5話
俺のテンションは下がりまくっていた。当たり前だ。何だよ男って、何であんなややこしい悲鳴をあげてるんだよ、勘違いさせてんじゃねぇ!!
「でも、これで帰れるか。」
そうだよ、女の子でこそないけど、これで町には帰れる。なら男だけど、総合的にみれば喜ばしいことじゃないか。
だが、男の置かれている状況はかなり深刻だ。オーク四体に囲まれている。しかも男は足を怪我している(この世界では怪我などをすると、一定時間のバットステータスとして動きが鈍くなる)ようで、逃げるに逃げられないらしい。
「おりゃあ!!」
不意打ちでオークに【牙突】を喰らわす。
「グへッ」
オークが吹っ飛んだ。俺の【牙突】の破壊力は今となっては岩くらいなら粉砕できる程になっている。
不意打ちの【牙突】はクリティカルヒット判定となり、オークのHPを一撃で削りきった。
「助かった。」
イケメンに御礼を言われた。何ともいえない優越感だ。
「一体は頼んだ。」
残りは三体。一体を受け持ってもらえば、俺の負担は二体。それなら何とか勝てる。
「すまない、弾切れなんだ。」
男の武器は二丁拳銃のようだ。弾切れということはつまり、闘力0と考えていい。
「ふざけんな!!」
思わず言いたくもなる。一人でオークを三体?無理があるわ!!
「俺だって、弾切れになりたくてなったわけじゃないんだよ!!」
「っち。」
ともかく、無事に町に帰る為にはこの状況をどうにかしなくては。
オークの攻撃は単調で、オークの持つ棍棒でこちらを殴りつけてくるだけ。だが、とにかく威力が高いため、避けられなければ一撃でHPの半分はもっていかれる。
「やるしかねぇか。」
いつまでもオークがこちらを待っていてくれる訳はない。殺らなきゃ、殺られる。
一気にオーク一体との距離をつめ、その足の脛を目掛けて跳び蹴りを繰り出す。もちろんそれで倒せるとは思っていない。だが、オークは脛を強打された激痛でしばらく縮こまっている。これで数秒は稼げる筈だ。
「オー!!」
もう一体のオークが俺に棍棒を振り下ろす。それを避けてカウンター気味に【牙突】を喰らわす。オークのHPが半分以上削れた。
「げっ!!」
アーツ使用後には僅かだが隙ができる。その僅かな隙がこういう命のやりとりの場では命取りとなる。今までは、一体を脛蹴りで悶絶させ、その隙にもう一体を倒していたから問題なかった。
だが、今は更にもう一体オークが存在する。
もちろん、そのオークが俺の隙を見過ごしてくれる訳もなく………。
「ぎゃーーー!!」
棍棒で吹っ飛ばされた。超痛い。HPを見てみるとやはり半分以上が消えている。
「し、死ぬ。」
今なら俺だけなら逃げられるんじゃね?
そうだよ、命あっての物種だ。もう少し待てばこの男以外の人間も来る筈。ならそいつに道を訊けばいい。だが、そうすると男は確実に死ぬ。足を怪我している状況でオーク三体からは逃げ切れまい。
「どうする?」
痛みでボーっとしている頭で考える。
あいつは男だ。しかもイケメンだ。見捨てても良いのでは?
もし、今いるのが女の子なら迷うことなく命を張って助けるんだけどな。
さて、どうする?
→男を助ける
男を見捨てる
「あー!!くそっ!!」
いくら男でも見捨てたら後味悪いだろうが!!
「牙突!!」
俺を棍棒で殴ったオークに急接近。
「両手バージョン!!」
本当は片手で放つ筈の掌底を両手で放つ。それは見事にオークの脇腹に当たり、オークをぶっ飛ばした。そして、そのオークは最初に俺が牙突を放ったオークに衝突する。おかげで、俺はアーツ使用後の隙を突かれずにに済んだ。
計算通り。嘘です、偶々です。でも運も実力のうちさ。
両手牙突を受けたオークは他のオークと衝突した後にHPを0にし消滅した。
「しんどいわ。」
両手で牙突、ツイン牙突とでも言おうか。これは当たり前だが牙突の二倍、いやそれ以上の体力を消耗する。無理やり行使するのだから当然だ。
おそらく、ツイン牙突は後一回しか打てないだろう。
最初に脛を蹴ってやったオークが痛みを乗り越えたのか、俺の方に走ってくる。ぶつかられたオークはまだ大勢を立て直していない。
「長期戦は不利か。」
もう体力が残っていない。ならば即行でけりをつけるしかない。
「ツイン牙突!!」
オークの棍棒をぎりぎり避けて、両手で牙突を放つ。最後のツイン牙突。
オークはHPを0にしくたばった。
「はぁはぁ。」
もう一歩も動けない。なのにオークはまだ一体残っている。
「む、無理ゲーだ。」
ぐったりした俺を見て静かに近付いてくるオーク。その顔は心なしか笑っているように見えた。
ウゼー。
「こっちだよ、この凡骨!!」
思わぬチャンス。役立たずだったイケメン男がオークに石を投げて気を引いてくれた。苛ついたように男に近づいていくオーク。
「牙突!!」
もう一歩も動けないような体が無理やりアーツによって動かされる。もし、オークがこちらに注意を向けていたら簡単に迎撃されるような安直な動きで、オークに接近し、掌底を放った。もともと俺の牙突を一発受けてHPを半分にしていたそいつは、背後から放たれた俺の牙突に抵抗する間もなくもう半分のHPを削られた。
「ガーーー!!!!」
最後のオークが消えるのと同時に俺の意識は深い闇へと沈んだ。