10 阿佐田志摩夫と風街
ファンタジックなイラストに飾られた、小さなビニールパックの封を切る、少年の表情は真剣である。残暑には暑苦しい、ソフトなリーゼントスタイルに、いわゆるボンタンと呼ばれるタイプの、裾が窄まっている学生服のズボンを穿いた少年は、ビニールパックの中から、五枚のカードを取り出し、広げて絵柄を確認すると、がっくりと肩を落とす。
「まーた雑魚だらけ……二十パック買ったのに、一枚もレアカードが出ねぇでやんの」
割と優男の部類には入るが、目付きが悪い少年が手にしているのは、流行のトレーディングカードゲーム。不良っぽい外見の少年が、トレーディングカードを手にして沈んでいる光景は、見る者にかなりの違和感を感じさせる。
「まーた似合わない事やってんのな、シマオ」
違和感を感じてしまった少年が、トレーディングカードゲームを手にしている少年……阿佐田志摩夫に、声をかける。志摩夫に声をかけた、髪を金色に染め上げている少年も、不良っぽい外見である。
二人共、高校の帰りなのだろう、ワイシャツに黒のパンツという、夏用の制服姿。場所は薄暗く古臭いゲームセンター……ウインディ・シティの中。始業式が終わった後、二人は仲間が集まるゲームセンターに、立ち寄ったのだ。
ビデオゲーム機が数十台並ぶ店内の、出入り口であるドア付近にある売店のカウンターには、様々なトレーディングカードゲームが並んでいる。そのカウンターの前で、志摩夫は肩を落としているのである。
「その格好で、ガキやオタク向けのカードゲームに、はまってるんだから」
「仕方無いだろ、好きなんだよ、こういうの」
志摩夫はビニールパックをゴミ箱に捨て、カードをカウンター上に置いてあった、黒い鞄の中に放り込む。
「レアなカードが出るか出ないか分からない、スリルが堪らなく楽しいのよ」
「シマオって、ギャンブルで身を持ち崩すタイプだな」
呆れ顔で、金髪の少年は呟く。
「――そうかもな、親父がそうだったし」
自嘲気味の笑みを浮かべながら、志摩夫は続ける。
「メダルゲームの方、言ってくるわ」
そう言い残すと、志摩夫は店の二階にある、スロットマシーン風のメダルゲームコーナーに向かう。
「そういえば、あいつの両親……ギャンブル原因で別れたんだっけ。まずい話の振り方しちまったかなぁ」
気まずそうに頭を掻きながら、金髪の少年は店の奥にある軽食コーナーに向かう。
国道を越えると、風が吹き始める。残暑厳しい午後、身体から熱を奪ってくれる風は、竜巻達にとって心地良い。
(風街に入ったんだな)
四年前と余り変わらない、古びた街並みを眺めながら、竜巻は感慨に耽る。顕幽市の中心から離れている為、風街は商業地区以外は、余り再開発が進んでいないのだ。
迷彩塗装された竜巻の自転車……MTBは、景色から少し浮いている。音音と純一の自転車……いわゆるママチャリの方が、古びた街並みには似合っていた。
「昭和の街並みのままなんだよ、風街は。懐かしくて……嫌いじゃない」
昔、或魔が言った言葉を、竜巻は思い出してみる。竜巻自身は昭和という時代を生きてはいないので、或魔の言葉の意味を、感覚としては理解出来ずにいる。
住宅街を通り抜け、緑が波打つ畑が見える十字路に辿り着いた竜巻は、自転車を停める。
「ここからは、別れて探そう。俺は直進して、磐座山の麓の方を探す。ニャーコは左折して、畑と風街小学校の方を頼む。ノロイチは右折して、商店街と住宅街の方を」
自転車を一時停止させた二人は、竜巻の言葉に頷く。
「見付けたり、何か連絡したい事があるなら、すぐにケータイで連絡。後は……午後六時までに見付からなかったら、磐座公園に集合な」
ポケットから、カードケースに似た折り畳み式の双眼鏡を取り出しながら、竜巻は続ける。
「あそこは見晴台みたいに、街が見渡せるから、双眼鏡使えば、街中を探せるかもしれないし」
竜巻は双眼鏡をポケットにしまうと、自転車をスタートさせ、十字路を直進して行く。ちなみに、山の麓には悪路が多いので、MTBに乗る自分が、直進する道を選んだのだ。
音音と純一も、それぞれの担当する方向に向かい、自転車をスタートさせる。ダマシヤを探す為に……。
風に身体を洗われながら、畑に挟まれた道を進んでいる内に、再び街並が見えてくる。地味な色合いのマッチ箱の様な住宅が、立ち並ぶ住宅街の近くに、少し派手な色合いの街並がある。
色とりどりの看板に飾られた商店街、風街商店街である。
「そういえば、あそこにウインディ・シティってゲームセンターあったよな。ガキの頃、磐座山に行った帰りとか、結構寄った事があったっけ」
風街商店街にあった、ゲームセンターの存在を思い出しながら、竜巻は呟き続ける。
「あそこ……ガキとか結構出入りしてたし、寄ってみるか。妙な駄菓子屋が最近出来たみたいな感じの、ダマシヤに関する噂……ガキから聞きだせるかもしれないし」
ダマシヤは一応、駄菓子屋としても営業している為、小学生以下の子供が、存在に気付く可能性が高い。中高生以上は駄菓子屋とは縁を切るのが普通なので、それ以下のガキ……子供の方が、ダマシヤの存在に気付いて、情報を持ってる可能性が高いと、竜巻は考えたのだ。
ウインディ・シティに立ち寄る事を決めた竜巻は、風街商店街に向け、走り続ける。




