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15 磐座公園

 空に響くのは、烏の鳴き声。磐座山の森に帰る途中なのだろう、朱に染まり始めた空を、編隊を組んで飛ぶ烏の群れが、竜巻達の上を飛び越えて行く。

 場所は磐座公園、磐座山の麓に広がる森の手前にある、サッカー場程の広さの公園だ。麓とはいえ、顕幽市の街並よりは高い所にあるので、見晴台の様になっている公園の端からは、顕幽市全域が見渡せる。

 時間は午後六時十五分、風街の各所を徘徊し、ダマシヤを探し回った挙句、結局は探し出せなかった竜巻は、待ち合わせの場を訪れていたのだ。ほぼ同時刻に磐座公園に来た純一と共に、竜巻は朱色に染まった顕幽市の街並を眺めていた。

(昔も、確か夕焼けの街並を、こうしてみんなで眺めたもんだな。昔より……あちこちに高い建物が、増えてるけど)

 田畑や森……自然公園など、緑が多い顕幽市が、田舎という程では無いが、都会というには程遠い状態なのは、昔と変わらない。だが、主に商業地区を中心に、昔より高い建物の数は、確実に増えている。開発と縁遠い風街でも、商業地区だけは景色が微妙に変わっている。

「風街に、あんな高いビル無かったもんなぁ。あれは確か、メモリマに探して貰ってる辺りか」

 風街の北東にある商業地区には、高くても五階くらいの商業ビルが並んでいるのだが、一棟だけ倍程の高さがあるビルがある。夕焼けに染まっているので、今は色が確認出来ないが、風街に来る途中で、焦げ茶色っぽい色合いのビルだったのを、竜巻は視認している。

「チョコビルって呼ばれてるんだ、窓のデザインのせいで、板チョコっぽい感じに見えるから」

 純一の言葉に、竜巻は頷く。そのビルは確かに、板チョコに見えるデザインだった。

「天津甕高校は、あの辺りかな」

 自分が通う事になった高校を、竜巻は景色の中から探し出す。久し振りに見る顕幽市の景色である為、目線を泳がせて天津甕学園を探す竜巻に、純一がアドバイスする。

「天津甕の敷地内にある教師用の寮から、白い気球が上がってるから、気球見付け出せば、その下にあるよ、天津甕高校」

「あ、ホントだ」

 白い気球を探し出した竜巻は、下にある天津甕高校を、あっさり見付けだす。一度見付けてしまえば、見付からなかったのが不思議な程、天津甕高校は大きな施設である。

 顕幽市の東側にある広大な森……東の森の手前に、天津甕高校はあるのだ。

「でも、何で天津甕高校の教師用の寮、気球なんて上げてるんだ?」

「科学の先生が自分で作った、高い空の気象状態を観測する、気球なんだって。授業で使うつもりらしいのを、とりあえず寮で実験として上げてるとかで」

「ああ、ラジオゾンデ(気象観測用気球)か。結構大きいんだな、人とか運べそうじゃん」

 突如、悲鳴の様なブレーキ音が終わると同時に、音音の明るい声が、公園に響く。

「二人共、もう来てたんだー!」

 二人から十分程遅れて、音音が磐座公園に着いたのである。

「結局は俺達の誰も、見付けられなかった訳ね」

 竜巻の言葉に、二人は頷く。携帯電話で定期的に連絡を取り合いながら、風街中を探していたので、誰もダマシヤを見つけ出していないのは、皆が知っている。再会した和美がダマシヤ探しに参加しているのも、既に情報として共有されている。

「後はメモリマだけか。あいつにも六時までに見付からなかったら、此処に集まる様に、さっきメール送っておいたんだけどな」

 携帯電話をポケットから取り出し、竜巻は和美に電話をかけてみる。そろそろ小学生は家に帰るべき時間帯なので、まだ探している様なら探すのを止めて、帰宅するなり公園に来る様に言うつもりで、電話をかけたのである。

 呼び出し音は瞬時に途切れ、和美は電話に出た。

「あ、ハジキン! ダマシヤらしい変な店が、最近出来たって情報、つかんだよ!」

 明るいトーンの和美の声が、スピーカーから響いて来る。

「ホントか? それ、何処だ?」

「いや、まだ正確な場所は分からないだ。さっきトイレ借りに立ち寄った本屋で、去年までクラスが一緒だった友達に、久し振りに会ったんだけど、その子から聞いた話だから」

「どんな話だ?」

「その子、チョコビルって呼ばれてる、風街のビルにある塾に通ってるんだけど、休み時間に屋上で、磐座山の麓……風街の東端にある風森(かぜもり)を眺めてたら、前には無かった建物が、森の中にあるの見つけたんだって」

(チョコビルって、あれか!)

 夕日に照らされた巨大な板チョコの如き、チョコビルに竜巻は目線を送る。純一と音音に、和美の話の概要を、手短に伝えながら。

「風森の中か……風森の手前は通ったんだけど、中までは見なかったのだ」

 その辺りを探す担当であった音音が、口惜しげに呟く。小学校や住宅街の更に向こうにある森……風森の手前まで、音音は探していたのだが、風森の中までは確認しなかったのである。

 以前、ダマシヤが霞の森の手前に店を開いていた為、ダマシヤは風森の手前に店を開く事はあっても、風森の奥に店を開きはしないだろうと、音音は思い込んでしまっていたのだ。

「今、チョコビルの屋上にいるんだ。風森の中に行く前に、チョコビルの屋上から、本当にダマシヤみたいな建物があるかどうか、確認してみようと思って。いわゆる、事前調査って奴」

 ダマシヤらしき存在の情報が見付かった為、竜巻達は興奮気味である。

「今、磐座山の方見てるんだけど、えーっと……どの辺りかな? 多分……ん?」

 突如、電話の向こうにいる和美の口調が、変化する。

「どうした?」

 気になった竜巻は、和美に問いかける。

「いや、何か後ろから……誰かが肩を叩いたんで……何か用?」

 何か用というのは、和美が自分の肩を叩いた相手に、尋ねた言葉である。

「え? 何? 嘘? そんな、だって……何で?」

 声を上擦らせながら、戸惑い混乱した和美の問いかけが、携帯電話越しに竜巻の耳に届く。

「あたしがいる、むかしのあたしが! これって、いわゆる……」

 意味が理解出来る言葉は此処で終わり、続くのはスピーカーが震える程の悲鳴。驚きに恐怖、そして絶望と混乱の入り混じった、まさに声にならない叫び声を残して、通話は途切れる。

「どうした、メモリマ? 何があった?」

 異様な通話内容に驚き、竜巻は大声で訊き返す。だが、既に通話が途切れているので、その問いは和美に届かない。

(むかしのあたし……とか言ってたな。ダマシヤらしき店が、見付かったかもしれないって事は、ムカシノジブンが実在する可能性が、飛躍的に高まったって事だ!)

 和美がいる筈の、夕日の中に佇むチョコビルを眺めながら、竜巻は情報を整理する。

(そして、今は夕方……夕暮れ時。ムカシノジブンは夕暮れ時に起こる、超常現象)

 出揃った情報から導き出される答えは、一つである。竜巻は、その答えを口にする。

「メモリマの奴、ムカシノジブンに出会ったみたいだ!」

 焦り気味の竜巻の表情を見れば、純一と音音には、その言葉が冗談では無いと、すぐに分かる。三人の間の空気が、凍り付く。



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