川沿いの町、ファーゼ
「ところでガリバー君、今は何時かね?」
キャルロット卿はカツカツと早足に歩きながら、後ろも振り返らずに訊いた。
長い立派な耳だけがクルリと、背後を歩くガリバーの方を向いている。
「ハァ、ハァ、えーと、、、ちょうど1時をまわったところです」
ガリバーと呼ばれた長身のキツネは息も絶えだえに答えた。
彼は背中に、背丈の倍ほどもある大きな荷を抱えていた。載せられていると言った方が適切かもしれない。
少しでもバランスを崩すと、荷物に潰されて二度と立ち上がれそうにない。
「ハァ、ハァ、先生も、ハァ、腕時計にしたらどうですか」
ガリバーは前を行く背中に向かって非難の声を上げる。今は腕を上げて時計を見るのも一苦労なのだ。
「バカ者、ウサギは懐中時計と昔から決まっておる」
「じゃあ、たまにはご自分の時計を使ってくださいよ。ハァ、ちゃんと動いているのでしょう?」
「見て分からんのか、ワシの右手はステッキでふさがっておるだろうが」
「左手があるじゃないですか!」
「時計は左の胸ポケットに入っている。左手では取り出しにくいのだよガリバー君」
痩躯の老ウサギ、キャルロット卿は自慢のシルクハットの位置を直しながら、楽しげに答えた。
「ふむ、ちょうど良い時間帯かな。ほれ、見えてきたぞ、あの町じゃ」
顔を上げると、丘を下りきったあたりに、川沿いの小さな町が見えた。
目算であと4、5キロといったところだろうか。
「ハァ、ハァ、先生、少し休憩しましょう。町はあんなに近いんです。急ぐこともないでしょう」
「バカ者、市場が閉まったら君の背中の荷物を売れないだろう。それを売らないと今夜の宿代も危ういぞ」
「先生があんなに高いニンジンをあんなに買うからですよ!なんでニンジンがあんなに高いんですか。ハァ、ハァ、信じられない」
「キツネの君には分からないかもしれんが、あの地方のニンジンは特別なのだよ。あの芳醇な香り、まるで無数の花々を束ねたブーケのようだった。お金が貯まったら是非また行こう」
「どうせまた僕が山のようにニンジンを背負わされるんでしょう。二度とご免ですよ。ハァ、だいたい、これだってこんなに採って来る必要あったんですか?売れ残ったらまた次の町まで僕が担がなきゃならないんですよ?」
「丈夫さだけが君の取り柄だろう。弱音を吐くでない。それに心配しなくてもカミナリ茸は需要がある。10グリラ程度で売れば飛ぶように売れるさ」
「本当ですか?あと先生、この間は、君の取り柄は目がいいことだって言ってましたよ」
「ヒトは常に変わっていくのだよ、ガリバー君。さあ、諦めてキビキビと歩きたまえ」
「もう限界ですよー…」
ウサギとキツネが丘の石畳の道をカツカツと、ゼィゼィと、町へ向かって歩いて行く。
遅筆ですので、続きを読んでくださる方は気長にお待ちください。
申し訳ありません。