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11 森間和美

 店内から微かに電子音が響いて来る、水色に塗装された三階建てのビルの一階部分が、ウインディ・シティである。電子音が響いて来る店外には、自転車やバイクが並んでいる。

(バイクが妙に多いけど、客層が変わったのかな?)

 以前はバイクなど並んでいない、子供向けのゲームセンターだった、ウインディ・シティの店頭に並ぶバイクを目にした竜巻は、そう心の中で呟きながら、半透明で飴色のドアを開ける。ドアを開けたせいで、これまで微かにしか聞こえなかった電子音やゲームの音楽が、大きな音で聞こえ始める。

 うるさいなと思いながら、竜巻は店内に足を踏み入れる。目に映るのは、薄暗い店内で怪しげな光を放つ、多数のビデオゲームのモニターと、制服姿の中高生達。

(うわ、やっぱ客層変わってるわ)

 小学生が多かった昔と違い、中高生や大学生などが、客の大部分を占めている。しかも、如何にも素行が悪そうな、不良っぽい外見の少年が多い。

 高校生達は、制服がワイシャツに黒のパンツである事から、公立の顕幽高校の生徒達だろうと、竜巻は推測する。

(何つーか、ガラ悪そうな奴ばっかだな。子供出入りしてるのか、ここ?)

 目的が果たせるかどうか微妙だなと、竜巻は思う。だが、来た以上は一応、店内を確認しておこうと、竜巻は店内を巡り始める。

 ビデオゲームコーナーにメダルゲームのコーナー、そしてクレーンゲームのコーナーなどを巡るが、ダマシヤに関する情報を得ていそうな、小学生以下の子供の姿は目に入らない。中高生から大学生……社会人と思われる客ばかりである。

(駄目だ、小学生以下のガキはいないみたいだ)

 ウインディ・シティで、情報源になりそうな子供は見付からないと判断した竜巻は、入って来たドアに向かって歩き始める。だが、竜巻は大型筐体のゲームの前で、魅入られた様に立ち止まる。

 拳銃型のコントローラー……いわゆるガンコンでプレイする、一人称視点のシューティングゲーム、デスペラード・ファイブがドア付近に設置されていたのである。ガンコンで遊べる事から、竜巻にとっては好みのゲームだったのだ。

 モニターに「GAME ОⅤER」と表示され、プレイしていた少女が舌打ちをした直後。遊ぼうと思えば、すぐに遊べる状況。

(せっかく来たんだから、一回くらい遊んで行くか。ここ、一ゲーム五十円で安いし)

 竜巻はポケットから五十円玉を取り出すと、デスペラード・ファイブの前に行き、五十円玉を投入する。先程までプレイしていた、竜巻と背の高さや服装が、何処か似ている感じの少女が握っていた為、生暖かいガンコンを右手で握ると、左手でスタートボタンを押す。

 テンポの速い、派手なラテン系のBGMが、スピーカーを震わせながら、流れ始める。モニターに表示されるのは、夜の街中を徘徊する、洒落たスーツに身を包んだ犯罪組織のメンバー達。

 刑事として、犯罪組織のメンバー達を倒すというテーマのシューティングゲーム。竜巻は見事なガンコン捌きで、次々と敵を倒し続ける。

「凄いな、この台の設定は最高難易度なのに、ここまでノーミスかよ……」

 先程までプレイしていた少女が、感嘆の声を漏らす。そして、興味を持ったのだろう、竜巻の顔を覗き込む。

 プレイし続ける竜巻の顔を、少しの間眺め続けていた少女は、目を見開く。何かに気付いたかの様に。

「まさか、この人……」

 少女が驚きの表情を浮かべて呟いた直後、竜巻はラスボスを倒し終える。結局、ノーミスで最後までクリアしてしまったのだ。

 プレイヤーを祝福するメッセージの後、スタッフロールに切り替わったモニターを満足げに眺めてから、竜巻はガンコンをホルダーに戻して、ゲーム機の前を後にしようとする。だが、ドアに向かって歩き出そうとした竜巻は、いきなり左手を掴まれる。

 驚いて振り返る竜巻の視界に映るのは、迷彩のショートパンツに黒のタンクトップ、カーキ色のアーミーキャップという、竜巻とファッションセンスが似過ぎている少女。竜巻の前に、デスペラード・ファイブをプレイしていた少女だ。

 口元をもぐもぐと動かしているのは、ガムを噛んでいるからだろう。明るい栗色の髪を、長めのボブにしている、胸が豊かな少女である。

(狐みたいだな……)

 目尻が吊り上がっている目と、髪の色の印象から、そういう印象を竜巻は受ける。同時に、豊かな胸に少しだけ見蕩れるが、すぐに目線を逸らす。

 少女は嬉しそうな顔で、引き止めた竜巻に身体と顔を寄せ、囁く。

「君って……ガンブラットのハジキンだよね? いわゆる、正義のヒーローの正体って奴」

 自分の徒名だけでなく、ガンブラットという別の名を、いきなり少女に呼ばれ、竜巻はインターネットでエロサイトを巡った時の履歴を、母親につきつけられた時の様な、衝撃を受ける。ごく親しい友人や仲間以外には知られていない筈の別の名を、見知らぬ少女が知っていた事に、竜巻は驚いたのだ。

「そのガンさばきに、迷彩好きのファッションセンス。少し女顔の顔立ち……会うのは三年半振りだけど、すぐに分かったよ!」

 少女の方は竜巻の正体に気付いているのだが、竜巻は少女の顔を知らない。

(ガンブラットの正体が俺だなんて、知ってる奴は余りいない筈なんだが……誰だ、こいつ?)

 ガンブラットと呼ばれる者の正体が常時竜巻だと知る、数少ない人間を、竜巻は頭の中でリストアップしてみる。しかし、目の前で微笑んでいる少女の外見は、その誰とも繋がらない。

「あー、あたしが誰だか分からないんでしょ? ひどいな、忘れちゃうなんて」

 拗ねた様な……それでいて甘える様な口調で、少女は竜巻を責める。

(同い年くらいだよな、この子……いや、胸を見る限り年上かも。これくらいの歳で、俺がガンブラットだって知ってる奴に、こんな感じの子はいない筈だけど)

 思い悩む竜巻に、いきなり怒鳴り声が飛んでくる。

「てめぇ、オレの女に、コナかけてるんじゃねえよ!」

 声の主はビデオゲームコーナーから、雄牛の如き勢いで、竜巻と少女の元に駆けて来る。黒いパンツに白いワイシャツという、顕幽高校の制服と同様の構成であるが、胸ポケットにプリントされてる校章から、顕幽東中学の生徒だと分かる、竜巻より少し背が高い少年である。

 茶髪のオールバックに胸元に光るネックレス、着崩した制服という、古い少年漫画に出て来る感じの、オールドファッションな不良っぽい少年は、勢い良く竜巻に食って掛かる。

「見ない顔の奴だが……オレの女に手を出そうとは、いい度胸してるじゃねえか!」

「――見た目だけでなく、話す事まで古臭い不良だな。君……こんなのと付き合ってんの?」

 竜巻に問われた少女は、ぶんぶんと音が出そうな程、激しく首を横に振る。

「そいつが勝手に、言ってるだけ! 付き合う気なんて無いから断ったのに、しつこく言い寄って来てんの、そいつ! いわゆる、勘違いしてるストーカー予備軍って奴」

「だってさ。君の女じゃないみたいだが?」

「うるせえな! こいつはまだ小学生だから、オレみたいな男の良さが分からねーのさ! でも、あと何年かすれば、オレの良さが分かって、オレの女になる予定なんだッ! だから今から予約入れてるんだよ!」

 少女は茶髪の少年を睨みつけつつ、怒鳴り返す。

「そんな予約、勝手に入れるなッ! キャンセルだキャンセルッ!」

 二人の会話を聞いていた竜巻は、会話の中で明らかになった、一つの事実に驚く。その事実とは、目の前にいる少女が、小学生だという事。

「その身体と胸で……小学生? 嘘だろ?」

 自分と同い年、もしくは微妙に年上かもしれないと思い込んでいた相手が、小学生だと知り、竜巻は声を上擦らせてしまう。無論、目線を少女の胸に送りながら。

「――さっきも胸、盗み見してたでしょ! ハジキンのエッチ!」

 腕を組んで胸を隠し、少女は顔を赤らめる。

「お前、小学生の胸を盗み見てたのか? とんでもない変態だな! 何中だよ?」

 茶髪の少年は憤りつつ、竜巻を問い詰める。

「小学生の女の子を、オレの女になる予定に入れるお前にだけは、変態呼ばわりされたくないわ! それと、俺は中学生じゃなくて高校一年だ!」

 強い口調で竜巻に言い返され、茶髪の少年は少し怯むが、負けずに言い返す。

「高校生が、小学六年生の女の子ナンパするなよ、ド変態!」

「ナンパなんぞしとらんわ! そもそも、声をかけられたのは、俺の方なんだからな!」

「声かけられたって……和美(かずみ)、お前まさか逆ナンしたのか?」

 茶髪の少年は狼狽しつつ、少女に問いかける。

「あたしが逆ナンなんて、する訳ねーだろッ! 元から知ってる人に、久し振りに会ったから、声をかけただけだ! いわゆる、再会の喜びに、思わず声をかけたって奴!」

 声を荒げる少女の横顔を見ながら、竜巻は考え込む。

(小学六年生って事は、引っ越す前は小学二年生で、名前は和美……)

 それらの条件を満たし、尚且つ、ガンブラットを名乗る者の正体が、竜巻自身であると知る人間の顔と名前、そして徒名が頭に浮かんで来る。

「和美って……お前、まさかメモリマか!」

 驚きの声を、竜巻は上げる。何故なら、記憶の中にあるメモリマこと、森間(もりま)和美の外見が、全く目の前にいる少女と、重ならなかったからである。唯一、面影を残しているといえるのは、吊り目である事くらいだろう。

 徒名を竜巻に呼ばれた和美は、嬉しそうに頷く。

「覚えてはいてくれたんだ、メモリマってあだ名も。まぁ、メモリマはハジキンが付けたあだ名だから、忘れちゃってたとしたら、それは無責任過ぎるけど」

 ドジで物覚えが悪かった和美は、小学校低学年の頃、大事な事を忘れない様に、常にメモ帳とペンを持ち歩き、何かとメモ帳にメモする癖があったのだ。その事から、竜巻は和美に、メモリ魔……メモリマという徒名を付けたのである。

「いや、そりゃ覚えてるよ。覚えてるけど……昔を覚えてるだけに、むしろ今のお前を見ても、お前だとは分からないって!」

 小学二年生の頃の和美は、同じ年頃の女の子と比べても小柄で、発育が悪い方だった。髪は当然の様に黒く、全体的に地味で大人しい印象の女の子だったのだ。

 それが、ワイルドで発育が良過ぎる少女に育っていたのだから、竜巻が和美だと気付かないのも、無理は無い。

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