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18 俺が……じゃなくって、俺達だろ

 夕焼け空から舞い下りて来る、烏の如き黒い影。和美を抱き抱えた竜巻が、磐座公園にいる音音達の元に、戻って来たのだ。

 竜巻の腕の中にいる和美は、悪い夢でも見てうなされているかの様に、眉間に皺を寄せた苦しげな表情で、目を閉じている。

「――空を飛んでる途中でも、『死なせて!』とか言いながら、暴れるんでな。拳銃を睡眠弾モードにして撃って、眠らせておいた」

 ガンブラットと化している竜巻の武器である二挺の拳銃は、様々なモードに機能を切り替え可能な、多機能拳銃。空中で暴れる和美を、そのままにしておくと危険なので、人間を眠らせる効果がある、睡眠弾を撃つ睡眠弾モードにして、竜巻は和美を撃ち、強制的に眠らせたのだ。

 突如、竜巻の全身が変身した時の様に、黄金色の光に包まれる。直後、変身時同様に黄金色の光の粒子群は、炸裂する打ち上げ花火の様に、竜巻の周囲に飛び散る。光の中から姿を現したのは、ガンブラットとしてではない、元の姿の竜巻。

 竜巻は変身を、解除したのだ。変身を解除すると、変身時には発揮出来た強力な腕力が、使えなくなる。変身時は軽々と抱き抱えられた和美の身体の体重が、ずしりと竜巻の腕と身体にかかったので、竜巻は足を踏ん張り、腕に力を込める。

(しょ……小学生の体重じゃねぇ! 育ち過ぎだよ、メモリマ!)

 心の中で、和美の体重に対する文句を漏らす竜巻に、心配そうな和美が問いかける。

「メモリマ、大丈夫なの?」

「眠っているだけだ。ムカシノジブンを見た人間は、どういう訳だか知らないが、自殺したくなるらしいから、眠らせておけば自殺は出来ないし、とりあえず大丈夫だと思う」

 竜巻の言葉に、音音と純一は安堵する。

「だけど、ずっと眠らせたままにしておく訳には、いかないだろ。これから、どうするんだ?」

 純一の問いに、和美との電話の内容を思い出しながら、竜巻は返事をする。

「メモリマがこうなった以上、ダマシヤは顕幽市に来てると考えて間違い無いし、メモリマの電話によれば、風街の東端にある風森の中に、ダマシヤらしき店があるって話だ」

「――つまり、ダマシヤにメモリマを連れて行くのか?」

 竜巻は、純一の問いに頷く。

「或魔なら、ムカシノジブンが何なのかって事も、ムカシノジブンに出会ったら、どうすれば助かるかって事も、知ってるかもしれないだろ。だから、とりあえずダマシヤがあるらしい場所に行こう」

 音音と純一は竜巻の言葉に頷き、同意する。

「こんな目にメモリマが遭ったのは、俺のせいだ。俺がダマシヤ探しを頼まなかったら、メモリマはチョコビルになんて、行かなかったんだから……」

 自責の念を覚えつつ、和美を見下ろしながら、竜巻は眠れる和美に、語りかける。

「眠って待ってろよ、俺が絶対に助けてやるからな!」

「俺が……じゃなくって、俺達だろ」

 自転車の鍵を解除しながらの、純一の言葉。

「そうだな、俺達で助けるんだ。メモリマも……そして、これからムカシノジブンに出会ってしまうかもしれない、顕幽市の人々を」

 抱き抱えていた和美を、自転車に乗る為に背負いながら、竜巻は言い切る。だが、意識の無い状態の重たい和美を、背負って自転車を運転するのは、結構骨である。しかも、只でさえ二人乗りには向かない、MTBなのだから。

 自転車を上手く漕ぎ出せない様子の竜巻を見て、音音は竜巻の背中から、和美を奪い取る。

「ハジキンより、ニャーコの方が力あるから、メモリマはニャーコが運ぶのだ」

 軽々と和美を背負い、自転車に跨ると、音音は何も背負っていないかの様に、普通に自転車を漕いで走り出す。スタミナやパワーにおいては、音音は圧倒的に竜巻……というより通常の高校生男子を上回るのだから、そうなるのは当たり前なのだが。

(多少、男としてマズイ気がしないでもないが、まぁ……ニャーコだから仕方無いか。昔から、俺より力も体力もあったからなぁ)

 男としてのプライドが微妙に傷付いてしまった竜巻は、溜息を吐きながら、夕焼け空を眺める。すると、チョコビルの姿が竜巻の目に映る。

(チョコビルの屋上に行って、風森のどの辺りにダマシヤらしき建物があるのか確かめてから、風森に行った方がいいかも……)

 そう考えた竜巻は、双眼鏡を取り出して、チョコビルの屋上の様子を調べる。チョコビルの屋上には、警察官らしき人達が蠢いていて、立ち入り禁止である事を示す黄色いテープを、屋上に張り巡らせている最中だった。

(こりゃ、立ち入り出来そうにないな)

 予想より早い警察の動きを目にした竜巻は、チョコビルの他に、風森を見渡せそうなビルを探す。だが、チョコビル以外のビルは、余り高く無い為、目的を果たせそうに無い。

「風森の中を地道に探すしか、無さそうだ」

 双眼鏡をポケットに戻しながら、残念そうに呟くと、竜巻は音音の後を追う様に、自転車を漕ぎ出す。ダマシヤがあるらしい、風街の東端に向かう為に。

 竜巻達は、心地良い風が吹き抜ける磐座公園を後にすると、木々に囲まれた坂道を、皆で下り始める。既に空の半分程が夜に侵食されつつある、黄昏時の空の下を。



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