川沿いの町、ファーゼ(2)
小さいながらも古い歴史を持つファーゼは、石工の職人たちが拓いた町だと伝えられている。
今でも町の北東に連なる山岳地から切り崩した良質の石材は町の重要な交易品であり、丘を2つゆっくりと上下しながら、石を運搬するためのトロッコレールが町まで続いている。
この2つの丘も昔はそれなりの高さを誇った岩山であったらしいが、今では見る影もないくらいになだらかで、今キャルロット達の歩いている小高い丘からだと視界を遮ることもなく向こうを見渡すことができる。
「 … ぃ」
「…ん?」
開けた景観と、足元の美しい配色の石畳を楽しんでいたキャルロット卿は、
何か聞こえた気がして後ろを振り返ったが、50歩ほど後ろに大きなリュックがごろんと落ちているだけだった。
「気のせいかな」
さらに10歩ほど歩いて赤褐色の石が綺麗に光っているのを見てから、はっと気付いて今度は素早く後ろを振り返った。
「ガリバァっ、、!ゴホッ、、ゴホ…」
久しぶりに大声を出そうとしたせいか、声は喉に引っかかるように音をたて、激しくせき込んでしまった。
「ゼハァ…、、ガリバー君、そこにいるのかね!」
やや声を抑えてもう一度叫ぶと、くぐもった、呻くような声がリュック(正確にはリュックの下からだろうが)から聞こえてきた。
「せ … せぃ」
どうやら生きてはいるらしい。
キャルロット卿は一度大きく息を吸って呼吸を整え、
やや歩調を緩めて、しゃべるリュックに近づいていった。
急いで駆け寄ることよりどうやってあれを動かすかのほうがずっと重要だろう。
落ち着いてみれば、リュックの脇にはちょうどキャルロット卿の腰の高さ位の岩が横たわっている。
「ついてるなガリバー君…」
小さくひとりごちてから、今度こそシルクハットが落ちない程度に、急いでリュックへと向かった。