が多かった為、ヴィジランテ活動という言葉を知っていた誰かが、五人をまとめて、放課後ヴィジランテス(ヴィジランテの複数形)と呼び始め、その呼び名が都市伝説として普及した為、グループ名を決めていなかった竜巻達も、自分達のグループ名として採用したのだ。

「三人なのは、ちょいとばかり寂しいが」

 一度は財布にしまったヴリルカードを、竜巻は素早く取り出す。そして、竜巻は右手でちゃぶ台の上に、ヴリルカードを差し出す。

 純一と音音も竜巻同様に、右手で持ったヴリルカードを、ちゃぶ台の上に差し出す。三枚の至宝……ヴリルカードが、レトロなちゃぶ台の上で重なり合う。

「放課後ヴィジランテス……正義の為に復活って事で、ヨロシク!」

「ヨロシク!」

 音音と純一が、声を揃えて竜巻の声に応える。ここに、顕幽市における正義のヒーロー&ヒロインチーム、放課後ヴィジランテスが復活を遂げたのだ。まだ、三人だけではあるのだが。

 放課後ヴィジランテスの復活劇を、或魔は黙って見守っていた。懐かしげで、嬉しげな微笑を浮かべながら……。



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