6話
なにやら柔らかな感触。なんだこれ?
とりあえず、その気持ちいい感触をより深く味わうためにスリスリしてみる。
「キャッ!」
女の子の声?
ゴン
「痛ぇ!!」
どうした?何でいきなり頭に激痛が走るんだ?
「悪い悪い、意識は戻った?」
涙の滲む目を開けてみると目の前にイケメンの顔が。
気分が悪い。
どうやら、俺はこの男に膝枕をされていたらしい。
気持ちが悪い。
「なんでイケメン?」
本当、なんで世界にはイケメンなんているのだろうか?
そしてなんで俺はイケメンじゃないのだろう?
別に今の顔が嫌いな訳じゃない。親がくれた大切な顔だしな。それに、ギャルゲーの主人公達は決してイケメンではないじゃないか。それでもアレだけモテるんだ、俺だってモテるに違いない。頑張れ俺、負けるな俺。
「記憶が錯乱してるのか?
君は僕を助けた後、アーツの使いすぎで倒れたんだよ。」
そうだ、思い出した。ツイン牙突と牙突の乱用で限界まで疲弊しちまったんだな。まだ体のあちこちが痛い。
「これ、飲んで。」
そう言って男は回復薬を俺に渡してくる。ガラス管のようなものに入ったそれを俺は飲み干した。
俺の回復薬はもう残っていない。一昨日のオーク二体と闘った時に最後の一本を使ってしまったからだ。
「助かった。」
イケメンにもしっかり御礼を言う俺、さすがだ。
「別に構わないよ。
訊いてもいいかな?」
「なんだ?」
「何で、オーク三体を倒せるくらい強いのに初期装備のままなの?」
そうだった。俺は町の場所が分からなくて遭難中だったんだ。
「迷ってしまいまして、三日前から町に帰れていないんですよ。できれば町の場所を教えてくれませんか?」
下手に下手にでる。イケメンにも丁寧に話せる俺、さすがだ。
「ごめん、僕もオークに教われて、帰り道が分からないんだ。」
…………え?
町の場所が分からない?
「ふざけんな!!」
叫んだ。こんな酷いことが世の中にあっていいのだろうか、いやよくない。
「だから、僕だってなりたくて迷子になっているわけじゃないんだよ!!」
くそっ、これで帰れると思ったのに。振り出しじゃないか。それにイケメンなんかに下手に出たのも無駄になっちまった。
さて、この役立たずどうしてくれよう。
俺は女の子には優しいが男には厳しいんだ。特にイケメンには超厳しい。
「おまえ、名前は?」
「如月 夜宵だけど。」
夜宵か、ふむ俺の失望の責任をとってもらうしかないな。
「夜宵、確認だけど、おまえは俺に命を助けられたわけだよな?」
「う、うん。」
「つまり、おまえは俺に恩があるということだな?」
「そ、そうだね。」
よしよし、言質をとった。さて、夜宵をどうしてやろうか。
→仲間にする
しばき倒す
これは困った。イケメンだからしばき倒してやるのも魅力的だ。だが、今の俺には味方がいない。ここは仲間にしてやるのが上策か。
いや、待て。一つ重要な確認事項があった。
「夜宵、重要なことをきくぞ。」
「どうぞ。」
「おまえ、彼女いるか?」
「……え?
そんな神妙な顔で訊くのがそれ!?」
当たり前だ。寧ろこれ以上大切な質問がこの状況では見当たらない。
「いるのか?」
「い、いないけど。」
「ふぅ、合格だ。おまえは今日から俺のギルドに入ってもらう。」
良かった、醜い争いにならなくて。
「なんで!?」
「俺は夜宵、おまえの命の恩人だ。よっておまえに拒否権などない。」
男には厳しいよ。半分くらいは嫉妬心からきているんだけど。彼女がいなくたってイケメンの存在自体が罪なんだから仕方ない。
「分かった。なんか脅されているみたいで嫌だけど、僕もそろそろ、ソロでの活動に限界を感じてたから丁度良いかな。」
「俺の名前は神崎 柳牙だ。よろしくな、奴隷一号。」
「いやだよ!!
地位の向上を要求する。」
え、何が気にくわないの?
イケメンは俺にかしずくものだろう。何故かって?
もちろん、イケメンだからだ。何だよ、その中性的な顔。女も羨むような白い肌。魅惑のアルトボイス。
……やっぱりシバくか。
「イケメンに人権はないと思うんだ。」
「僻みかよ!!」
そうだよ、僻みだよ悪いか!!
「イケメンに人権はないと思うんだ。」
大切なことなので二度いいました。
「そこまで、柳牙も悪い顔じゃないと思うよ?」
「そ、そうか?」
俺、顔を褒められたの初めてかも。いや、これくらいでイケメンへの偏見は消えないぞ。
「よく見ると凛々しい顔立ちをしているしね。」
「…………。」
嬉しくなんかないよ?
別にイケメンなんかに褒められたって俺の心には1ナノメートルも届きません。
「それに僕を救ってくれた優しいところもあるしね。」
「俺の事は相棒と呼んでくれ、親友。」
お、男にしかもイケメンに口説かれてしまった。
でも仕方ないじゃん俺、優しい言葉なんてかけて貰ったことないんだもん!!
「ハハハ、柳牙いや、相棒は面白いね。」
くそ、笑顔が眩しいぜ。
まぁ、これで念願のギルドメンバーは見つかった訳だし、(男でイケメンだけどね!!)悪いことばかりじゃなかったな。
「因みに、僕に彼女がいた場合どうなったの?」
「世の中から尊い命が一つ消え去った。」
「顔が真剣過ぎて怖いよ?」
もちろん。冗談ではありませんから。
「いつまでも仲良くやりたいもんだな、相棒。」
「………そうだね。」